Snapdragon X EliteはApple M4にベンチマークテストで勝てないかもしれない、その理由とは?


Qualcommの「Snapdragon X Elite」は最大3.8GHzのCPUコア「Qualcomm Oryon」×12基、最大4.6TFLOPsのGPU「Qualcomm Adreno」、4.45TOPsの演算能力を誇るNPU「Qualcomm Hexagon」を実装したPC向けSoCで、MicrosoftのAI向けPC「Copilot+ PC」対応モデルに搭載されていることで話題となりました。AppleのM2やM3よりもCPU性能が高性能であるとアピールされたSnapdragon X Eliteですが、iPad Pro(2024)に搭載された「M4」にはベンチマークテストで負けてしまう可能性を、IT系ニュースサイトのWccftechが指摘しています。
Apple’s M4 Has Reportedly Adopted The ARMv9 Architecture, Allowing It To Run Complex Workloads More Efficiently, Resulting In Higher Single & Multi-Core Gains
https://wccftech.com/apple-m4-adopts-armv9-run-complex-workloads-efficiently/
QualcommのSnapdragon X Eliteは2023年にQualcommによって発表されたArmベースのSoCで、Microsoftの提唱するAI向けPC「Copilot+ PC」のようにローカル環境でAIモデルを実行できる性能をもっています。
Microsoftが「Copilot+ PC」発表、Armプロセッサ「Snapdragon X Elite」搭載でAIをローカル実行できる - GIGAZINE


一方、「M4」は2024年5月7日に開催されたAppleの製品発表イベントで、新型iPad Proに搭載されるチップとして発表されました。
次世代Appleシリコン「M4」が登場、他社製NPUを上回るAI処理性能を実現 - GIGAZINE


M4搭載iPad ProのGeekbench 6を用いたベンチマーク結果は以下の記事にまとめ済み。スコアを見ると、前モデルのM2搭載iPad Proと比較してCPUパフォーマンスが大きく向上していることがわかります。
M4チップを搭載して前世代から大きく性能が進化したiPad Pro(2024)でベンチマークを回してみた - GIGAZINE


M4のベンチマークスコアがM2から向上したのは、単にCPUコアの周波数が上がったりコアの数が増えたりしたからではなく、M4というチップの設計が根本から変わっているからだと指摘されています。
YouTuberのVadim Yuryev氏によれば、M4はチップセットが複雑なワークロードを効率的に実行できるArmv9アーキテクチャを採用しているとのこと。Yuryev氏は、このArmv9アーキテクチャはSME(Scalable Matrix Extension)/SVE(Scalable Vector Extension)2という行列演算用の拡張命令をサポートしており、これがGeekbench 6のシングルコアおよびマルチコアパフォーマンステストに有利に働いたとWccftechは論じました。
M4 chip is finally using ARMv9 architecture which supports SME/SVE2 which means it can more efficiently run more complex workloads compared to previous NEON.
This means Geekbench scores might be higher than regular CPU rendering performance.
But for consumers, Geekbench is KING https://t.co/UZz01XpXl2 pic.twitter.com/cKX9qSBLr2— Vadim Yuryev (@VadimYuryev) May 9, 2024
実は、AppleのM1・M2・M3シリーズでは、これまで「AMX」という命令が実装されているといわれていました。このAMXはCPUで行列乗算演算を行うというもので、正式に文書化されていないものの、非公式の仕様書がGitHubにまとめられています。なお、IntelもCPUで行列乗算演算を行う「AMX」という同名の拡張命令セットをリリースしていますが、AppleシリコンでのAMXとは別だそうです。
GitHub - corsix/amx: Apple AMX Instruction Set
https://github.com/corsix/amx
このAMXはこれまでGeekbenchでは対応しておらず、パフォーマンス測定のプラスになっていませんでした。一方、Armv9アーキテクチャで実装されるSME/SVE2はこのAppleのAMXに置き換わる新しい行列乗算演算の拡張命令となっており、Geekbenchのバージョン6.3から対応しています。そのため、SME/SVE2を採用するM4から、Geekbench 6でのCPUパフォーマンスのスコアが大きく伸びたというわけです。
実際にM4はIntelのCore-i9 14900 KSをCPUのシングルスレッドパフォーマンススコアで上回っていることが報告されていますが、このSME/SVE2への対応がCPUのパフォーマンススコアが伸びた大きな理由だと指摘されています。
Apple M4がベンチマーク結果でIntel Core i9-14900KSを破ったという報告 - GIGAZINE


Snapdoragon X EliteはM4と同じArmベースのチップですが、採用しているアーキテクチャはArmv8であり、SME/SVE2に対応していません、そのため、Geekbench 6でのスコアを比較すると、iPad Proに搭載されるM4、そして2024年秋に発表されるであろうiPhone 16に搭載されるA18 Proには負けてしまうだろうといわれています。
なお、さまざまな検証結果によってM4がArmv9アーキテクチャを採用していることが示されていますが、Appleは公式にM4がArmv9アーキテクチャを採用しているとは発表していません。

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