残酷にイルカを貪るシャチの群れ。その生態を探る研究が進む

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チリのシャチは獲物をみんなで分け分けする。

これまでにも南アフリカのシャチが強すぎて生態系を壊しているというニュースをお伝えしましたが、今回は南アメリカのシャチについて。

シャチ、強すぎるあまり海の生態系を崩しはじめる

世界中のシャチはそれぞれ違う

黒と白の模様が特徴的・象徴的なシャチですが、すべての個体が同じというわけではありません。シャチは世界中の異なる気候下で生活しています。個体群によって好む食べ物が異なり、異なる音で意思疎通を図り、異なる行動を示します。

遺伝子レベルでも違いがあることが判明しています。例えばチリのシャチは、ハラジロカマイルカが好物で、新しい研究では、獲物の肉を群れで分け合うことがわかっています。

これまでにも他の研究者たちが、シャチがアシカを食べたり、ハラジロカマイルカを追いかけたりするのは観察していましたが、捕獲しているところの観察には至っていませんでした。

それゆえに群れの行動については、あまり知られていませんでした。この群れの文化の詳細を知りたい!と立ち上がった数名の海洋生物学者たちが、ボートに乗り込み、ドローンを飛ばして観察。2022年から2023年にかけて、チリ北部のメヒジョネス湾の海域でシャチの調査を実施しました。

可能な限り多くの情報を収集するために、漁船やホエールウォッチング船にも観察の協力を求め、ボランティアにシャチの目撃場所を記録してもらいました。

まぁまぁ残酷な食べ方

Frontiers in Marine Scienceに掲載されたこの研究では、アントファガスタ大学のアナ・ガルシア・セガラ氏が率いる科学チームが、この地域で28回シャチを目撃したと記録しています。1頭のシャチだけのこともあれば、最大6頭のシャチが一緒にいるのが観察されました。

その中には成熟したオスとメス、若年個体、そして子どもも含まれていました。このチームもまた、シャチがハラジロカマイルカを追いかけるのを目撃しましたが、今回は捕獲しているところの目撃に成功したということです。

またあるときには、ホエールウォッチング船に乗っていた人が、メスのシャチがイルカを空中に投げ上げてから殺すのも目撃したということです。結構残酷だったようで、メスのシャチがイルカを口にくわえたまま、群れの他のメンバーに持っていき、みんなでイルカの体から肉をちぎり取ったとのこと。

シャチの分類の難しさ

集団で狩りすること、そして獲物を分配することはシャチの群れだけに見られる行動ではありませんが、かといってシャチ全体で見られる行動でもありません。

この行動はシャチのタイプを分類する1つの要素にすぎません。一部の研究者は、シャチをまったく新しい種に細分化することを提案していますが、現在は通常「生態型」という用語を使って区分されていて、各生態型にはシャチとその群れの大きさ、白い眼帯の模様、歯の鋭さなどの特徴があります。

セガラ氏は声明の中で、イルカの捕食を好むこと、そして比較的小さな群れサイズから、チリのシャチをタイプA、すなわち南極シャチに分類できる傾向があると述べています。

「遺伝子データを分析するために皮膚生検サンプルがあればいいのですが、南東太平洋のこの地域のシャチに関する遺伝情報がないのです。このシャチたちは非常にうまく逃げてしまいますし、知能が高いため、生検のためにボートで近づくのが難しいのです」

シャチは多様性があるため、すべての保全状況を判断するのは難しい場合があります。アメリカでは、すべての生態型が海洋哺乳類保護法の下で保護されていますが、正確な個体数は不明です。ただし2006年の推定では、海洋に5万頭いるとされていました。研究者たちは、シャチの習性や行動に関する新しい情報を集めることで、この地域のシャチをより保護できるようになることを望んでいると述べています。

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