一世を風びした単語当てゲーム「Wordle」の作者が初期段階の構想やニューヨークタイムズに売却した経緯などを語る
文字を入力しながら隠された単語を当てる「Wordle」は、登場するや否や絶大な人気を集め、ルールを模倣した類似ゲームも多数登場しました。そんなWordleの開発者が2024年6月末にWordleに関するプレゼンテーションを披露し、Wordleの初期名称や仕様、ニューヨーク・タイムズに売却した理由などについて話しました。
Wordle’s original name was Mr. Bugs’ Wordy Nugz - The Verge
https://www.theverge.com/24186786/wordle-original-name-mr-bugs-wordy-nugz-wardle
ブラウザベースのデザインツール「Figma」は現地時間の2024年6月26日から27日にかけて、アップデートや新製品、「Figma AI」などの説明を行うカンファレンス「Config 2024」を開催しました。Config 2024に、Wordleの名前の由来であり開発者のジョシュ・ウォードル(Josh Wardle)氏がゲストとして登壇し、Wordleの開発中に下したいくつかの重要な決定について解説しました。
Figma Config 2024 | June 26-27 - Moscone Center SF
https://config.figma.com/
Config 2024でウォードル氏は、Wordleを作り始めた時のプロトタイプをいくつか披露しました。ウォードル氏によると、Android向けに作成された初期のバージョンの時点で、「5文字の単語を6回の試行で当てる」という基本ルールは決まっていたそうです。というのも、ウォードル氏が過去にニューヨークタイムズのインタビューで「Wordleは、言葉ゲームが好きで、ピンの色のヒントを元に推理するボードゲーム『マスターマインド』も好きだったパートナーへのプレゼントとして作りました」と明かしている通り、ルールやコンセプトにおいてマスターマインドを踏襲しているためです。
Wordleは毎日問題と答えが更新されるため、1日に複数の問題に挑戦することはできなくなっていますが、初期バージョンのものは問題を1つクリアすると新しい問題が出て、エンドレスに挑戦できるようになっていたそうです。さらに、5文字の単語がランダムに出題されるため、英語が得意な人でも知らない単語が出題される可能性がありました。
そのためウォードル氏は、単語リストが表示されて「その単語を知っている」「知らない」「知っているかもしれないがわからない」と解答する別のゲームを作成しました。ウォードル氏のパートナーがこれに回答したことで、1万300語あった5文字の単語リストを2500語まで絞り込んでいます。
以下の画像は、プレゼンテーションの中でウォードル氏が披露した古いゲームデザインの一部。ヒントを表示するカラーが変わっていたり、クリアできなくなった数を示す「✕マーク」が表示されていたりと、さまざまな見た目やゲームシステムが検討されていたことがわかります。
これらのゲームデザインは2013年に行われ、ゲームの名前は初期の案として「Mr. Bugs' Wordy Nugz」というものも考えられていたそうです。ウォードル氏は「もし私がこのゲームをMr. Bugs と名付けていたら、成功しなかっただろうと思います」と話しました。しかし、ゲームがほとんど成立したにもかかわらず、アイデアの状態で停止し、6年間開発を後回しにして手を付けなかったとのこと。
その後2020年頃に、新型コロナウイルスの流行により時間ができたこともあり、アイデアを掘り起こす形でWordleの開発を再開。その当時、ウォードル氏はニューヨークタイムズの「クロスワードパズル」や7文字を並び替えて単語を作る「Spelling Bee」というゲームをよくプレイしていました。どちらのゲームも基本的に1日に1回しかプレイできず、毎日プレイすることで「連続クリア記録」が維持できるという仕組みになっていることに注目し、Wordleでも同様のシステムを採用することにしたそうです。
結果として、ウォードル氏は2021年に個人サイトでWordleを公開しました。アプリでダウンロードできるゲームではなくウェブサイトで公開した理由として、「ゲームに関する意見として、ファンを獲得するためにはアプリが必要だというのが一般的です。しかし、私はそういったことはしたくありませんでした。ゲームをプレイするのはパートナーと私だけでよく、ウェブサイトを作るのが私にとっては当然のことでした。結果として、広く遊んでもらうためにウェブサイトで公開するのが良かったと私は考えています。リンクを共有するだけですぐにプレイできるからです」と述べています。以下の画像はニューヨークタイムズに買収される前のWordleで、デザインは現在のものとほとんど変わっていません。
Wordleは初めの6カ月間、ウォードル氏自身とパートナーの2人だけでプレイされました。その後、家族や友人へと共有され、そこから結果をTwitterで共有する機能を追加したこともあり、みるみるうちにユーザー数を増やしていきます。最終的に、2022年1月31日にニューヨークタイムズによってアメリカドルにして「7桁台前半」、日本円にして数億円規模でWordleは買収されました。ウォードル氏は「買収のニュースは多くの人を驚かせたと思います。私にとって、ゲームを売却することは非常に明確な決断でした。私は何かを作ることに興味があって、ゲームビジネスを経営したくありませんでした。Wordleは大成功したゲームであり、望めばそこから素晴らしい運用ができたことは明らかですが、ゲームビジネスを経営する上で私が楽しめないことは山ほどあり、それは私が関わりたくないものであることも明らかでした」と買収した理由について語りました。
また、ウォードル氏は「パートナーのために作ったゲームを収益化したくない」という意図も話しています。ウォードル氏はWordleで金稼ぎはしたくないという考えでしたが、Wordleは人気の高まりとともにコピーアプリがApp Storeに多数出現するなど、Wordleを無料のゲームとして個人で公開し続けるには困難な事情がありました。そのため、「ニューヨークタイムズにWordleを売ることは、ただ距離を置くための方法でした」とウォードル氏は語っています。
人気単語当てゲーム「Wordle」のコピーアプリがAppleのApp Storeに山ほどあふれていると報じられた直後に一斉消滅 - GIGAZINE
最後にウォードル氏は、流行するゲームを作りたい人へのアドバイスとして、「私は、流行させようという意図があったら、Wordleを作っていなかったと思います。Wordleはただ愛するパートナーのために情熱を注いだものであり、たまたま他の大勢の人が気に入ってくれただけです。何かを作ろうとしている場合、Wordleを作ろうとしないでください。自分が情熱を注げるもの、自分にとって意味のあるものを作ったら、他のすべてはそこから生まれます」と述べました。
07/02 09:00
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