市川團子「昨年亡くなった祖父・猿翁の言葉は僕の宝物、「天翔ける心」を胸に全力で。父・中車と同じ舞台でも、日常の関係は持ち込まない」

「日常の関係は舞台には持ち込まないようにしているので、父と同じ舞台に立つからといって、ヤマトタケルの役作りとは結びつけてはいません」(撮影:岡本隆史)
歌舞伎界に新風を巻き起こした祖父と、ドラマや映画の世界で長年活躍する父を持つ20歳の歌舞伎役者、市川團子さん。澤瀉屋(おもだかや)を牽引する《期待の新星》として、今、大きな注目を集めている。2024年は澤瀉屋にとって重要な「スーパー歌舞伎」の原点である作品に主演し、話題を呼んでいる。(構成:篠藤ゆり 撮影:岡本隆史)

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【写真】ヤマトタケルを演じる市川團子さん

<前編よりつづく

疾走感の中で日々が過ぎていく

それにしても、今まで経験したことのない台詞量です。3幕の間、ほぼずっと出させていただいていて、幕が開いたら最後まで走り続けている感じです。

今でも、ヤマトタケル役を演じさせていただいているという実感が湧かないくらい、ものすごい疾走感のなかで日々が過ぎていきます。

2月の公演ではダブルキャストの中村隼人さんに本当に助けていただきました。「ここ、こうなんじゃない?」とさまざまにアドバイスしていただいたり、とにかくたくさん話しかけてくださって、メンタル面も心から気にかけてくださいました。

そしてこれはあってはいけないことですが、2月に私が体調不良で休演させていただいた時に、私の分まですべてお舞台をつとめてくださいました。とてもありがたく、ただただ感謝の気持ちでいっぱいです。隼人さんの出演は2月25日まででしたので、その日はとても寂しかったです。

帝役は父がつとめています。どの作品でもそうですが、日常の関係は舞台には持ち込まないようにしているので、父と同じ舞台に立つからといって、ヤマトタケルの役作りとは結びつけてはいません。

尊敬する祖父を目指して

毎日舞台に立ち続けるためには、心身のコンディションを整えることが大切です。僕の場合は、たっぷり寝るのが最大のメンテナンスですね。

リラックスできる音楽を聴いて心を緩める時間も、大切にしています。

よく聴いているのは、K-POP。BTSやSEVENTEENをはじめ、ガールズグループのIVE、LE SSERAFIM、New Jeans などもよく聴きます。最近はあまりロック調の曲ではなく、どちらかというと穏やかな曲が好みです。

今は大学生でもあるので、学業もおろそかにはできません。祖父は、曽祖父や高祖父の「外からの視点を持つことも大事だ」という方針で、大学で学びました。

ですから僕も、文学部比較芸術学科で映像や演劇について学んでいます。

「尊敬する祖父を目指して、これからも全力で頑張っていきたいです」

1年生の時は、幅広く西洋美術、日本美術、西洋音楽、オペラ、日本音楽などについて学び、2年生になってからは古今東西の映画や舞台芸術について学びました。

以前は映像にそれほど興味がなかったのですが、勉強するなかで、映像表現の奥深さにも気づかされました。

たとえば映画の場合、カメラがなぜ動くのかということや、象徴的なテーマがいかに表現されているのかなど、本当に面白かったです。作り手の意図や意識をきちんと読み解けるようになりたいと、強く思いました。

また、試験とお稽古や公演が重ならないように、なるべくいつでも取り組めるレポート中心の科目をとるようにしているんです。

昨年9月には、祖父との別れがありました。お別れの会では、「少しでも祖父に近づけるよう頑張りたい」という思いを持ちました。祖父は向こうでもきっと、エネルギッシュに舞台に立っている気がします。

これからは、祖父が残してくれた言葉を、より大事にしていきたいです。「夢見る力」や、『ヤマトタケル』のテーマとも言える「天翔ける心」と祖父に書いてもらった色紙は、僕にとって宝物です。尊敬する祖父を目指して、これからも全力で頑張っていきたいです。

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