脳波を読み取るヘッドホン「MW75 Neuro」。音質はいいけど価格に見合う?

241020mw75neuro

Photo: Dua Rashid - Gizmodo US

ニューヨークで設立された高級オーディオブランドMaster & Dynamic(以下M&D)。そのプレミアムな音と美しいデザインで、オーディオファンの心を掴んで離しません。

が、今秋発売された(日本は現時点では未発売)MW75 Neuroは、音だけでなくユーザーの心、いや脳に寄り添うヘッドホンとして話題。脳波を読み取り、集中力やストレスなどをサポートしてくれるんですから。

脳波を読み取るヘッドホンとは、さて…。米Gizmodo編集部が使ってみました。


M&DのハイエンドヘッドホンMW75に新モデルが登場しました。MW75 Neuroは、基本モデルのMW75にEEG(脳波)センサーを埋め込んでおり、価格は基本モデルから100ドルほど上がって700ドル(約10万円)。

EGGセンサーは脳の電気活動を読み取りトラッキングしますが、ヘッドホンでもその働きは変わりません。医療機器ではなく、デザインが美しいヘッドホンで脳波を読み取るというのがちょっと魅力的。見た目はMW75とほぼ同じですが、イヤーカップのしましまデザインだけがMW75 Neuroならでは。

241020mw75neuro01

Photo: Dua Rashid - Gizmodo US

脳波を読み取るMW75 Neuroは、ユーザーの集中力をより高めるために開発されたモデル。EEGセンサーが脳の動きを読み取り、ブレイン・コンピュータ・インターフェイス(Brain-Computer Interface: BCI)と連動し記憶。専用のアプリ「Neurable」に、その結果をお届けするスタイル。

アプリは集中力が高まる時間、期間を表示し、休憩すべきタイミングなどを通知してくれます。また、集中力に応じてポイントを付与。日々目標ポイントを達成できるかという、なんだかよくわからないゲーム感覚な機能も付いています。

脳波機能が価格に見合うか?

241020mw75neuro02

Photo: Dua Rashid - Gizmodo US

いいところもありますが、最初にネガティブな方から。

現時点でMW75 Neuroができることは、集中した分数をポイントと交換。1日100ポイント達成したら褒めてくれる。集中力が日々継続できるようサポートしつつ、インサイトを提供してくれる。以上。

インサイトには集中力のベスト時刻(朝とか夕方頃とか)や、タスク中に集中力が高まった時間、何をしているときが最も集中しているかが含まれます。また、チャート表示もあるので、集中力高・中・低もチェックしやすいです。

いうまでもないですが、集中力に自信がない人というか、集中できない!という人向けの製品なんですよね? 今後、脳関係のあれこれ機能を追加予定と公式は言ってますが、現在のところできるのは先述したことだけ。これで700ドルといわれると物足りなさを感じます。

ADHDの友人にこのヘッドホンの機能と価格を伝えたところ、その程度のデータでその値段は出せないと一刀両断されてしまいました。アプリも不要とのこと。その理由は、すでにその程度の情報(集中パターンなど)はわかっており、ヘッドホンやアプリに頼るまでもないからだと。

製品のターゲットである友人の話には説得力がある上、実際使ってみると自分自身も同じ結論に達しました。新しいコンセプトの端末なので、発売直後=始まったばかりの今ってまだシンプルすぎるフェーズなんです。レビュー期間は数週間ですが、それで十分というか早々に飽きちゃうというか…。

個人的には集中パターンとかトラッキングしても意味ないな、する必要ないなと感じました。いや、正確には、日常生活の中でなにか作業するたびに、自分の集中度とかパターンをチェックしてる余裕がないんですよ。もしかしたら集中力欠如気味の人は、さらにこのチェックに意味がないと感じるのではないかとすら思いました。

さらにいえばヘッドホンですからね。トラッキングのため、スマートリングのように常に身につけておける端末ではないのです。重さ378gのヘッドホンは長時間装着向けではありません。となれば、脳波をトラッキングする時間も限られるということ。重いとなれば、音楽を聴いていないときは外したくなって当然。

ちなみに装着感に大きく影響する重さの話だと、SONY(ソニー)のWH-1000XM5は250gです。Apple(アップル)のAirPods Maxなんて385gで重いといわれていました。

イヤーカップに仕込まれたセンサーは肌にくっついている必要があるので、メガネやイヤリングはもちろん、髪の毛もうまい具合に避けて装着する必要があります。これ、思っている以上に難しいんですよね。冬はニットキャップをずっと被っている派の自分からしたら、もう絶対不可能な話。

重いことによる装着感もですが、バッテリー持ちも1日つけっぱなしは無理。ANCとEEGセンサーをオンにすると8時間から9時間弱。となると、毎日充電がマストですが…個人的には無理。絶対忘れる。スマホはさておき、ヘッドホンを毎日充電なんて面倒くさすぎる! EEG機能に価値を感じなければ、面倒くさい以外のなにものでもありません。

マーケティング的には、ヨガやコーヒーブレイクのリラックスタイムでの集中力を測定するためにという話も聞きましたが、バッテリー持ちも短くて378gもあるヘッドホンを、リラックスするときにまで装着したくないと思うのはわがままなのでしょうか。

ここまできたからさらにいっちゃいますが、そもそも専用のアプリがビミョー。接続がぶつぶつ切れがちなんです。ヘッドホンの検知をまずミスったり、つながっても今度はアプリが反応してなかったり。

レビュー中、数日間はそもそも接続すらできないこともありました。アプリを再起動したり、設定やり直したり、それでもダメな日はもう放置。するとその次の日には何もなかったように使えたり。このイライラを経たところで、集中力もへったくれもないだろと。ただ、これはアプリがまだベータ版だったことが関係しているのかもしれません。

そもそも脳波関係なく、ただ音楽聴きたいだけなのに、バッテリー切れやBluetooth接続できずに使えない。脳波機能では、髪型や装着具合でうまく検出されない。日常的に使うヘッドホンにしては、気難しすぎません?

少なくとも自分にとっては、1日中使える日常ヘッドホンではなかった以上、集中力が高まるのは夕方!といわれても信用できません。「夕方に使うことが多かったから、そもそも他の時間知らないでしょ?」と思っちゃうもん。

241020mw75neuro03

Photo: Dua Rashid - Gizmodo US

音質やANCは文句なし

先に文句ばかりいってしまって恐縮ですが、脳波トラッキングとしては正確で優秀。そこは最大限評価したいです。集中力が落ちたとき、タスク後の集中時間のレポートは役立つ要素もありました。「最も集中できていたのは4分間」というレポートには、自分の不甲斐なさも感じました…。

MW75 Neuroを使うということは、脳波を確認したい、自分の脳の動きを知りたいという欲求があってこそなので、この動機が強い人は使いこなせるはず。また、これを使っているからこそ意識が高まり、結果集中力が高まるというのもある気がします。

目標達成100ポイントは、もっと上でもいいのかも。達成しちゃうとやる気がフェードアウトしてしまうので。

そもそも脳うんぬん以前に、これプレミアムオーディオメーカーMaster & Dynamicのヘッドホンなんですね。なので、ANCやサウンドクオリティには申し分なし、エクセレントです。脳波機能をオフにしてしまえば、M&Dの高級ヘッドホンなのです(まぁ、オフにするならNW75を買えばいいのだが)。

未来より今の話をしよう

241020mw75neuro04

Photo: Dua Rashid - Gizmodo US

M&Dいわく、MW75 Neuroは、今後ChatGPT機能(頭の動きでメッセージに返信するなどを予定)や、Spotify連携、脳の動きに関するさらなる機能を追加予定だといいます。今後のアップデートはとても楽しみなのですが、あくまでも今使えるもの、現時点での評価だと価格に見合う端末とはいい難いのが正直なところ。

アピール・期待されている機能が「将来的に使えるもの」であって、発売時にはそこに到達していないということがあります。最近では、HumaneのAIピンしかり、Rabbit R1しかり、iPhone 16のApple Intelligence機能もそうだといえるでしょう。ただし多くの消費者は今買って今使うわけです。いつになるかわからない先を見据えてガジェットを買う人はそう多くはないはず。

MW75 Neuroもそこに疑問を感じてしまうヘッドホンでした。将来性は高いのかもしれません。でも、今買った以上、評価したいのは今なんだよ、と。

ジャンルで探す