「むすこが娼婦と結婚したなんて知ったら…」エジプト人と国際結婚したベリーダンサーHANAが明かす、エジプトの知られざる現状

「その後、彼が急に私のホテルに来て…」交際半年でプロポーズした日本人女性が明かす、衝撃だったエジプト人との国際結婚〉から続く

 2014年にエジプト人のモスタファさんと結婚したベリーダンサーのHANAさん。ベリーダンスの修行先であるエジプトで出会い、現在は夫婦で日本に暮らす。今回はHANAさんに、国際結婚の難しさやエジプトの知られざる現状、ベリーダンサーという職業についてなど、話を聞いた。(全3回の2回目/続きを読む)

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イスラム教に改宗してエジプト人・モタファさんと結婚

――2014年に結婚したエジプト人のモスタファさんはイスラム教徒ということですが、HANAさんとの結婚について宗教的なハードルはあったのでしょうか。

HANAさん(以降、HANA) 私は仏教徒だったので、結婚のためにイスラム教に改宗しました。東京ジャーミイ(※)で儀式みたいなのをして。

※東京ジャーミイ:渋谷区にある日本最大規模のイスラム教の礼拝所(モスク)

――改宗することへ葛藤などはなかったですか。

HANA 全然。私の場合は、「改宗すれば結婚できるの? いいよいいよ」って感じで。すぐモスクに行ってお祈りみたいなのをしてもらって、入信証明書をもらって結婚できました。

HANAさん

――イスラム教は豚肉や飲酒がNGだったりと、いろんな戒律がありますよね。生活に影響もあるのでは。

HANA 食べ物はもちろんですが、結婚前の交際中にエジプトで短期間、夫と同棲したんですけど、イスラム教徒は婚前同棲が禁止されているんですね。当時私は改宗していませんでしたが、夫は敬虔なイスラム教徒なので、見つからないようにものすごく気をつけていました。真面目な信者である彼にとっては相当ストレスだったと思います。

――戒律に背く行為をしているから。

HANA そうそう。絶対一緒に家に入らないようにして、彼だけ1時間半後くらいに帰ってくる、みたいな。近所の人も見てるんですよ。エジプト人って他の人のことをよく見てるし、他の家と比べたりするんです。「あそこは新しい冷蔵庫を買ったぞ」とか「どこからお金が入ったんだ」みたいな。

 だから彼はドアマンに口止め料としてチップも渡してたみたいです。

――イスラム教といえば、年に一度1ヶ月間、日出から日没まで断食を行う「ラマダン」も有名です。モスタファさんは来日後もラマダンに取り組んでいる?

HANA もちろんです。本人はすごく楽しんでるんですけど、夫は普段から夜12時には寝ちゃうんですよ。

「ラマダン中の食事作りのプレッシャーといったら」…

――となると、モスタファさんはラマダン中、日没から24時までの数時間しかご飯を口にしない?

HANA そうです。食べ物だけでなく水もNGなんで、20時間近く飲まず食わずで過ごすんです。栄養学を勉強している身からするとやっぱり心配になるんで、「血がドロドロになるから一口くらい水飲みなよ」って言うんですけど、絶対拒否ですね。

――ラマダン中は一日1食しか食べないということですが、その貴重な1食はモスタファさんが自分で用意する?

HANA いや、私です。基本的に料理は私の担当なんで。だから、ラマダン中の食事作りのプレッシャーといったらないですよ。とんでもなくその1食を楽しみにしてるんで、失敗できないじゃないですか。

 ナッツやデーツ、フルーツといった欠かせない食材もあるし、お肉はハラール肉(※)しか食べないですし。

※ハラール肉:イスラム教徒のための特別な処理を施した肉のこと

――ラマダン中だけでなく、肉は普段からハラール肉じゃないとNG?

HANA ラマダンのときは特に絶対、ハラール肉じゃないとダメです。処理の仕方が違うとにおいが出るので、基本的に普段から夫は食べられないですね。ハラール肉は新大久保とかで手に入るんですけど、普通の肉より高いのでその点も大変です。

ラマダンをするにはトレーニングが必要

――HANAさんとしては食事の支度という意味でラマダンは憂鬱?

HANA 毎年、憂鬱ですね。ああ、今年も近づいてきたって思います。

 でも、ラマダン中って汚い言葉も使わないようにするし、とにかく皆が心穏やかに過ごせるようにしているので、エジプト国内の雰囲気はメチャクチャいいんですよ。ケンカもないですし。でも、結局終わった瞬間に「ギャーッ」って始まるんですけど(笑)。

――HANAさんもイスラム教に改宗したということで、モスタファさんから「ラマダンを一緒にやろう」みたいに誘われる?

HANA 絶対言わないです。ラマダンって子どものときからトレーニングが必要で、誰でもすぐできるようなことじゃないんで。最初は3時間、次は4時間とかって、徐々に絶飲食の時間を長くしていくようなトレーニングなんです。

――普段、モスタファさんは日本食を食べる?

HANA 天ぷらとか刺し身は大好きですし、嫌いな日本食ってあんまりないかな。納豆も食べられるけど、髭につくという理由で出してないくらいで。

 ただ、豚肉がNGな上に卵も嫌いだし、私は牛肉のにおいがあんまり得意じゃないので、そうなると家で肉となると鶏肉一択になって。で、彼はカレーもシチューも好きじゃないんで、メニューを考えるのが本当に大変です。

エジプトでは男女が喋りながら歩くこともNG

――食事以外で、国際結婚の難しさを感じる部分はどんなところですか。

HANA コミュニケーションですね。お互い母国語ではない英語で話しているので、それで誤解が生じることがしょっちゅうです。

 あと、笑いのツボが全く違って。私は人が転んだ話とか大好きなんで、「今日ね、スーパーのあそこで転んだ人がいてね」とかって笑って話すと、「そんなことで笑うのはよくない!」みたいな。

――人の失敗を笑っちゃいけない、みたいな。

HANA そうそう。で、逆に向こうが「面白い話があってね」と言っても、私は「何が面白いの?」ってなる。笑いが全然合わないんです(笑)。

 そもそも、エジプトだと男女が喋りながら歩くこともNGなんですよ。だからモスタファが来日してから一緒にエジプトに帰省したのは一度だけですね。エジプトに帰ると急に言動が“エジプト人”になっちゃって、「女は下がっとけ」みたいな感じになるからムカついて、一緒に行きたくないんです。

――では、エジプトでのデートは無言?

HANA 一緒に並んで歩くことはできるんですけど、「まっすぐ前だけ見て歩け」って。私は楽しく歩きたいし観光したいけど、とにかく「話すな」「何も見えないと思って歩け」みたいな。

 女性が周りをキョロキョロする行為は、他の男を探してると思われるんですよ。

エジプト人男性の女性への支配と束縛

――モスタファさんも、HANAさんを注意しないと周りから言われるとか?

HANA というより、自然と出ちゃうみたいですね。日本にいてもまだその名残が抜けないからか、話しかけてもろくに反応がないんで、一緒に外出もしないです。面白くないんで。

だからよく道で会うんですよ。新宿とかで。「なんかエジプト人が歩いてる。あ、旦那だ」みたいな(笑)。

――先程の話に戻りますが、エジプトでは、男性の女性支配がかなりキツい?

HANA 私は外国人だからそんなに感じなかったけど、エジプト人の友だちを見ている限りでは、キツいなと思います。

 例えば、夫からの電話に出なかったらもう大変。折り返してもしばらくは怒ってるし、電話に出たとしてもすぐ、「カメラをONにしろ。誰といるんだ」みたいな。

――束縛がえげつないです。

HANA すごいですよ。だから、友だちは携帯のバッテリーがなくなると「どうしよう、どこかでチャージできない?」って、いつも焦りまくっていて。

 彼女は働いていて専業主婦じゃないので、夫は100%妻をコントロールできないことが許せないというのもあると思います。

エジプトで女一人で出歩くのは難しい

――専業主婦だと夫の対応も違う?


HANA 専業主婦だと夫の完璧な支配下にあるので、逆に少しゆるいのかもしれないですね。あと、別に良いことではないですけど、専業主婦になっちゃえば、買い物とかも行かなくていいんです。基本的に女は外に出るな、という感じなので。ただただ3食のご飯を作ること、子どもと旦那の世話をすることが生活のすべてで。

 私はスウェーデンで暮らしていたこともありますけど、エジプトとは男女の力関係がまったく違いますよね。

――スウェーデンでは男女平等を感じた?


HANA たとえば、食事代を男性が払うという考え方がなかったですね。女性は「私、稼いでますから」と言って、自分が食べたものは自分で払っていました。

 そもそもエジプトでは、男性世界と女性世界がはっきり分かれていて、男性専用のカフェ、女性専用のカフェがあるし、男女カップルで遊ぶというより、男女別かグループで遊ぶような感じです。

 あと、女の人が一人で何かすることが基本的に難しいですね。

――具体的にはどんな制限が?

HANA 例えば、痴漢とかスリとかの危険があるから女性一人では電車に乗れないです。子どもの頃から「女一人で出歩くな」という教育を受けていることもあって、生活はかなり大変だと思います。

 その一方で、困ったときには男性に守ってもらえるのも確かで。「女性は重たい荷物を持たない方がかわいい」っていうのがエジプトなんで、私自身はそっちのほうが居心地は良かったです。

ベリーダンサーはエジプトでは娼婦

――HANAさんは外で仕事をして自由に生活されているので、エジプトで求められる女性像としては真逆ですよね。


HANA 彼の家もお母さんが働いていたからかもしれないですが、男尊女卑的なところが少ないということで言えば、夫はエジプトでは珍しい男性だと思います。

 それでもやっぱり、私がベリーダンサーとして活躍することより、キッチンの掃除とか寝具の入れ替えをしたときの方が彼はめちゃくちゃ喜びますね。上機嫌になって、「わあ、ありがとう」って感じです。 

――ではモスタファさんのご両親も、HANAさんのことに理解がある?

HANA 私はベリーダンサーなので、彼の実家の人と会ったことがないんですよ。ベリーダンサーってエジプトでは娼婦なんです。だから、息子が娼婦と結婚したなんて知ったら、ご両親は心臓発作で死んじゃうくらいのことなんです。

写真=深野未季/文藝春秋

「エジプトでは普通、逆なんです」エジプト人と国際結婚した日本人ベリーダンサーが語る、生活してわかった“カルチャーギャップ”〉へ続く

(小泉 なつみ)

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