北朝鮮の「不動産投資」で稼ぐ、たった一つのノウハウ
北朝鮮で不動産はすべて国の所有となっている。国民は必要に応じて居住許可証を得て住宅に住み、必要がなくなれば国に返還する。だが、その許可証を取引する形で不動産市場が形成され、住宅や土地の売買が行われている。
当局は、不動産の売買は違法行為であり、非社会主義・反社会主義行為であるとして、しばしば取り締まりを行うが、依然として不動産の取り引きは行われている。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が最近の状況を伝えた。
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羅先(ラソン)市検察所は今月5日、市内の各機関、企業と洞事務所(末端の行政機関)を通じて、2軒以上の住宅を所有している者はいないか、集中検閲(監査)を1カ月に渉って実施すると市民に通告した。
居住許可証に記載された世帯主の名前と実際に住んでいる人が一致するか、違法に貸し出して金儲けをいないかなどを調べる。検察所によると、今年に入って今まで、2軒以上の住宅を所有して金儲けをしていた120軒分の不動産を発見した。
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主な手法としては、親の名義で複数の住宅を所有し、子どもがそこを宿泊施設として営むというものだ。
北朝鮮の鉄道駅周辺には、「待機宿泊」と呼ばれる民泊が数多く存在する。列車を待つ客を宿泊させるものだが、ラブホテルや風俗店として利用され、性びん乱の現場となっている。
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検察所は、住宅を2軒以上所有している者が自主的に申し出れば情状を酌量するが、申し出ずに摘発された場合は処罰すると警告した。
この方針について、羅先市民は「検察による処罰は困難だろう」と見ている。
北朝鮮は、コロナ直前から民間での富の蓄積を警戒し、市場を抑圧する政策を取り始めた。これにより、市場での商売、ヤミ金などで儲けていたトンジュ(金主、ニューリッチ)の多くが没落した。これには不動産価格の暴落も影響している。
当局は、住宅建設資金を得るためにトンジュから投資を募り、完成した住宅を見返りとして引き渡す。トンジュはそれを転売することで利益を得ていたが、不動産を購入できる層は限られており、供給過剰を起こしたと言われている。
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そんな危機を生き抜いたトンジュもいる。彼らは家族や親戚の名義を総動員して複数の住宅を手に入れ、賃貸や民泊で儲けを得ている。また、外見は民家だが、内部に複数台のミシンを置いて縫製工場としていた事例もあった。
家主にとって、不動産投資で儲ける最大のコツは、誰を「ケツ持ち(バック)」に付けるかだ。たいがいは地方政府の高級幹部をバックにつけて、不動産賃貸業を営んでいる。
入居希望者はそこをよく見ており、バックに誰がついているかを確かめて入居を決めるという。さもなくば、急な取り締まりで家を失うリスクがあるからだ。また、家を借りて住んでいただけなのに、様々な制裁の対象となる可能性も考えられる。
結局、検察所の取り締まりなど、カネとコネを使えばいくらでももみ消すことができるのだ。市民からは「何のための取り締まりか」と批判の声が上がっているが、その答えは「ワイロを得るための取り締まり」と言ったところだろう。
庶民から奪い取ったワイロは、許認可権を持った担当者からその上司、そのまた上司と、上へ上へと吸い上げられていく。平壌の高級幹部のところには、全国から集められた巨額のワイロが届くようになっている。また、その一部は国庫に納められる。ワイロの存在を前提とした国のシステムが出来上がっているのだ。
「よほどのことでなければ、カネで何でも解決できる」という国のあり方が変わらない限り、不動産市場は存続し続けるだろう。
10/19 04:32
デイリーNKジャパン