女優歴42年・介護職歴18年の北原佐和子。畑違いのダブルワークと思いきや…「女優と介護の仕事はとても似ている」
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女優と介護、実はとても似ています!
今年、還暦を迎えました。17歳で芸能活動を始め、42歳から介護の仕事にも携わっています。
女優と介護のダブルワークに、「?」と不思議な顔をされる方もいらっしゃいます。確かに、まったくの畑違いですものね。
ところが、女優と介護、実はとても似ているのです!
「この役の人物は、今、どんな感情なのだろう」と気持ちを動かし、その役柄になりきるのが女優です。
介護の仕事も、「この方は、今、どんな気持ちなのだろう」と常に相手の心の状態を考えなくてはいけません。
どちらの仕事も、人の感情や思考を理解しながら、コミュニケーションを必要とする仕事。だから、「女優の経験が介護の仕事に役立っている」と感じることはままあります。
女優と介護のふたつの仕事どちらも好きで、やりがいがある
介護の現場では、利用者さんが主役で、私は陰のマネジャーみたいな存在です。一方、女優業では、私が表に立つので、もう真逆ですよね。
だからでしょうか、「女優と介護の二足のわらじは、大変でしょう」と聞かれることがよくあります。
でも私の中では、結構バランスは取れているのです。どちらも自分にとっては居心地がよく、やりがいがあります。
たとえば午前中に介護の現場に行って、午後からは着物姿で舞台に立つ、なんてこともありました。振り幅が大きすぎですよね(笑)。
体力的にはギリギリでも、メンタルの切り替えは不思議なほどすんなりできて、むしろメリハリを楽しめていました。
プライベートな時間
仕事が立て込んでくると、プライベートな時間はほぼなくなりますが、睡眠時間が確保できれば大丈夫。
でも、自分の時間は絶対必要ですから、仕事帰りに好きなカフェに寄るなどして、うまく調整しています。
丸1日休めなくても、仕事のすき間時間に映画を見たり、ちょこちょこと気分転換ができればOK。私はそれで十分リラックスできるのです。
そうそう、ふたつの現場でのお化粧は、まったく変えています。介護のときは、目がきつくならないように、アイライナーは引きません。
今、女優業を辞めているわけではないのですが、介護の仕事に集中していて、なかなかスケジュール的に厳しくなっています。
でも、演じることはすごく好きなので、この先もご縁があれば、やり続けていきたいと思っています。
女優のコミュニケーション力が介護の仕事にも大いに役立つ
女優として、さまざまな現場でさまざまな方々とコミュニケーションを重ねてきた経験は、介護の仕事に生かされているのでしょう。
たとえば介護の現場のスタッフに言わせると、「頑固なおじいちゃん」という方がいるとします。
その頑固なおじいちゃんへの対応は、舞台の演出家や映画監督がひとつの演技に何度もNGを出すのに対して、あの手この手で創意工夫をし、OKをもらうのととても似ています。
また、「ごはんを食べたくない」「お風呂に入りたくない」と訴える方がいたとき。
その原因を探るとっかかりを見つけるため、アンテナを張りめぐらせて引き出しをたくさん作り、「この人はどんな話が好きかな」ということを考えます。それらを手がかりにコミュニケーションを始めるのですね。
奥さんがきれいな方だったら、「きれいな女性がお好きなのですね」「もしかしてもしかして、ウワキの経験、あったりして……」と少しくだけた話もしてみます。
するとニヤッとして、頑(かたく)なな表情が溶けていくのです。そして、どんどんご自身のことを話してくださいます。
そういうコミュニケーションが本当に楽しくて仕方ありません。
相手の方が心の扉を開いてくださった瞬間、「この仕事をしていて、よかった!」と実感します。
※本稿は、『ケアマネ女優の実践ノート』(主婦と生活社)の一部を再編集したものです。
09/06 12:30
婦人公論.jp