最初期のチャットボット「ELIZA」の開発に謎の女性秘書が貢献していた


1966年に開発されたチャットボット「ELIZA」は、最初期のチャットボットとして知られています。バーミンガム大学でメディアや文学の歴史について研究するレベッカ・ローチ氏によると、ELIZAの研究開発には正体不明の女性秘書が大きな役割を果たしていたそうです。
My search for the mysterious missing secretary who shaped chatbot history
https://theconversation.com/my-search-for-the-mysterious-missing-secretary-who-shaped-chatbot-history-225602
ELIZAはマサチューセッツ工科大学(MIT)のジョセフ・ワイゼンバウム教授が開発したチャットボットです。ELIZAは人間が入力した文章を解析し、あらかじめ設定されたテンプレートを用いて人間っぽい返事を出力可能。ELIZAはChatGPTのような現代のチャットボットと比べると非常に単純なプログラムで動作しており、「もっと詳しく教えてください」という無難の返答を出力することも多いですが、人間の被験者に対話相手が人間かチャットボットか判断してもらう「チューリングテスト」ではGPT-3.5を上回る結果を出すなど「人間っぽい返事を出力する」という点では高い性能を誇っています。
1960年代のチャットボット「ELIZA」がチューリングテストでOpenAIの「GPT-3.5」を破る - GIGAZINE


そんなELIZAは「ELIZAと会話している人間が、『ELIZAには人間のような思考力がある』と認識してしまう」という心理的効果を生み出すことが知られています。この心理的効果は「ELIZA効果」と名付けられて現代のチャットボット研究でも言及されることがあります。
ワイゼンバウム教授は、ELIZAの開発初期からELIZA効果について懸念していました。ワイゼンバウム教授がELIZAについて述べた文献の中には「女性秘書がELIZAを使った際の反応」について細かく記されていたとのこと。例えば、1967年に発行された文献には以下のような文章が含まれてます。
My secretary watched me work on this program over a long period of time. One day she asked to be permitted to talk with the system. Of course, she knew she was talking to a machine. Yet, after I watched her type in a few sentences she turned to me and said: ‘Would you mind leaving the room, please?’
日本語訳:私の秘書は、私がこのプログラム(ELIZA)に長い間取り組んでいるのを見ていた。ある日、彼女はELIZAと話すことを許可して欲しいと頼んできた。もちろん、彼女は自分が機械と会話していることを知っていた。ところが、私が彼女の入力する文章を見ていたところ、彼女は振り返って「部屋を出ていってくれませんか?」と言った。
1976年に発行された書籍には、ワイゼンバウム教授が女性秘書の反応をもとに「比較的単純なコンピュータープログラムに短時間触れただけで、ごく普通の人に強力な妄想を誘発することになるとは思いもよらなかった」と述べていたことが記されています。ローチ氏は、ワイゼンバウム教授が残した記述から「女性秘書の反応がELIZAの研究に大きな影響を与えた」と考え、女性秘書の正体を知るためにMITのアーカイブを探索しました。しかし、女性秘書の正体に関する記録は残っておらず、MITの人事課や同窓会に問い合わせても成果は得られなかったとのこと。ローチ氏は「ELIZAの研究に影響を与えた謎の女性秘書」を「コンピューターの開発に貢献しつつ歴史に名を残せなかった人々」の一例として紹介しています。
なお、「コンピューターの開発に貢献しつつ歴史に名を残せなかった人々」の例としては、「富士写真フイルム株式会社の岡崎文次が日本初の国産コンピューター『FUJIC』を開発した際に、1人の女性計算手が大きく貢献していたものの、計算手の氏名は記録されていない」という例も有名です。
コンピューターと呼ばれた女性たち
http://www.infonet.co.jp/ueyama/ip/episode/computer.html


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