とよた真帆「闘病する夫・青山真治の前で明るく振る舞うも、愛犬に見つからない場所で泣いたあの日。芸能活動40周年。やりたいことは今から始めなければ間に合わない」
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【写真】とよた真帆「(夫は)豪快で命を縮めるようなお酒の飲み方もしていたけれど、65歳までは生きようとしていたんだなあと。」
夫が抱えていた最大の悩み
芸能生活40年目の今年果たした歌手デビュー。
発表したアルバム『WILD FLOWER』は、2年半前に旅立った夫・青山真治が遺したシナリオ『東京酒場』が実現したときに使える歌、というコンセプトで作りました。とある音楽バーで繰り広げられる人生劇で、少し面白くてハードボイルドな内容です。
映画業界も、いろんな配信サービスが出てきてから、製作費が集められず、作品を撮ることが難しくなってきていました。生前の夫にとっての最大の悩みはそこにありました。
京都の大学で映画学を教える機会を頂いて、張り切って取り組んではいたのですが、やっぱり本業は映画監督。アイデアは沢山あるのに撮れない。だから自暴自棄になり、お酒に走ってしまう、ということはありました。
心配で何度も注意したんですけど、きいてくれなくて……。
『作りおき酢タマネギ&酢大豆おいしいレシピ』(主婦の友社、2015)という本を前に出しているのですが、これももともと青山のために考えた健康レシピをまとめた本でした。
愛犬の来ない場所で泣いて
たとえばYouTubeなどで自主製作した作品を発表することもできたはずだし、実際わたしが機材をそろえて「やってみたら」と勧めたこともあったんですよ。でも、やっぱり映画の現場を愛していたんでしょうね。
心臓で大病をし、集中治療室に入って生還したかと思ったらガンが見つかって……。
闘病は公表しませんでした。後で治ったときに「ガンでした」って言えばいいかな、って。
でも病状が厳しくなっていって、私に気を遣っていたのか、痛いとか辛いとかは一切言いませんでしたね。
コロナ禍の時期と重なり、思うように会えないこともありましたが、青山の前ではできるだけ明るく振る舞っていました。
やっぱり辛くて、家に帰って泣く、ということは何度もありましたが、愛犬ぱるるの前では泣けない。
犬も雰囲気を察知して、ストレスで毛が抜けてしまったりするんですよね。なので自宅のなかでぱるるに見つからない、泣ける場所を探したりしてました。
いよいよ、というとき、青山には「お世話になった方々への手紙を書いてほしい」と伝えたんです。でもそうしようとはしなかった。
自分の作品がある、それがすべてだから、と考えていたのかもしれません。
彼の遺したもの
57歳で亡くなりましたけれど、後になって「65歳までの人生プラン」が見つかって。どの作品をいつ撮るか、といった人生プランです。
豪快で命を縮めるようなお酒の飲み方もしていたけれど、65歳までは生きようとしていたんだなあ、と。
お墓は北九州市の生まれ故郷で、尊敬していたお父さん、お母さんと一緒の場所に今は眠っています。教員だったお父さんに、褒められたい一心で映画を撮っていた、というのもあったんですよ。
幸い、今も青山を慕って下さる方々はたくさんいらっしゃいます。
仕事部屋に残されていた膨大な書籍を、神保町(東京)のシェア型書店「猫の本棚」さんに昨年1月、青山真治文庫として寄贈しました。
青山作品、そして映画に関心のある方に手に取っていただきたい、引き継いでもらいたい、と考えての事でしたが、もうかなり売れてしまったようで有難いことです。
そして彼の遺した「東京酒場」も、誰かが引き継いで映画化してくれたら、と切に願っています。
イタリアンレストラン「ロジエ」は一周年
今日取材に来て頂いている、東京・恵比寿で経営するイタリアンレストラン「ロジエ」は8月、おかげさまで1周年を迎えました。
恵比寿駅の近くで、ちょっと路地に入った隠れ家のような一軒家。
「ロジエ」という名前は、青山作品の『路地へ』(2001)からとりました。中上健次さんの小説に登場する路地を訪ねるドキュメンタリーです。
青山にも一緒にいてほしいので、カウンターの隅っこに写真を置いています。
このお店を開くことになったのは、青山を亡くしたこととも関係しています。自宅での「一人ご飯」が増えると寂しくて、何を作って食べてもつまらなくて。
女性が一人で気軽にふらっと入り、美味しいワインを飲みながらカウンターでさくっとご飯を食べて帰れるお店があるといいなあ。でもないなあ、じゃあ作っちゃおうと。たまたま物件オーナーと知り合い、とんとん拍子に話が進みました。
お店はどんどんパワーアップさせています。最近もシェフを増強。
人気テレビ番組『料理の鉄人』に出演していたシェフのお弟子さん筋の方に入ってもらいました。
先日、ロジエで1周年記念パーティを開いた際にも頑張ってもらい、イタリアンとフレンチがいい具合に融合した料理にデザートで、来て下さった皆様からは大変好評でした。ケータリングの注文も多くて有難いです。
私もよくお店には顔を出しています。アートは私の自宅にあったものを飾っています。人手が足りない時は注文をお受けしたり、お料理をサーブしたりもしていますよ。
興味のあることにどんどん突き進んで
不動産会社の株式会社エール(東京)の社外取締役にも就任しました。株主総会で承認頂けるまではドキドキでしたね。
私なんかでいいのかなって心配だったんですが、「我々の固い頭ではなく、発想が柔軟で、発信力のあるとよたさんに是非お願いしたい」と仰って下さってお受けすることになりました。
「超ポジティブ志向」で興味のあることになんでも突き進んでいく姿勢を、ご評価いただけたのかなとも思い身が引き締まります。早速、なぜかパン好きの社員の方と、パンを食べながら会社の魅力を語る動画を配信させて頂きました。
YouTubeチャンネルでは、私自身がユニクロやしまむらのお洋服を「爆買い」してコーディネートを紹介する番組も随時、配信しています。フォロワーさんも1万2000人いて、ユニクロを紹介した際は再生回数が29万回を越えました。いちおうモデル出身なので(笑)、みなさん関心をもってくださっているのかもしれませんね。
インスタグラムではアルバムやロジエについての発信を随時行っています。こちらのフォロワーさんは3万人を越えました。
趣味のDIYや、ライフワークの「水石」についても発信し続けています。「水石」は盆栽と並ぶ数百年の歴史を持つ日本文化で、河原などで見つけた天然の石を綺麗に洗い、台にしつらえて愛でる趣味の世界。
雑誌『愛石』では連載も持たせていただいていますし、私の持っている水石を、展覧会に出品させていただいたこともあるんですよ。
やりたいことは今から始めなければ間に合わない
最近、もう一つご縁を頂いたのは日本盲導犬協会の理事という立場です。
前々から動物保護活動をやっていて、自身でも保護猫、保護犬を何匹も家族に迎えてきました。
盲導犬に関する事柄を広く皆様に知って頂けるよう、力になりたいのと同時に、動物や人が幸せになるような保護活動へも繋げていけたらうれしく思っています。
これだけ肩書を並べていると、何だか怪しい芸能人みたいですが(笑)、毎日とにかく忙しい!
なので今は、何もしない時間を持つことも必要かな、って思い始めています。海に行ってぼーっとするとか。
年齢を思えばフルで元気に活動できるのもあと10年くらいになってしまうのかな? とにかく、やりたいことは今から始めなければ間に合わない。なので、まだまだいろいろやりそうです。
09/09 12:30
婦人公論.jp