この魚の脚、歩けるだけでなく“舌”の役割も。脚で味がわかるって…

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© Anik Grearson

ちょっと変わった姿、そしてちょっと変わった行動をする魚、ホウボウ。

6本の脚のようなモノを使って海底を歩くことで有名なんですが、脚のようなモノは胸びれの一部で、胸びれから生えています。これまで、ホウボウが“海底に埋まった獲物”を掘り起こす様子は漁師たちによって観察されていましたが、その正確な仕組みはわかっていませんでした。

この度、ついにその謎が解明。ホウボウの脚には“味覚”があることがわかったのです。

脚に舌がついている

ハーバード大学の分子生物学教授Nicholas Bellono氏は、

これは、非常に驚くべきことですが、私たちの手足の発達に寄与するのと同じ遺伝子を使って脚を成長させ、その後、私たちの舌が食べ物を味わうのに使うのと同じ遺伝子を使って、獲物を見つけるために脚を転用した魚ということです。

と述べています。

Bellono教授の研究チームは、この謎を簡単な実験によって解明したそうです。まず、ホウボウを水槽に入れ、そこに貝を埋めます。対照実験として、海水だけを入れたカプセルも置きました。予想通り、ホウボウは貝を掘り起こし、海水入りのカプセルの方は掘り起こしませんでした

この行動が、触覚ではなく味覚に基づいているものであることを確認するため、味を感じるはたらきをする味蕾(みらい)を刺激する化学物質を含む貝のエキスを入れたカプセルで実験を繰り返しました。するとやはりホウボウは、脚が触れたものを掘り起こす様子が観察されたのです。

接触しなくてもおいしいとわかる舌

さらに驚くべきことに、ホウボウは実際に獲物に触れなくても、それが美味しい餌であることを察知できることも判ったのです。ホウボウの味覚受容体は非常に敏感で、砂を通して拡散する化学物質を検出することができるのです。ただし、感知できるのは、100mm以内にある食物に限られていることも判明しました。

この発見があまりにも珍しいことだったので、研究チームは2つの論文に分けて発表しました。両方とも科学誌Current Biologyに掲載されました。最初の論文では実験を要約し、ホウボウの脚にある複雑な感覚システムについて述べています。この魚の肢は乳頭と呼ばれる小さな突起で覆われていて、その中には味覚と触覚の両方に敏感な細胞が含まれているそうです。

研究にも携わったスタンフォード大学のDavid Kingsley教授は、

ホウボウの種類によって、脚にある感覚構造がこれほど異なることに驚きました。このシステムはホウボウとその他大多数の魚との違いやホウボウの種間の違い、そして構造や感覚器官から行動に至るまでのあらゆる面での違いなど、複数のレベルでの進化的革新を示しています。

と述べています。

口以外の場所に味覚がある生き物、意外にいる

食べ物が入ってくる場所が口である私たち人間にとっては、口以外の部分で味を感じるのはちょっと想像が難しいですよね。

しかし、他の動物ではちょっと変わった場所に味覚受容体があることは、そんなに珍しくありません。ハエも足で味を感じますし、触角や翼にも味に関与する細胞がある昆虫も存在します。なので、動物が食べ物を味わう新しい方法を進化させることはできると知られてはいましたが、ホウボウについてはどのように舌付きの脚が発達したかは明確ではありませんでした。それが2つ目の研究でチームが答えている謎です。

その謎を解くために、チームはホウボウの遺伝子を入念に調査。すると、「Tbx3a」というタンパク質を発見しました。これはDNAがメッセンジャーRNAに転写される過程に関与するタンパク質なんだそうです。Tbx3タンパク質は以前から、人間を含む脊椎動物の後ろ足の発達に重要な役割を果たすことで知られていて、ホウボウも例外ではないことがわかりました。そしてさらに、ホウボウのTbx3aタンパク質には他の役割もあることがわかったのです。実験用のホウボウの胚の遺伝子を編集することで、チームはTbx3aが乳頭の発達や、魚が味わったものを掘り起こす習性にも重要であることを発見しています。

多くの特徴が新しいもののように見えても、実際は長い間存在してきた遺伝子やモジュールから構築されているのです。これが、古い部品をいじって新しいものを作り出すという進化の仕組みなんです。

と、Kingsley教授は説明しています。チームはホウボウが生み出した進化のプロセスをより良く理解するために、さらなる研究を進めたいとしています。

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