ヒオカ×坂口涼太郎「自宅撮影の後に豚汁を食べて深まった縁。〈書くこと〉と〈読むこと〉で救われる」

(左から)ライターのヒオカさん、俳優の坂口涼太郎さん
2024年5月1日(水)、東京・代官山蔦屋書店3号館 2階 イベントスペースで、ライターのヒオカさんと俳優の坂口涼太郎さんのトークイベントが開催された。ヒオカさんの『死ねない理由』刊行と、坂口さんの「今日も、ちゃ舞台の上でおどる」(講談社「ミモレ」)新連載開始とのダブル記念のイベントで、「書く」とはどういうことか?「自分を救ってくれた本」「好きな本」などについて、1時間にわたって本音トークが繰り広げられた

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【写真】坂口さんのおすすめ本は…

取材がきっかけの出会い

ファンの待つ会場に、まるで「音楽ユニット」のように、シンクロしたファッションで登場したお2人。ヒオカさんが坂口さんのWEBサイト『ミモレ』で取材をしたことがきっかけとなり、今回のイベントや連載が実現したという。

坂口さんのファッションセンスも大好きというヒオカさん。「貧困から世に出ていくと、最低限に生活しろ、っていうSNSなどの圧がありますよね。柚木麻子さんに〈グッチを着て貧困を語ればいい〉って言われたんです」と言い「お洒落にお金はいるのか?」と盛り上がる2人。

それぞれ個性的なファッションで登場

坂口さんを「師匠」と仰ぎ「お涼さん」と呼ぶヒオカさん。ミモレで取材したことがきっかけで、ヒオカさんが編集者と共に、坂口さんに文章を書きませんかと打診。連載のための撮影の場所は坂口さんの自宅だった。「5.8畳にスタッフの方が5人。撮影前には部屋を大掃除して、今まで拭いたことないところも拭きました」という坂口さんは、撮影のあとスタッフやヒオカさんに手作りの豚汁を作ってふるまったそうで、「部屋が狭いので立食でいただきました」と楽しそうに振り返る。

坂口さんは「僕は恵まれた家庭の箱入り息子で、30代まで実家で親のスネをかじりつくしてた(笑)。ヒオカさんの新刊『死ねない理由』を読んで、自分の友達にも、こんな家庭の子もいたのかな、と思いました。自分は想像もできなてなかったなと衝撃を受けました」と語る。

『死ねない理由』は、『婦人公論.jp』の連載に大幅加筆してできた1冊。ヒオカさんは、「連載中はYahoo!ニュースなどにも配信されるので、書きたくても書けないこともあった。単行本化にあたって書きたかったことを詰め込みました。中川家さんのこととか」と大ファンである中川家への愛を爆発させた。

お勧めの本を手に語る2人

「救われた本」「好きな本」

「貧困である自分の境遇を、人に話していいのか迷っていた」というヒオカさん。「中川家さんが家が貧乏なこととか、お父さんがお母さん殴ってることとか、全部話してて救われた」という。そんなヒオカさんの「推し」を聞いて、坂口さんは「川上未映子さんが推し」だと告白。

ここから2人の「救われた本」「好きな本」の話題に。

坂口さんは川上未映子さんの『君は赤ちゃん』を紹介。「2ページ目で滂沱ですから気を付けてください。電車で読んで号泣し〈みえこ―!〉と叫んじゃいました」と笑う。「この本を読んだら、渋谷の交差点なんかにいっぱいいる人も、みんな女の人から生まれた。産んでくれた人が絶対いるんだと果てしない気持ちになった」と話す坂口さんに、ヒオカさんが「男の人がみんなこうだったらいいのに!」と感動した様子。

◾️坂口さんおすすめ2作品

坂口さんのおすすめ

『きみは赤ちゃん』(著:川上 未映子/文藝春秋)

『えーえんとくちから』(著:笹井宏之/筑摩書房) 

ヒオカさんは西加奈子さんの『白いしるし』を推薦。お勧めの一文を読み上げつつ「わかりますよね~!」と会場のファンの方とも共感。「ヒロカツ=悲ロ活」について坂口さんと盛り上がる。坂口さんは『ミモレ』のエッセイでも「悲ロ活」について綴る予定だそうで、「小3で宇多田ヒカルさんの『First Love』で泣いてました。悲劇の主人公になって泣いてすっきりするんです」と多感なところを見せる。

◾️ヒオカさんおすすめ4作品

ヒオカさんのおすすめ

『白いしるし』 (著:西 加奈子/新潮社)

『温室デイズ』(著:瀬尾 まいこ/角川書店)

『冷たい校舎の時は止まる』(著:辻村 深月/講談社)

『40歳がくる!』(著:雨宮まみ/大和書房)

書くことで人生が物語になる

その後はお互い「書くこと」への向き合い方をそれぞれ語り合う。

坂口さんは「最初は僕の書くことを誰が読むんだろう、と思いましたが、友達に話せないことを書きたい、あ、坂口もこう思うんや、と思ってくれるかも、と。人生が物語になるみたいな気持ち。ロイホで5時間かけて書きました」と執筆の苦労と喜びを表現した。

ヒオカさんは「しんどい時や気持ちが落ちてる時の方が書けたりする。幸せになってしまうと書けなくなるのかな、と不安もある」と複雑な心境を語ると、坂口さんは「もし失敗しても、書く仕事をしていると、この経験をタダではおかない、活かそうと思えますよね」とフォローする。

最後はファンの方からの質問に答える時間に。「落ち込んだ時の立ち直り方」を聞かれたヒオカさんは「〈死ぬのがもったいない〉と思える人に出会えた。中川家さんやちゃんみなさん、坂口さんもです」と。坂口さんは「自分はミュージカルの『キャッツ』の挿入歌を歌ったりして気持ちよくなったりしてます。あなたも僕のマネをしてみて」と会場を笑わせた。

「つらい気持ちを友達にメールなどに送れるか?」という質問には「つい送ってしまうけど、いつも連絡するのは自分からなんですよ」と、悩みを語るヒオカさん。でも、「10秒後にはその人がいなくなるかもしれない、と思うと勇気が出ますよね」と、人と人との出会いについて思いを馳せる。「諦めないで縁を引き寄せる力」に、坂口さんも大きく共感していた。

会の終了後はお互いのファンにサインをしたり写真を撮ったりと楽しい時間に。2人の勧めた本を買っていくお客さんも。「読むこと」「書くこと」が好きな人たちが集まった、幸せな時間となった。

ヒオカさんの本を手にフォトセッションに応じる坂口さん

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