ナタリー・ポートマン演じる衝撃作にフェミニストスリラー。2024夏に見たい映画3選

夏休みの定番と言えばファミリー映画だが、今年の夏は女性映画の良作が3週連続で続々と公開されている。実際に起きた衝撃事件を彷彿とさせるものから、イギリスの女子高生を等身大に描くものまで、タイプは違えど、それぞれに興味深い3本、公開順にご紹介しよう。

『メイ・ディセンバー ゆれる真実』(7月12日公開)

女性を描かせたらピカイチのトッド・ヘインズ監督が、実話にインスパイアされた作品。

▲ナタリー・ポートマンとジュリアン・ムーア Photograph: Francois Duhamel

女優が、ある一家を訪ねるところから展開する。30代くらいの夫、夫よりだいぶ年上と思われる妻、そして子どもたちの一家だ。メイ・ディセンバーとは、メイ(5月)春が若い人、ディセンバー(12月)冬が老いた人を表し、年齢差カップルを指す。

女優が来たのは、自分が演じる妻を取材するため。映画化される一家は、知らない人がいないほど有名なのだ。一家の成り立ちが事件だったから。

実際に起こった事件を思い起こさずにはいられない。アメリカだけでなく、イギリスなどでも騒がれた事件なので、映画の前に事件の概要から説明しよう。

1996年、シアトル郊外の小学校に勤務する34歳の女性教師と12歳の男子生徒は、海沿いに停めた車の中にいるところを警官に見とがめられる。そのときは、生徒の母親が、担任教師であると証言したこともあり、それ以上の追及もなく終わる。

だが当時、夫と子どもと暮らしていた教師は、家族が出払ったあと、自宅でも少年との逢瀬を重ねていた。少年は13歳になっていたが、いずれにせよ、性の対象にしていい年齢ではない。

通報された教師は、判決を待つあいだに少年との子を出産、有罪判決を受けたが、二度と少年と会わないことなどを条件に短期で釈放された。だが、また少年と車の中にいるところを見つかり、1998年から2004年まで服役する。このときも、少年との2人目の子を妊娠していて、刑期中に出産、当時の夫とは離婚し、2005年に2人は結婚した。

本作は、実際の事件とは設定を変えている。教師と生徒ではなく、同じペットショップで働くうちに、そこで関係を持った2人とし、実際にはサモア人の男子生徒を、韓国系にしている。

設定を変えることで、事実とは違うと認識させつつ、実際の当事者たちの言葉をそのまま使ってもいる。印象的なのが、妻が夫に「誰がボス?」と詰め寄る場面だ。

結婚から10年ほど経った2人に、実際に行われたインタビュー中の言葉だ。逢瀬を重ねた当時について、妻は「誰がボス?」と夫に問う。

黙り込む夫に、繰り返し何度も同じ問いを投げかける妻、きつい調子ではなく、冗談めかしてはいるが、当時、主導したのは夫であると言わんばかりの物言いに、心がざわつく。

男性インタビュアーは「彼は13歳だったのですよ」と声を上げてしまうのだが、さて、本作の女優はどうするのか。

▲ナタリー・ポートマンとチャールズ・メルトン Photograph: Francois Duhamel

実際の夫婦は、2019年に離婚が成立し、その翌年、元女性教師はガンで亡くなった。前年に離婚してはいたが、元夫と子どもたちも、死に際には彼女に寄り添った。

本作で描かれるのは、女優が夫婦に関わっている期間のみだが、女優訪問で起こる波風が、実際に特殊な成り立ちのカップルはこういうものかもしれないと思わせ、本作を透かして、好奇の目にさらされ続ける当事者たちのことを考えさせる。

ナタリー・ポートマン(女優役)とジュリアン・ムーア(妻役)の共演も話題となった本作、ご両人はもちろん、夫役のチャールズ・メルトンも素晴らしい演技で、ニューヨーク、ロンドンなど各地批評家団体による助演男優賞など多数受賞している。

『HOW TO HAVE SEX』(7月19日公開)

イギリスの女子高生を等身大に描いた、モリ―・マニング・ウォーカー長編監督デビュー作。

▲ミア・マッケンナ=ブルース

イギリスからギリシャのクレタ島にやって来た女子3人組のホリデーを追う。バッチリお化粧して、派手なドレスに身を包み、クラブへと繰り出す姿はパリピそのものだが、その実、主人公はホリデーでのヴァージン卒業を目論むティーンエージャー、日本で言えば女子高生だ。

進路に影響する試験の結果に一喜一憂したり、男子グループとのあいだで、それぞれ誰をゲットするか、ちょっとしたつばぜり合いが繰り広げられもする。

ご当地イギリスでは、性的同意についても話題になった。女子がやんわりノーと言い続けているのに、男子に押し切られる場面に関してだ。同じ年頃の若い男女なので、男子にとっては成功したナンパ、女子にとっては黒歴史くらいになるのかもしれないが、権力のある男性と新人女性あたりなら、パワハラ、セクハラになりそうだ。

爽やか一辺倒ではなく、苦み、痛みもあるリアルな青春像だが、ティーンらしい伸びやかさで、後味は良い。マニング・ウォーカー監督と主演のミア・マッケンナ=ブルースが数々の映画賞を受賞している。

『ロイヤルホテル』(7月26日公開)

『アシスタント』で注目を集めたキティ・グリーン監督と、主演したジュリア・ガーナーが再タッグを組んだ作品。

▲ジュリア・ガーナーとジェシカ・ヘンウィッグ

『アシスタント』は、あるオフィスで女性社員が置かれた位置から、男社会をあぶりだす、小粒だがピリリと辛い作品だった。対する本作は、ジェシカ・ヘンウィッグを迎えてのW主演で、派手な場面もあり、中粒くらいになっている。

アメリカから来たバックパッカーのハンナ(ガーナ―)とリブ(ヘンウィッグ)は、オーストラリアでロイヤルホテルという名のパブで働きながら宿泊することになる。そのパブがヤバい。そして、そのヤバさが計りきれないのが怖い。

夜中にミシミシとパブ上階の宿泊所に上がって来るのは、単なる酔っ払いおじさんなのか、それともストーカー男なのか? くどきにかかってくるのは、ロマンチックな青年か、あるいは下半身に突き動かされた強引男か?

度の過ぎることもある酔っ払いとして、うまく相手をしていこうとするリブと、レイプされ殺されるくらいに恐れるハンナ、どちらが正解か? さらには、彼女たちを雇い、泊まる場所も提供したパブオーナーは善意の人か、悪の根源か?

女性が置かれた位置を考えさせるのは前作同様で、フェミニスト・スリラーとも呼ばれている。

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