『西園寺さんは家事をしない』松本若菜がドンピシャの「ハマり役」神がかり的なベストマッチングが生まれた理由【ネタバレあり】
久しぶりにドンピシャの「ハマり役」というものを目の当たりにした気分。この作品と松本若菜は、神がかり的なベストマッチングだったように思えた。
9月17日(火)に最終話(第11話)が放送された火曜ドラマ『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)。
西園寺一妃(松本)は、アプリ制作会社のプロダクトマネージャーとしてバリバリ働く38歳・独身。明るくコミュ力が高いタイプで、「やりたいことをやる、やりたくないことはやらない」という主義で、家事は絶対しないと決めている。
すでにマイホームを購入し、悠々自適な “家事ゼロ” おひとりさまライフを満喫していた彼女の前に、転職してきたアメリカ帰りの天才エンジニア・楠見俊直(SixTONES・松村北斗)が現れる。無口で無愛想、ロジカル思考で協調性もない楠見だったが、実は1年前に妻を亡くし、4歳になる娘・ルカと暮らすシングルファーザーだった。
ひょんなことから西園寺の家で楠見とルカも暮らすことになり、「偽家族」として共同生活を送るというラブコメディだ。
物語中盤から、西園寺と楠見はお互いを恋愛対象として意識するようになっていたが、迎えた最終話は、登場人物にとっても、視聴者にとっても、納得のいくハッピーエンドだったのではないか。
■【ネタバレあり】“答え” を出さないという “答え”
公式サイトに、《風変わりな同居生活を通して「幸せって何? 家族って何?」を考えるハートフルラブコメディ!》と謳われていたことから、「幸せ」や「家族」の在り方を示していくことが本作のテーマだとわかる。
そんな作品ゆえに、両想いだと気づいた西園寺と楠見が結婚し、ルカも含めた3人で本物の家族になって幸せ――そんな旧態依然とした価値観を示す最終話だったら、今までのラブコメの “テンプレ” すぎてがっかりしそうという懸念はあった。
ネタバレで結論を言うと、その懸念は杞憂に終わった。西園寺と楠見は、実母のことを想うルカの気持ちを考え、自分たちが結婚するという “答え” は出さなかったのである。
かといって、2人は別れて離れ離れに暮らすという “答え” も出さなかった。
「偽家族」というかたちに限界があると感じた西園寺たちは、「偽大奥」や「偽大家族」といったそのほかのさまざまなかたちも試していく。しかし、どれもしっくりこない。
最終的に西園寺と楠見がたどり着いたのは、“答え” を出さないという “答え”。
自分たちが幸せでいるための関係性に「偽家族」といった名前はもういらないと気づき、そのときどきで「心がワクワクするほうへバババッ」と動いて、トライ&エラーを続けていけばいいという結論だ。
いじわるな見方をするなら、“答え” を提示せずに逃げたとも言える。けれど、必ずしも “答え” を出す必要はなく、見つからないなら探し続ければいいんだという、新たな価値観を示してくれた。
■サムく見えたりイタく見えたりしたら作品は失敗
ラブコメでも最終話はけっこうシリアス展開になる作品は多いが、本作は最終話後半が今までで一番ドタバタ&わちゃわちゃしていたように思う。
最適なかたちを模索していくなかで、「偽大奥」や「偽大家族」のほかにも、「偽修学旅行」「偽リゾートバイト」「偽日本代表」なども試すのだが、このあたりはもはやバラエティ番組のコントの域。いい意味で最終話らしい重苦しさや湿っぽさはなかった。
それこそがこのドラマの “らしさ” だが、西園寺を演じたのが松本若菜でなければ、クライマックスのドタバタ&わちゃわちゃ感は、寒々しくなったり痛々しくなったりした可能性もなきにしもあらず。
西園寺は昔風に言うなら「バリキャリ」、今風に言うなら「しごでき」のキャラなので、目鼻立ちがはっきりとした正統派美人の松本はビジュアル面でハマッていて、説得力があった。
その一方、西園寺は何事にも一生懸命ゆえに、空回りしたり失敗したりも多々あるので、けっこうダサいことをしでかす役どころ。それらのシーンがコミカルなおもしろ要素でもあるので、ダサく見えること自体は問題ない。
しかし、主人公のダサい姿が、視聴者からサムく見えたりイタく見えたりしては作品として失敗なので、かわいらしく見えなくてはいけないわけだ。
アラフォーで「しごでき」キャラが似合う女優はたくさんいるし、ダサい姿をキュートに見せられる女優もたくさんいるが、その要素をあわせ持つ女優はほとんどいない。そんななか松本は、どちらの要素も高いレベルで体現し、両立して見せたのである。
■『逃げ恥』の新垣結衣なみに松本若菜がハマッていた
ドラマは脚本が最重要ということはよく言われる。とはいえ、いくら脚本が優れていても、主人公を演じる役者がハマッていなければヒットはしない。
TBS「火曜ドラマ」の最大のヒット作は、2016年の『逃げるは恥だが役に立つ』だろう。『逃げ恥』は原作漫画や脚本がおもしろかったのは間違いないが、主演した新垣結衣が主人公のキャラにあそこまでハマッていなければ、社会現象化するほどのヒット作にはなっていなかっただろう。
『西園寺さんは家事をしない』も同じ。主演が松本若菜でなくてもそこそこおもしろかっただろうが、ここまで多くの視聴者に愛される作品にはなっていなかった気がするのだ。
このドラマの主人公が松本若菜でよかった! と改めて思い知られた最終話だった。
堺屋大地
恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中
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