介護職歴18年の女優・北原佐和子 大変だろうと避けていた入浴介助。それが<かけがえのない時間>だと気づいたきっかけとは
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お湯に浸かると「本音がポロリ」興味を抱くきっかけになった、入浴介助
最初に携わったのは、民家を改装した宅老所と呼ばれる介護施設でした。
そこでは6名の高齢者が生活されていて、認知症の方もいらっしゃいました。自宅からデイサービスに通ってくる方々もおられました。
当時は何もかもが初めての経験。不安で胸がいっぱいです。
そんな私ですから、当たり障りのない掃除や洗濯を優先していて……。
入浴介助や夜勤といった大変な仕事からは逃げ回っていました。
ところが、あるときから、入浴介助が楽しみになったのです!
飾り気のない本音
施設の浴室は家庭用のような小さな造りだったので、入浴はひとりずつ。着替えを含めて、時間はだいたい20分ほど。
日中、フロアで仕事をしていると、何人も同時にお世話をするので、どうしても目先の作業に追われてしまいます。ところが入浴介助では、マンツーマン。20分間、ひとりの方にだけ、濃密に関われるチャンスでした。
温かいお湯に浸(つ)かると、心の緊張がじんわりほどけてくるのでしょう。
たとえばデイサービスの利用者さんは、家の中でのちょっとした出来事を話してくださるのですね。
お嫁さんとケンカした。孫が肩をたたいてくれた。愛犬がかわいい。
そんな飾り気のない本音をポツリポツリと語ってくれます。
入浴介助の仕事は、相手としっかりと向き合える、かけがえのない時間なのだと気づきました。
そうした経験から、利用者さんに対して徐々に興味を抱くようになり、気負うことなくコミュニケーションできるようになっていきました。
「どんなふうに」夜を過ごす? 夜勤をして、深く知りたいと思った
一歩踏み出してみたら、次々と新しい発見がありました。
宅老所では、ショートステイでお泊まりになる方々もおられます。
日中、とてもリラックスして過ごしていた方が、夕方になると“不穏”な状態になって、だんだん落ち着かなくなってきます。荷物をまとめて、「帰る、帰る」と言い張ります。でも、泊まりですから、帰れません。
慣れない環境でのお泊まりなので、初日は特に自宅が恋しくなるのでしょう。その気持ち、よくわかります。自分の家ではないですから。
ちょっとお邪魔しているだけだと考えれば、「私、そろそろ失礼します」となるのは、ある意味、当然の話かもしれませんね。
「ごめんなさいね、今日からお泊まりなのですよ」
きちんとお伝えしても、なかなか理解できない方は多いのです。
夜勤をやるようになった理由
今、「帰りたい」と言っておられる方は、夜はどうなるのだろう?
私はすごく気になりました。
諦めるのか、納得するのか。どういうタイミングでパジャマに着替え、どうやってひと晩をやり過ごし、次の日の朝を迎えるのか。
頑(かたく)なな気持ちがどのように変化していくのか、夜間の様子を自分の目で確かめたくなったのです。
そんなふうにもっと深く関わりたくなったのは、私にとっては、ごく自然な流れでした。お仕事だから、という使命感や向上心というより、相手に対して強い興味を有したからだと思います。
それから夜勤をどんどんやるようになりました。
※本稿は、『ケアマネ女優の実践ノート』(主婦と生活社)の一部を再編集したものです。
09/08 12:30
婦人公論.jp