チェ・ミンシク、映画人生を振り返り「以前にも増して仕事を愛するようになった」『破墓/パミョ』ロングインタビュー

チェ・ミンシク、映画人生を振り返り「以前にも増して仕事を愛するようになった」『破墓/パミョ』ロングインタビュー

クランクイン! 写真:上野留加

 映画『シュリ』で高い評価を受け、『オールド・ボーイ』や『新しき世界』、ドラマ「カジノ」など数々の話題作に出演してきたチェ・ミンシク。このたび、10月18日より日本公開が始まった『破墓/パミョ』に“墓地を見る風水師”キム・サンドクという重要な役どころで主演している彼に、クランクイン!が独占インタビュー。刺激的な役を多く演じてきた姿からは想像もつかないお茶目な姿を見せつつこれまでの映画人生を振り返り、「更に頑張って作品に出たい」と今後への意欲もみせた。

◆「私のもともとの性格というのは、ラブストーリーに最も適しているんじゃないかと思うんです」


――公式には『春が来れば』以来、18年ぶりの来日だそうですが、その間に日本に来られたことはありましたか?

チェ・ミンシク(以下、チェ):日本には、その間にも家族と一緒においしいものを食べに来たりしているんです。今回の来日では、到着してすぐにイベントとインタビューがあったので、現時点ではまだどこにも行けていないんです。これからが楽しみです。

――舞台挨拶では指ハートを連発していて、お茶目な姿が日本のファンの印象に残ったのではないかと思います。チェ・ミンシクさんは、以前から指ハートをしたりする方だったんですか?

チェ:もともとそんな人だったんですよ。これまで演じてきた役がタフだったり刺激的だったりするものが多かったので、そういうイメージを浮かべる方が多いんですけど、心のなかは、綿菓子かアイスクリームかっていう感じなんです(笑)。

――そういう刺激的な役が多かったのは、チェ・ミンシクさんがご自身で選択してきたのでしょうか?

チェ:これはまったく私が意図してきたことではないんですね。作品として選んだときに惹かれて出演した作品の役がたまたまそうだっただけなんです。なので、刺激的な役も多いんですが、『春が来れば』という作品もそうですし、浅田次郎さんの短編小説『ラブ・レター』を映画化した『パイラン』という作品では、いつもの怖い姿とは違った役を演じているんです。

なので、常にひとつの型や役にこだわって表現をしようという風には思ってないんです。それに私のもともとの性格というのは、ラブストーリーに最も適しているんじゃないかと思うんですよ。

――ご自身では、どんなところでそう思われますか?

チェ:言葉では説明できないんですけど、私と一緒に過ごしてみればすぐにわかると思いますよ!

――確かに、今回の来日の様子を見たり、実際にインタビューをしたりしてみて、なんとなく伝わってきました。『破墓/パミョ』の撮影中も、皆さんと和気あいあいと過ごされたのでしょうか?

チェ:もちろんそうです。映画の撮影現場っていうのは本当に大変なんですね。肉体的にも精神的にも敏感になってしまいますし。私の仕事のスタイルとしても、撮影現場では、どんな感情も逃してはいけないと思って常に敏感になっているんですね。映画って順番通りに撮影できないこともあって、最後のシーンを最初に撮ったり、最初のシーンを最後に撮ったりとか、いろいろあるんです。撮影中の数ヵ月間は、そういうことをずっと頭の中で計算していなければならないので、なおさら集中力を途切らせるわけにはいかなくて大変なんですね。

でも、大変な現場ではあるんですけど、それを感情として外に出したり、苛立ちをぶつけたりするようなネガティブな状況になることは、決して作品のためにはなりません。ディテールにこだわって、繊細な感情を逃さずに演技をしないといけないんですけど、そんな中でも、撮影現場は気楽な気持ちでいられる場所でないといけないと思うんです。お互いに何でも話し合えるような、そんな雰囲気になるようにいつも意識しています。

◆チェ・ミンシク流、演技のスタイル「小雨に服が濡れているような状態」


――よく、俳優さんによって、本番に入る直前まで、ぜんぜん別のことをしていても、本番になると、急にスイッチが入る人がいたり、本番前には集中している人もいたりすると聞きます。チェ・ミンシクさんはどのようなタイプですか?

チェ:俳優さんによって各自のスタイルがありますね。私の場合は、撮影に入るまでは、「小雨に服が濡れているような状態」とでも言いましょうか、ずーっと役について考え続けてはいるんですね。

試験勉強みたいに、根を詰めて集中しているという感じではないんですが、頭の中で、ずっと考えが巡っている状態なんです。

この役は、なぜこんなことを言ったんだろうか、なぜあの人を殺してしまったんだろうか、なぜあの人を裏切ったんだろうか、この人は今までどんな人生を歩んできたんだろうか…などということをずっと考えています。

作品の中の出来事っていうのは架空の出来事ですよね。キャラクターもまた架空なんですけど、そのキャラクターを信じて演技をするためには、その人物を深く理解する必要があると思います。多くの人たちが想像するキャラクターと違うキャラクターを無理に演じようと思っているわけではないんですけど、細かいところを見逃してはいけないとも思います。

演じる人物のことを、この人はいい人だ、悪い人だと簡単に分けてしまったりすることはせずに、でも逃してはいけないことは逃さないように、そういうことが「小雨に服が濡れているような感じ」なんですけれども、ずっと考え続けて現場にいるんです。

どうしてこんな行動をしてしまったのか、どうしてこんな悲劇的な状況を招いてしまったのか、どうしてこの女性を愛しているのに、愛していると言えなかったのか…、そんなことを考え続けているんですけど、周りの人からすると、遊んでいるように見えているようです(笑)。

――今回の『破墓/パミョ』で演じた風水師のサンドクについては、「小雨に濡れているように」どんなことを考えていたのでしょうか?

チェ:まずは、サンドクという人物の平凡さに着眼点を置いたんですね。風水師というのは、映画の中にも出てきますけど、お墓を作るのに最適な場所を選んだり、この土地はどのような土地かということを見極めることができる人なんですね。

でも、私が演じた風水師は、達人ではあるけれど達人には見えないような、その辺の道端を歩いていて、ちょっとこの道を見てみましょうか、というような、そこらへんにいるおじさんのような感じにしたいと思ったんですね。

でも、そんな平凡さの中にも非凡さもある人物として表現したいとも思っていました。平凡には見えるけれど、自然のパワーも感じることができて、気の流れも見極めることができるという感じにも見えるように演じなければと思いました。

サンドクは、常に自然のことを研究していて、自然と人間について考えてきた人物なんです。で、このようなことは、一つの学問でもあり、哲学でもあると考えています。

朝鮮の風水では、『背山臨水』と言って、後ろに山があって、前に川があるところがいい土地だと言われているんです。これは、風水で言われているだけでなく、科学的にも言えることだと思うんです。

後ろに山があれば、木々があって実がなります。冬にはその木が冷たい北風を防いでもくれるでしょう。目の前に川があれば、畑や水田も作れますから、穀物を育てることができます。なので、後ろに山があって前に川があるということは、風水の上でいい土地でもあるけれど、それは人々が生きる中で得た教訓や知恵でもあると思います。

知恵であるということは、学問であり哲学なんです。そういう視点を持っているのがサンドクなわけで、その視線には深いものがあり、そういうところを逃さないようにと思いながら演じていました。

◆『シュリ』『新しき世界』を振り返って見つめなおす映画への愛


――日本で韓国映画が広く注目されたきっかけに、チェ・ミンシクさんも出演された1999年の『シュリ』があり、それからもう25年が経とうとしています。どんどん韓国映画は変化し、円熟しているように思えるのですが、チェ・ミンシクさんはどのようにお感じでしょうか?

チェ:韓国映画が変化してきたのはもう自然な流れだと思います。私はこれまで様々な作品に出演してきましたが、実は演技に関しても作品に関しても100%満足していますって言えるものはないんです。

でもそれが人生なんですよね。至らないのも私の人生ですし、そのためにベストを尽くして努力をするのも私の人生だと思っています。時間の流れの中には、デコボコとした部分もあって、それも自然の流れですし。でも、以前にもまして、私は自分の仕事を愛するようになりました。

なので、更に頑張って作品に出たいと思っています。ときどき道草はするかもしれないですけどね。

――チェ・ミンシクさんの人生のデコボコとした中のひとつに2013年の『新しき世界』もあるのではないかと思います。せっかくこうしてお話を聞ける機会も少ないので、このときに演じたカン・ヒョンチョル課長についても、どのように演じられていたのか教えてもらってもいいでしょうか?

チェ:『新しき世界』は、私の役よりも、イ・ジョンジェさんが演じたイ・ジャソンという役のほうが複雑だったんですよね。頭の中で地震が起こるくらい複雑な役でした。なので、ジョンジェさんが「ヒョン(お兄さん)、このキャラクターどうしたらいいんでしょうか?」ってよく聞きにこられていました。

私の演じたカン課長という役は、潜入捜査官であるジョンジェさんを操縦する役でしたよね。内心、申し訳ないと思ったり、葛藤したりしながらも、任務を遂行するために、私的な感情にとらわれないようにするような部分もありました。

その一方で、苦悩したり、むなしさを感じたりもしていました。そして、死を目の前にしたときに言うんですよね。「完全に勝ち目がない」と。カン課長というのは、生きている中で、手にたくさん豆ができるような経験をしてきた人だと思うんです。でも、そんな風に生きてきたからこそ、死を目前にしても余裕があったんじゃないかと思いますね。

もちろん私の役は複雑ではあったんですけど、でも、イ・ジョンジェさんの演じた役よりは、複雑じゃなかったと思いますね(笑)。

――最後になりますが、『破墓/パミョ』の中でここに注目してほしいというシーンについて教えてください。

チェ:何と言ってもお祓いをするシーンですね。キム・ゴウンさんが「テサルお祓い」というものをするシーンがあるんですけど、まさにハイライトと言えるシーンだと思います。キム・ゴウンさんは本当に努力を重ねて、俳優としては難しい選択だったと思うんですけど、勇敢に場面を表現してくれました。本当に何ヵ月にも渡って、本当に巫堂(ムーダン:霊に仕え、吉凶を占ったり、お告げをする事を職業とする人。主に女性を指す)の先生のところにいって教わっていたんですね。イ・ドヒョンさんも一緒に、太鼓を叩く練習をしていました。それは簡単なことではないと思います。映画の中で身体をピクっとさせるところもあるんですが、それは神が乗り移ってるということなんですね。そういうところまで表現しないといけないので、ディテールにこだわりながら演じていました。そこに注目していただきたいです。

(取材・文:西森路代 写真:上野留加)

 映画『破墓/パミョ』は公開中。

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