TBS=グルメ フジ=笑い テレ朝=知的…土日戦略で王者・日テレは何を選んだのか

土日戦略で王者・日テレは何を選んだのか(時事通信フォト)

 今、民放テレビ4 局の編成における“土日戦略”に明確な違いが出てきているという。各局の戦略とそれぞれの狙いとは? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

【写真】TBS、フジ、テレ朝、日テレ各局の土日戦略に選ばれた番組は

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 ネットコンテンツを楽しむことが定着し、「テレビ番組もTVerで見る」という人が増え続ける中、「新聞やテレビ誌の番組表を見る機会がかなり減った」という人が多いのではないでしょうか。

 しかし、今春の番組改編を経た今、あらためて番組表に注目してみると、1つのはっきりとした傾向に気づかされます。その傾向とは、民放主要4局の“土日戦略”。日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビの戦略がわかりやすく色分けされ、各局の狙いが鮮明になった感があるのです。
 では、各局はどのように色分けされ、それぞれどんな狙いがあり、どんな未来が推察されるのでしょうか。

コロナ前に戦略を固めたテレビ朝日

 最初にピックアップしたいのはテレビ朝日。

 土曜はまず2015年春に『池上彰のニュースそうだったのか!!』を20時台でスタートし、2019年秋に『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』を19時台でスタート。一方、日曜は2018年秋に『ナニコレ珍百景』を19時台、『ポツンと一軒家』を20時台で同時期にスタートしました。また、土日ともに2017年春から『サタデーステーション』『サンデーステーション』(一時期夕方に移動)を21時台に放送しています。

 これらの共通点は“知的好奇心”をくすぐる番組であること。報道やバラエティなど「ジャンルは異なっても、何らかの学びを得られる番組」を編成している様子がうかがえます。

 次に近年、明確な方向性を打ち出していたのがフジテレビ。

 土曜はまず2018年秋に『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』を20時台でスタートし、2021年秋に19時台へ移動させ、空いた20時台で『新しいカギ』をスタート。一方、日曜は2022年春に『千鳥の鬼レンチャン』を20時台、2023年春に『千鳥のクセスゴ!』を19時台、『まつもtoなかい』を21時台でスタート(今年2月『だれかtoなかい』に改題)しました。また、2022年秋から土曜18時台で『イタズラジャーニー』もスタートしています。

 これらの共通点は“笑い”。クイズの『99人の壁』、スポーツの『ジャンクSPORTS』、旅の『もしもツアーズ』などから、よりお笑い要素の濃い番組に変えたことがわかるのではないでしょうか。

 テレビ朝日はコロナ前から、フジテレビはコロナ後に土日戦略を固めた様子がうかがえます。

王者・日テレが思い切った戦略変更

 TBSは今春の編成によって戦略が完成したような感があります。

 土曜はまず2013年冬に『ジョブチューン』を20時台でスタートし、当初は各業界のプロフェッショナルを招いたトークバラエティでしたが、徐々にグルメをフィーチャーした構成に変更。さらに2023年春に金曜20時台で放送していた『熱狂マニアさん!』を19時台に移動させ、今春から『世の中なんでもHOWマッチ いくらかわかる金?』を21時台でスタートさせました。一方、日曜は2018年春から『坂上&指原のつぶれない店』、2020年春から『バナナマンのせっかくグルメ!!』を19時台と20時台で入れ替えながら放送し続けています。

 また、2022年秋から18時台に『ベスコングルメ』を放送していることも含めて、TBSの土日は“グルメ”で勝負。お金がテーマの新番組『いくらかわかる金?』もメイン企画はグルメであり、近年『世界ふしぎ発見!』や『炎の体育会TV』が終了したことを踏まえても戦略を一本化している様子がうかがえます。

 そして、最もスポンサー収入を得られるコア層(13~49歳)の個人視聴率で他局の追随を許さない王者・日本テレビは今春、土曜の編成を思い切って変更しました。

 19時台は2020年秋から動物番組の『嗚呼!!みんなの動物園』(当初は『I LOVE みんなのどうぶつ園』)を放送していますが、今春から20時台に音楽番組の『with MUSIC』、21時台にドラマ枠をスタートしました。一方、日曜は長年『ザ!鉄腕!DASH!!』『世界の果てまでイッテQ!』『行列のできる相談所』を放送しています。

 土曜は19時台が『天才!志村どうぶつ園』から続く動物番組の流れを継続していますが、20時台は19年半放送した『世界一受けたい授業』、21時台はアイドル・嵐が長年メインを務めた『嵐にしやがれ』『全国ご当地ニュースバラエティー SHOWチャンネル』を終了させました。

 これによって日本テレビの土曜夜は、“動物→音楽→ドラマ”という異なるジャンルの番組が続く編成に一変。また、もともと日曜の3番組も、自然、海外ロケ、トークとテーマの異なるバラエティを並べる編成であり、「それぞれのジャンルやテーマで質の高い番組を並べて飽きさせない」という土日戦略がうかがえます。

安定、回帰、ゆるさ…狙いはさまざま

 ここまであげてきた民放主要4局の土日戦略を要約すると、いち早く戦略を固めたのがテレビ朝日の「知的好奇心」で、次にフジテレビが「笑い」で一本化。さらにTBSの「グルメ」は今春の新番組で完成したという感があります。

 そして今春、思い切って変えた日本テレビは「各ジャンルや各テーマのトップ番組をそろえる」という戦略を採用。ほぼ1つのテーマに絞る他局の逆を行くように、あえてジャンルやテーマの異なる番組をそろえるという戦略への変更に驚かされます。

 では、それぞれどんな狙いがあり、どんな未来が予想されるのか。

 まずテレビ朝日の“知的好奇心”は、全体の視聴率獲得を第一に考えた戦略。安定した数字が期待できる一方、「視聴者の中心は高齢層に偏りやすく、スポンサー収入に結びつきにくい」という課題は棚上げにされたままで、危うさを感じさせられます。

 次にフジテレビの“笑い”は、1980年代から続く同局の強みであり、原点回帰の戦略。千鳥の冠番組を日曜に2つ編成して一定の成果が出ているほか、『新しいカギ』の学校系企画が学生層やファミリー層の人気を得ています。同局としては、土日の“笑い”を平日にも広げることでかつての勢いを取り戻していきたいところでしょう。

 TBSの“グルメ”は昭和時代からテレビ業界の鉄板ジャンルでしたが、他局は平日夜や土日昼に放送される番組が多いだけに、土日の編成はそのスキを突くような印象。より多くの人々に見てもらえるチャンスがある土日は密度の濃い番組が多いだけに、気楽に見られるグルメ番組のゆるいムードは際立っている感があります。

求められ続けるブラッシュアップ

 そして、なぜ日テレは何らかのテーマに一本化せず、異なるジャンルやテーマの番組を並べるのか。

 今春、同局は「コア層の個人視聴率獲得」に加えて「配信再生数なども狙っていく」という戦略の見直しがあり、そこで音楽番組やドラマが浮上。音楽番組はネット上ではなかなか見られないライブ感の価値が高く、ドラマは配信再生数のランキング上位を占めるなどの強みを持っています。

 以前から日本テレビは最もマーケティングに長けていて、スポンサー収入につなげるのがうまいテレビ局。そんなマーケティング巧者の日本テレビが選んだ「ジャンルやテーマを絞るより、コア層に受けることを優先して番組を並べる」という戦略は的中するのか。「ジャンルやテーマを絞って並べることで続けて見てもらおう」という他3局とは真逆の戦略だけに、編成部の真価が問われることになりそうです。

 まずは「どちらの戦略が正解なのか」が問われ、不正解だったほうが戦略の見直しを余儀なくされるでしょう。ちなみに現時点では日本テレビの動物→音楽→ドラマという流れは結果や反響に結びついておらず、各番組のブラッシュアップが求められそうなムードが漂いはじめています。

 しかし、テレビ朝日の“知的好奇心”は「収入につながりづらい」ことが指摘され、TBSの“グルメ”は「低め安定」というきらいがあり、フジの“笑い”は「当たり外れが大きい」という課題があるのも事実。「不正解ではないが正解とも言えない」という状態が続きそうな感があり、けっきょくこちらも土日戦略の軸となる看板番組が誕生するまでブラッシュアップが求められていくのではないでしょうか。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

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