坂口涼太郎が自然体を貫く理由「小さい頃から『普通』とされていることに違和感があった。自分の思うままに生きようと思ってくれる人が、一人でも増えたら」
* * * * * * *
【写真】レオタードを着て、ちゃぶ台の上で踊っていた2歳の頃の坂口さん
僕がメイクをしても誰の迷惑にもならない
ファッションやメイクで自分を表現するようになってから、言葉でも自分の考えを伝える機会が増えてきました。そもそも小さい頃から「なんでこれが普通とされているんだろう」とか違和感がいっぱいあって、ジェンダーや平和について友人と話したりしていたんです。
ただ、お芝居には自分がこの社会に対して願っていることがけっこう表現されているので、それで満足しているところがあったんですよね。
その頃出演した、政治の世界を描いた『罠の戦争』というドラマは、まさに現代の日本を舞台にした話で、この社会は自分たちで変えられるんだということが描かれていた。
出演しているうちに、どんな想いで演じているのかを知ってほしいという気持ちが強くなって、SNSで発信を始めました。するといろんな反応が返ってきて、さまざまな考えを知ることができた。
自分の意思を表明することを怖いとはまったく思っていません。言っちゃダメなことって、僕はないと思うんですよね。
男がメイクするなんて、と感じる人もいるでしょう。でも、そういう人とは関わらなければいいだけ。
だって誰の迷惑にもならないじゃないですか。むしろ自分の意思や好きなものを表明すれば、同じようにそれをいいと思う人が集まって、結局は自分の「好き」に囲まれて居心地のいい場所が作られていく。
坂口涼太郎も楽しそうに生きているし、自分の思うままに生きようと思ってくれる人が、一人でも増えたらいいなって。
今、ウェブメディアで週に1回エッセイの連載をしています。書いていると、今までの体験とか感情が繋がってたくさん発見があって。書くって自分と向き合う、すごい行為。今までは通り過ぎていたことがたくさんあるんだなと感じています。
発見といえば、去年出演した演劇で「鑑賞サポート」をやりました。目の見えない方と耳の聞こえない方のために、字幕と音声で実況中継をして。
それで初めて、芸術という分野に対するバリアフリーに関して、僕は今まで想像が行き届いていなかったと反省しました。
いろいろな立場の人と出会って知ることで、社会にはおかしなところがあることに気づく。たぶん死ぬまで、出会って知ってようやく気づいてという連続なんですね。
出会いがすべて繋がって
僕は、「これはかわいい」とか「自分らしい」と思うものしか買わないことを徹底しているから、自宅には好きなものがいっぱい詰まっています。
例えば、野菜の皮をむくピーラーがほしい時。スマホで「ピーラー」に好きな色の「エメラルドグリーン」を加えて検索すると、納得できるものがすぐにいくつも候補に挙がってきます。自分の好みを知っているとラク。迷わなくなるんです。
何が好きかわからなくなった人は、書き出してみたらいいんじゃないかなと思います。好きな色に、好きな動物、絵、音楽。そうすると選びやすくなる。最近改めて、この好きなものに囲まれた部屋の、居心地の良さを感じます。
食べるものもそうです。気に入ったらずっと同じものを食べるクセがあって、麻辣湯を週5回とか(笑)。ちょっと前まではとろろブームでしたし、子どもの頃から大好物の茶碗蒸しが、レンジで簡単に作れることを知ってからは茶碗蒸しばかり。
一食たりとも無駄にしたくないので、何を食べるか1時間くらい考える時もありますけど、基本的に、お味噌汁と漬物と五穀米は毎日食べています。
子どもの頃のアトピーが漢方と食事療法で治まったので、味噌とか麹とか納豆といった発酵食品は体にいいと思っているんです。
もちろんフライドチキンやピザも食べますけど、食べたいからこそ、毎日ラーメンではなく、せめて家での食事は体を気遣うものにしようと思っています。
食事でこんなにも体の調子が変わるんだとわかったのは、アトピーを治そうと頑張ってくれた両親のおかげです。
小さい頃にさまざまな舞台を見せてくれたことといい、ダンス教室を探してくれたことといい、僕のためにいろんなことをして、導いてくれたんだなと、最近になってやっと気づいています。子どもの頃からの出会いがすべて繋がってここまできたんだと思うと、本当にありがたいです。
せっかくここまで好きなことをやらせてもらってきたんだから、芝居、ダンス、音楽、エッセイなど、自分がやってきたことすべてがふわ~っと集まって結実したものがいつかできるのではないか、という予感も、漠然とですがあります。
ミュージカルかもしれないし、映画かもしれないし、小説かもしれないけど、何か物語を作れる時がくるんじゃないかな、と。
そしてそれが、誰かの力になれば嬉しい。相手がいるから自分の選ぶ色が増えていく。それがやっぱり楽しいと思うんです。
08/15 12:30
婦人公論.jp