それでも地球温暖化は進む。気象災害での死者は57万人以上
アトリビューション分析の進化と同じくらいのスピード感で気候変動対策も進むといいのに…。
近年、気候変動によって激甚化した気象災害が増えています。特に去年から今年にかけての暑さや集中豪雨、洪水、台風やハリケーンの脅威は目を見張るものがあります。
世界中で発生する気象災害にどれくらい気候変動が影響したかについて、早期に分析して結果を発表している機関によると、過去20年間で最も死者が多かった気象災害ワースト10のすべてが、気候変動によって威力を増していたそうです。
20年におよぶ気候変動の爪跡
「特定の気象災害にどれくらい気候変動が影響したか」について、温暖化した世界と温暖化していない世界を比較して、気象災害の頻度や強度がどれくらい増したかを調べるイベントアトリビューション分析が行なわれるようになって、10年が経ちました。
分析を行なってきたインペリアル・カレッジ・ロンドンのワールド・ウェザー・アトリビューションの報告書によると、2004年以降に最も人的被害が大きかった熱波、暴風雨、洪水など10件の気象災害で、少なくとも57万人の命が奪われました。
激甚化する干ばつ・暴風雨・熱波・豪雨・洪水
最も多くの死者を出したのは、2011年に東アフリカの「アフリカの角」と呼ばれる地域にあるソマリアを襲った干ばつで、25万人以上が亡くなりました。気候変動の影響によって干ばつがより起こりやすく、激甚化したといいます。
それに次いだのは2008年にミャンマーを直撃したサイクロン「ナルギス」で、死者は13万8336人にのぼりました。熱帯暴風雨は、2007年にはバングラデシュで、2013年にはフィリピンで多くの死者を出しました。これらの暴風雨は、すべて気候変動によって発生確率と激しさが増したそうです。
ヨーロッパは、エアコンが普及していない(これまで必要ない地域が多かった)ことから、熱波による被害が相次いでいます。2010年にはロシアで5万5000人以上、15年にはフランスで3,000人以上、22年はヨーロッパの広い範囲で5万3000人以上、翌23年は3万7000人超が気候変動によって激しさを増した熱波で犠牲になりました。
豪雨による洪水も大きな被害につながっています。2013年のインドにおける豪雨では、6,000人超が死亡しました。23年のリビアで発生した洪水では1万2000人以上が命を奪われました。豪雨によってダムが崩壊、大洪水が起こったリビアの気象災害は記憶に新しいのではないでしょうか。
この57万人は、気候変動によって激しさを増した気象災害が原因で亡くなりました。報告書は、現在の気温上昇(産業革命前から約1.3度上昇)レベルでも異常気象がいかに危険か、そして温室効果ガス排出量削減の緊急性を明らかにしています。
報告書はまた、最も多くの死者を出した気象災害10件のうち、熱波が4件を占め、そのすべてがヨーロッパだったことを「驚くべきこと」と指摘します。
暑さ関連死について、「世界のほとんどの地域で起こっている、報告や調査が行なわれていない数十万人の暑さ関連死は含まれていない」と強調しています。つまり、暑さに脆弱(ぜいじゃく)なグローバルサウスの最も貧しい後発開発途上国における暑さ関連死は、国際的な災害のデータベースに登録されていないため、正確な暑さ関連死の数はわからないということになります。
適応策と気候変動対策が急務
ワールド・ウェザー・アトリビューションの共同設立者であるインペリアル・カレッジ・ロンドンの上級気候学者フレデリケ・オットー氏は、アトリビューション分析が「化石燃料の燃焼が気候変動を引き起こし、気候変動が死と破壊を引き起こすという単純な事実を浮き彫りにしている」と指摘します。
気候変動を止めるために必要なものはそろっているのに、石炭・ガス・石油の使用を続けることで激甚化する気象災害で失われていく命があるという事実を軽視してはいけないと思います。
現在の世界各国の気候変動政策では、今世紀末の気温は約3度上昇してしまいます。パリ協定で掲げる努力目標である1.5度の2倍です。長い目で見ると、世界の気候は今が最も穏やかで、ここから先は激甚化の一途をたどります。
世界は、1.5度や2度、3度はおろか、1.3度の気温上昇に適応する準備がまったくできていないことになりますね。気候変動対策が遅々として進まないなか、温暖化だけが猛スピードで進んでいきます。さて、どうしましょうか…。
Source: World Weather Attribution
Reference: Inside Climate News
11/11 11:00
GIZMODO