「(人工透析患者を)そのまま殺せ」という声も…37歳で糖尿病、17年間人工透析を続けるグレート義太夫(65)が語る、患者への偏見

 1995年に37歳で糖尿病を発症し、2007年に48歳で人工透析を開始したお笑い芸人のグレート義太夫(65)。

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 8月23日には心筋梗塞を起こして10時間におよぶ緊急手術を受けた彼に、人工透析にいたった経緯、1回につき5時間を費やす透析の様子、透析患者への偏見などについて、話を聞いた。(全2回の1回目/続きを読む)

グレート義太夫さん

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本当に糖尿病を舐めてた

ーーいつから人工透析を。

グレート義太夫(以下、義太夫) 2007年、48歳のときかな。だから、17年間透析をやってます。

ーー義太夫さんは1995年に糖尿病を発症していますが、そこから2007年の透析開始にいたるまで「このままだと、いずれ透析になるかな」みたいな考えはありましたか?

義太夫 自分の中では、まったく思ってなかったです。本当に糖尿病を舐めてたから。

 僕は糖尿病を発症して、糖尿病性腎症という慢性の合併症も出たんです。糖尿病性腎症っていうのは、腎臓の機能が低下して、老廃物なんかを尿として出しにくくなって、身体がむくんだり、血圧が高くなったりするんですけど。で、先生に「このままだと透析になってしまいますよ」とも言われてたんですけど、まだヘラヘラしてたんですよね。

身体のあちこちからSOS

ーー透析開始直前は、かなり体調が悪くなったのですか?

義太夫 いろんな症状が出てましたね。まず、疲れやすい。家から近所のコンビニまで、途中で休まないと行けないんですよ。息が切れるし、めまいがする。だから、尿毒症ですよ。老廃物を出しにくくなってたから。

 糖尿病になってから、喉が渇いたり、トイレに頻繁に行くとかは、ずっとあったんです。そこに、息切れとめまい、あとは背中じゅうに吹き出物ができて。顔にもできちゃって、すごかったですね。ブツブツと。もう、身体のあちこちからSOSは出てましたね。

もうちょっと勉強しておけば…

ーー「おかしいな」が、積もりに積もって。

義太夫 糖尿病になった時もそうだし、透析になった時もそうなんですけど、ズドンとくるんですよね。透析の場合は、仕事でMCをやって、大声出したらそのまま気を失うというか、フゥ~っとなったんですよ。

 これはおかしいということで、マネージャーと病院に行ったら、クレアチニンっていう血の汚れの値が11.3mg/dLで。8.6mg/dLを超えたら要透析なんですけど、11.3mg/dLですからね。すぐに「今日、透析しましょう」と言われたけど、なにがなんだかわからなくて。

ーー「今日、透析しましょう」と言われても実感が湧かなかった。

義太夫 糖尿病になった時もそうですけど、そもそも透析がどういうものかわかってなかった。いまになって思うと、もうちょっと勉強しておけばとは思いますね。透析がどういうものか、自分がそうなってからやっと勉強しましたから。

「これから一生やらなきゃいけない」

ーー「今日、透析しましょう」と言われて、すぐにできるものなのですか。

義太夫 シャントっていう、動脈と静脈を繋いだ血液の出入り口を手術して作らないといけないんです。でも、作って使えるようになるまで3週間ぐらいかかるんですよ。だから、動脈にカテーテルを入れて、そこから緊急透析したんですよね。

ーー当初はどれくらいのペースで透析を。

義太夫 スタート時は、1時間半の透析を週2回と言われて「これから一生やらなきゃいけないけど、90分週2回ならなんとかなるか」と思ったけど、それって入院して食生活も全部管理されての話なんです。

 で、2週間入院して退院するときに「退院すると、食生活とか普通になって、透析時間とか増えちゃうから。そこは気をつけてくださいね」と言われたんですよ。そのとおりになって、退院後初めての外来で、2時間になって。そこから、3時間になり、気付いたら5時間を週3回になっちゃって。

自己判断による通院中止が多い

ーー透析を受けると、体調は良くなるわけですよね。

義太夫 血液の汚れ具合が少なくなるので、良くはなりますね。

 でも、そうやって少し取り戻すってところが糖尿病の怖さのひとつで。息切れとかめまいはあっても、「痛い!」とかがないですから。体調が悪いのが、限界にいくまで実感しにくい。それで僕も含めてなんですけど、「もう治ったんだよね」と思っちゃう人が多い。薬を飲まなくなったり、インスリンを打たなくなったり。そうした自己判断による通院中止が、多いんですよ。で、行かない間にどんどん症状が進行していっちゃう。

腎臓の機能がほとんどゼロ

ーー糖尿病になると血糖値が下がりにくくなるので、インスリンを注射しなければいけませんよね。透析を受けるようになってもインスリンは必要に?

義太夫 透析すると、血糖値は下がるんですよ。普通の人って空腹時の血糖値が100mg/dL前後なんですけど、僕もそれぐらいに落ち着いてはいます。これも怖いところで、あくまで腎不全で透析を受けているから落ち着いているだけの話で、糖尿病が治まったわけじゃないんですよね。さらに言うと、透析を受けてるというのは、腎臓の機能がほとんどゼロってことですからね。

移植希望の登録

ーー5時間の透析を週3回。やめるわけにはいかない。

義太夫 やらないと死んじゃうわけですからね。「どうしても透析がイヤだったり、透析ができない状態になったら腎臓移植しかないですから」と言われました。最初の透析で入院して、退院のOKが出たときに「移植希望の登録をしておいたほうがいいですよ」とも勧められたけど、自分的に移植って怖くて登録しませんでしたね。

 逃げ口上になっちゃうんですけど、移植しても10年経ったら、また透析をしなきゃいけないというのがあって。薬も飲まなきゃいけないし。

透析がスケジュールを左右する

ーー透析をしても移植をしても、大変ではあると。

義太夫 松原のぶえさんと、バッタリ会ったことがあって。松原さんは、移植されているんですよね。会ったのは移植前で「今度、弟の腎臓を移植するの」って。

 いろいろ聞いたら、透析してると泊まりがけの仕事ができないと。たとえば、僕だったら月水金の週3回の5時間だから、やっぱりムリですよね。それで「営業に行けなくなっちゃうから、私は移植するの」と、おっしゃっていましたね。

ーーたしかに、芸能人の方は地方営業がありますもんね。

義太夫 お亡くなりになってしまいましたけど、ザ・ニュースペーパーの渡部(又兵衛)さんは透析しながら回っていたそうなんですよ。渡部さんも糖尿で、左足が壊死して義足になって。喫茶店でお会いしたときに、義足を外して見せてくれましたね。

 渡部さんと対談させていただいたときに聞いたんですけど、透析クリニック同士の横の繋がりってすごく緊密だから、「いついつどこどこに営業に行くんですけど」って言うと、そこのクリニックに連絡して透析を受けれるようにしてくれるそうなんですよ。「だから、僕は国内だったらどこにでも営業に行けるんだよね」とおっしゃってましたね。それができるかは、個人の状態にもよるのかもしれませんけども。

ーー透析がスケジュールを左右することは、少なくないですか。

義太夫 週3日という時間を取られますからね。辛かったのが、蜷川幸雄さんとのお仕事。2001年に『真情あふるる軽薄さ』というお芝居に出してもらってから、蜷川さんにはお仕事でよく呼んでいただいたんですよ。やっぱり舞台って、稽古もあるし、1カ月とか2カ月とかスケジュールを空けなきゃいけないんですけど、それが透析でできなくなっちゃったから。

 透析になって、蜷川さんにご挨拶にうかがったら「早く戻ってこいよ、お前」とおっしゃってくれたんですけど、「もう、戻れないです……」っていうね。ほんと、あのときは辛かった。

透析中はネタを考えたり、ポジティブに

ーー透析はベッドに横になって受けますけど、寝ちゃっても。

義太夫 全然。テレビも見られますし。ただ、寝ちゃっても、なにをしてても、1時間に1回は血圧を測らなきゃいけないんですよ。

ーー透析中はどのように過ごしていますか。

義太夫 ネタを考えたり、そういう時間に充てようとしてます。なんとか、ポジティブに考えようとしないといけないなって。もう、透析を避けることができないわけだし。

なぜか障害者手帳に、金髪の写真

ーー透析の費用は、1回につきどれくらい掛かるのでしょう。

義太夫 大体、8万円くらいですかね。

ーー国民健康保険が利いて、8万円ですか。

義太夫 いやいや、国保は利かないです。でも、限度額適用認定証、特定疾病療養受療証、マル障受給者証、東京都から出ているマル都医療券というのが出て、一応東京都では透析は無料になるんですよ。

ーー人工透析を受けている方は、障害者にあたるのですか。

義太夫 第1級身体障害者になります。ちゃんと障害者手帳も持ち歩いてます。ただね、自分の写真が金髪で。障害者手帳に、金髪の写真なんて罰当たりじゃないかって。入院中に障害者手帳を申請したもんだから、うちの母親に手続きとかお願いしたんです。そうしたら、なぜか金髪の写真が選ばれちゃってね(笑)。

遺伝で糖尿病になってしまう人もいる

ーー透析の費用といえば、2016年に某フリーアナウンサーが「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ! 無理だと泣くならそのまま殺せ! 今のシステムは日本を亡ぼすだけだ!!」とブログで発言して、物議を醸しましたが。

義太夫 自分がなったときにそれが言えるのか、とは思いますね。まぁ、健康な人にしてみれば言いたくなるってのもあるんでしょうけど。

 僕が緊急透析の後で入院したとき、4人部屋で全員が糖尿病だったんですよ。夜、消灯になるでしょう。そうすると、戸棚がガラッと開く音がして、ビニール袋がガサガサッと鳴って、「ん?」と思ったら、せんべいをポリポリ食べてるおじいさんがいるわけですよ。

 部屋中に醤油のにおいがプーンと漂ってきてね。「こっちは塩分とか制限されてるから、イヤでも敏感になってるのに」ってモヤモヤしちゃって。そういうのを見ると、だらしない人が糖尿病になるのかなとも考えちゃうけど。でも、遺伝で糖尿病になってしまう人もいるんでね。もうちょっとそこは認識されてもいいところじゃないかなと思うんですけど。

ーー「遺伝で糖尿病になってしまう人」は珍しくない?

義太夫 糖尿になったとき、血糖値が630mg/dLだったんですよ。普通が100mg/dLだから、先生が「こうやって、私と話してるのが不思議なぐらいの数値ですよ」と驚いていて。僕も、暴飲暴食だったけど、その頃はそうでもなかったし、甘いものも好きじゃないから、糖尿って診断に軽く驚いたんですよ。そうしたら先生が「いや、甘いものとか関係ないです。糖尿病の一番の原因は遺伝ですから」と。

こりゃ、糖尿のサラブレッドだな

ーー糖尿家系ですか。

義太夫 先生に「親戚に糖尿の方とかいませんか?」と訊かれて。調べてみたら、糖尿病で死んでる人が、母方にも父方にもいたんですよ。だいたい、僕の親父も糖尿でしたから。こりゃ、糖尿のサラブレッドだなと思いました(笑)。

 まあ、糖尿から透析になるのは、自分の気をつけ方次第で遅くすることはできたと思うんです。だから、そこはすごい後悔はしてるし、気をつけたほうがいいですよというのは、講演会やインタビューで言うようにはしているんですけど。

「じゃあお前、芸名変えなきゃいけねえな。」

ーー師匠のビートたけしさんは、義太夫さんが透析を受けることを知って、どのような反応を。

義太夫 殿には、真っ先に報告に上がったんですよ。「透析を受けることになりました」って。そうしたら「ああ、そうか。じゃあお前、芸名変えなきゃいけねえな。夏目透析ってどうだ?」って言われました。

写真=石川啓次/文藝春秋

体重120キロ、夜中まで暴飲暴食…グレート義太夫(65)が明かす、人工透析までの経緯と“死にかけた”心筋梗塞「足が取れてもいいから食いてえと…」〉へ続く

(平田 裕介)

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