日本で生まれ世界が育てた「絵文字」、アップル「Genmoji」の登場でどう変わる?

2025年末に標準化する絵文字「Emoji 17.0」に追加する予定の絵文字をUnicodeがアナウンスしました。その中には、ゆがんだ顔、ファイトクラウド(漫画でケンカしている場面で出てくるアレ)、宝箱、毛むくじゃらの生き物(?)、落石などが採用されています。

新たに追加される167の絵文字は、UnicodeによりEmoji 17.0に承認されると、絵文字を実装する企業(スマホメーカーやフォントベンダー、Webサービスなど)によって追加され次第、私たちユーザーが使用可能になります。

世界言語になった「Emoji」

絵文字はもともと、1999年に日本で登場したNTTドコモのiモードに収録されてスタートしました。iモード端末を契約した時にもらったドコモの「絵文字湯呑み」は、今でも実家で湯呑みとして使われています。

こうして始まった絵文字は、iPhone 3Gが日本市場に投入される際に「ケータイのコミュニケーションには不可欠」として収録され、日本語環境でのみ入力可能な状態でスタートしました。

しかし、海外のiPhoneユーザーは、絵文字を呼び出せるアプリなどを通じて、自分たちのコミュニケーションにも絵文字を取り入れるようになりました。Appleも、世界中のユーザーに絵文字を公開し、世界言語になった経緯があります。

ジェンダーや多様性の問題に対応してきた

世界言語になった絵文字は、ある意味において、カルチャーギャップやインクルーシブの問題解決におけるモデルケースになっている、と見ることができます。

そもそも、絵文字は日本独自のものだったため、食べ物や観光地などが日本に偏っている状態から出発しています。富士山、幼稚園バッジ(海外ではTofu on Fireとされていた)、自動車に貼り付ける初心者マーク(若葉マーク)など、海外の人が知らないことがたくさん収録されていました。

そこから国際化され、Unicodeでの標準化を中心に、世界中の人々が使う絵文字へと進化を続けていますが、その過程でも論争が生まれています。

有名なところでは、食べ物の絵文字に関する論争があります。特に、ハンバーガーの具材を重ねる順番や、パエリアの具の問題などが有名ですが、そのカルチャーを持つ人にとって、絵文字の表現が正しいかどうかがたびたび問題になります。

また2016年、第一次トランプ政権が立ち上がった年、米国社会において、銃の乱射事件が相次ぐなど、暴力に対する問題が持ち上がりました。これを受けて、テクノロジー企業各社は、収録していた拳銃の絵文字を水鉄砲に変え、コミュニケーションの中で暴力を目にしない配慮を施した経緯もありました。

加えて、多様性の問題もあります。もともとの絵文字では、肌の色は黄色人種、警察官や消防士は男性のみ、カップルは男女と、人種やジェンダーの多様性がない状態で収録されてきました。

これについても、肌の色を選べるようにしたり、男性同士、女性同士のカップルや家族を収録したり、職業を表すコスチュームには男性・女性双方を追加したりと、対応が進んできました。
Genmojiで大きく変わる可能性

標準化によってていねいに世界言語として育ってきた絵文字。しかし、この世界観を大きく揺るがしかねない自体が、早ければ2024年12月にやってきます。

それが、Appleが独自の生成AI「Apple Intelligence」の機能として用意している「Genmoji」です。生成絵文字、というべきこの機能では、ユーザーは標準化・収録されていない絵文字をデバイス上で作り出し、メッセージなどで利用できるようになります。

つまり、人々が勝手に絵文字を作り出せるようになり、絵文字のバリエーションは無限に広がることになる可能性を秘めています。

Appleとしては、既知のブランドや著作物でないこと、実写じゃないこと、差別的・暴力的など社会規範に反する表現でないことといった条件を与えていますが、その範囲であれば絵文字が生成できます。

となると、人々は、絵文字になっていない料理を絵文字化してみたり、羽が生えたカメ(これはIP的にアウトかも?)を作り出してみたりと、その自由度が格段に広がるのです。

AppleのiMessage同士なら、文中にGenmojiを入力でき、あたかも収録されている絵文字であるかのように使うこともできます。

ある意味においては、絵文字の表現が解き放たれるかもしれません。しかし一方で、絵文字が標準化を通じて培ってきた、世界言語として愛され使われている言語性を失うかもしれないのです。

2024年12月のアップデート以降、英語圏でGenmojiが使われるようになる予定です。そのリアクションに注目しましょう。

著者 : 松村太郎 まつむらたろう 1980年生まれのジャーナリスト・著者。慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程終了後、ジャーナリストとして独立。2011年からはアメリカ・カリフォルニア州バークレーに移住し、サンフランシスコ・シリコンバレーのテクノロジーとライフスタイルを取材。2020年より、iU 情報経営イノベーション専門職大学専任教員。 この著者の記事一覧はこちら

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