大腸菌を利用して無限リサイクル可能なプラスチックを作る研究
ニュータイプの開発で、プラスチックの未来が変わります。
ローレンス・バークレー国立研究所の科学者チームが、無限リサイクルが可能なプラスチック開発を評価され、2024年ギズモードサイエンスフェアで受賞しました。
課題
化石燃料由来のものよりも優れた、無限にリサイクル可能なプラスチックの開発は可能ですか?
回答
ローレンス・バークレー国立研究所のチームは、石油化学製品を使用しないニュータイプのプラスチック開発に成功しました。ポリジケトンアミン(PDK)と名付けられたこのプラスチックは、大腸菌(Escherichia coli)を用いて作られています。そう、下痢を引き起こすあのバクテリアです。
当たり前ですが、このプロジェクトにおいて、大腸菌はまったく異なる目的で使用されました。同研究所分子ファウンドリーのブレット・ヘルムス氏が率いた科学チームは、大腸菌の細胞内に新しいタンパク質を取り込む遺伝子を開発しました。この遺伝子によって、大腸菌に含まれる分子の一部がPDKを構成するモノマーに形を変えます。そして、モノマー(単量体)が結合してポリマー(重合体)になります。
化石燃料由来のプラスチックはリサイクルが困難で、通常は1回しかリサイクルできませんが、PDKは永遠にリサイクルできるのだとか。さらにPDKは、耐熱性でもオールドタイプのプラスチックより優れているそうですよ。
同研究所のエネルギー技術部門に所属するコリン・スコウン氏は、この研究について
石油化学製品由来のものよりも、優れた新素材を開発するための基盤になります。
と述べています。
動機はどこから?
研究チームは、長年にわたって無限リサイクルが可能なプラスチックの開発に取り組んできました。今あるプラスチックのリサイクルの難しさ、リサイクル率の低さ、プラスチックごみによる人体や環境への悪影響が、独自のプラスチックを開発するきっかけになったといいます。
スコウン氏は、プラスチックが環境に与える影響について次のように懸念を示します。
プラスチックの製造、使用、廃棄の過程で環境に与える影響について、私たちはごく一部しか理解していないと思います。
マイクロプラスチックやPFASについて、ここ数年でどれくらい多くの事実が明らかになったかを考えてみてください。
このままだと、埋め立て地に蓄積したこれらの物質が環境中に流出し続けます。そうならないように、私たちは循環型社会の実現を目指して行動しなければなりません。
受賞理由
世界で生産されるプラスチックの99%が化石燃料由来です。異なる種類のプラスチックは一緒にリサイクルできないため、徹底した分別が必要になります。
また、Center for Climate Integrityの最新の報告書で指摘されているように、同じ種類のプラスチックでも、色や含まれる添加物が異なると一緒にリサイクルできない場合があります。そういう理由から、リサイクルするよりも、新品のプラスチックを生産する方がはるかに低コストになっています。
そしてリサイクルの困難さが原因で、人間は年間約4億トンのプラごみを排出しています。国連環境計画(UNDP)によれば、これまでに世界で排出された70億トンのプラごみのうち、リサイクルされたのは10%以下だそうです。
「プラスチックの使用をやめるべき」と言うのは簡単です。でも、プラスチックはすでに社会や生活のあらゆる場所にはびこっているので、そうは問屋が卸してくれそうにありません。
そこに「永遠にリサイクルできるプラスチック」がさっそうと登場して広く普及したら、その影響力が超巨大になるのは間違いないでしょう。
これからの展望は?
ヘルムス氏とスコウン氏は、同研究所所属のジェイ・キースリング氏と共同で、Cyklos Materialsというスタートアップ企業を設立しました。
同社は、無限にリサイクルできるプラスチックの技術を商業化して、化石燃料由来のプラスチックに取って代わるのを目的としています。ヘルムス氏は、来年中にはPDKプラスチック製品のサンプル提供を開始し、約3年後には新製品の販売を開始する予定といいます。
研究チームには、自社の製品にPDKプラスチックを使用できるかどうかを知りたいと考える企業の製品デザイナーが関心を寄せています。また、現在プラスチックを生産している化学企業も、新たなビジネスチャンスを狙って熱い視線を送っているようです。
新たなプラスチックの製造技術を世に送り出す準備ができたからといって、既存のプラスチックの再利用とリサイクルの進歩をあきらめたわけじゃありません。ヘルムス氏は今年4月初旬に、さまざまな磁気共鳴映像法を用いて分解中のプラスチックを可視化する研究論文を共同執筆しました。
研究についてヘルムス氏は
リサイクルのプロセスそのものを検証して、どのように素材を製造すればリサイクルの効率をより高められるかを明らかにしています。
と語ってくれました。
研究チーム紹介
ヘルムス氏、スコウン氏、キースリング氏がプロジェクトを主導。この研究は、エネルギー省が管轄するローレンス・バークレー国立研究所の3機関である分子ファウンドリー、Joint BioEnergy Institute(JBEI)、Advanced Light Sourceが共同で行ないました。
2024ギズモード科学フェアの受賞者リストはこちらから。
09/26 13:00
GIZMODO