「イスラム国」占拠の街に残る深い爪痕、多くの弾痕が残る廃虚…イラク軍による掃討作戦は今も続く

 イスラム過激派組織「イスラム国」がかつて占拠したイラクの街には、今も攻撃の深い爪痕が残っていた。イラク軍による掃討作戦も続いており、復興や安定への道のりは険しく時間がかかりそうだ。(カイロ支局 田尾茂樹)

復興「7割」

イラク中部ファルージャで、「イスラム国」の攻撃による弾痕が壁に残る建物(22日)=田尾茂樹撮影

 首都バグダッドの西約60キロのファルージャは2014年から16年半ばまで「イスラム国」に支配された。道路は復旧され、新たなビルの建設が進む一方、多くの弾痕が残る廃虚も目立つ。

 「復興はまだ7割程度ではないか」。不動産業のムスタファ・オベイディさん(40)は語った。北部アルビルに14年に避難したが、自宅は戦闘で全焼。17年に帰還して何とか修復した家を売り、今は新居で暮らすが、「政府の支援はほとんどなく、家を再建できない人も多い」という。

 バグダッドでは高層ビルや商業施設の建設が加速するものの、ファルージャの飲食店店員(35)は「国の安定と完全復興はまだ先だ」と述べた。

掃討作戦

 1月に発表された国連の報告書によると、「イスラム国」の戦闘員は3000~5000人。3万人を超えたという最盛期の10分の1程度に減ったとみられる。

 それでも、軍兵士や住民を標的にした攻撃は後を絶たない。イラク、シリア両国では「イスラム国」の掃討作戦が続き、イラクでは約100万人が避難生活を強いられている。

 アフリカのサハラ砂漠周辺のサヘル地域などでは「イスラム国」に共鳴する組織がテロを継続。アフガニスタンなどで台頭する一派「イスラム国ホラサン州」は、モスクワ郊外で3月に140人以上が死亡したテロを実行したと主張する。

新たな火種

 イラクでは「イスラム国」に対抗するため、14年に誕生したイスラム教シーア派民兵組織の連合体「人民動員隊」が、混乱の新たな火種になっている。

 「カタイブ・ヒズボラ」など連合体の主な構成組織はイランの支援を受けていて、昨年10月のパレスチナ自治区ガザでの戦闘開始後、イスラム主義組織ハマスとの連帯を表明。イラクやシリアの米軍関連施設を攻撃し、イラク駐留米軍の撤収を要求している。イラク政府は今年1月、米軍撤収時期の協議を米国と始めた。

 しかし、駐留米軍が撤退すれば、「イスラム国」が再び勢力を拡大させかねない。イラクの軍事評論家アヤド・トファン氏は「米軍の支援がなければ、『イスラム国』を完全に排除するのはまだ無理だ。早期の米軍撤収は大きな過ちとなる」と懸念する。民兵組織に詳しいイラク国会のハイダ・サラミ議員は「政府は民兵を統制できなくなっている」と指摘する。

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