NASAの巨大ロケット計画、開発費がふくらみまくっています

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NASA/Michael DeMocker
フロリダのケネディ宇宙センターにあるモバイル・ランチャー 1(ML-1)

コストは当初の6倍に、打ち上げは2029年春以降になるかも...

現在、NASAは巨大月ロケット用に移動式発射台の開発を進めていますが、そのコストが当初の見積もりからさらに22億ドル増える可能性がある、という容赦ない報告書をNASAの監察総監室(OIG)が出しました。

費用はかさみ、納期はどんどん後ろ倒しに

先日発行された報告書は、NASAのスペース・ローンチ・システム(SLS)ロケットを組み立て・移動・打ち上げるための地上構造物「モバイル・ランチャー(移動式発射台)」の開発状況を監査した結果を明らかにしたものです。

大幅なコスト超過とスケジュール遅延が判明し、モバイル・ランチャーは当初の費用の6倍かかる可能性があるとのこと。

2019年、NASAは2028年9月に打ち上げ予定のアルテミス4ミッションから使われる予定の2つ目のモバイル・ランチャー(ML-2)の設計・建造を、3億8300万ドルでベクテル(Bechtel)社に発注しました。その時点でベクテル社は、2023年3月までにランチャーを引き渡すことになっていました。しかし2022年になると、契約金額は10億ドル以上に増え、納入日は2026年5月へと延期されたのでした。

NASAは元々プロジェクト全体を5億ドル以下に抑えられると見積もっていました。しかしそんな見積もりをよそに、OIGの報告書はモバイル・ランチャーの総額が最終的には27億ドルにのぼり、SLSの打ち上げをサポートする準備は2029年春まで整わないだろうと推測しています。

OIGの見通しは、これまでの3年間に生じた予算超過と、モバイル・ランチャーが準備できるまでに残っている建設作業の量に基づくものです。

「NASAとベクテル社からの費用とスケジュールの見積もりは何度も変わり時間とともに大幅に増加したことで、NASAは資金調達の必要性を見極め、議会や他のステークホルダーに説明責任を果たし、計画と請負業者のパフォーマンスを正確に測定しづらくなっています」

と報告書には書かれていました。

「時が経つにつれてML-2のコストの見積もりを膨らませてきたという同局の経歴も、コストは現在NASAのベースライン・コミットメントで見込まれているよりも高くなるだろうという我々の評価の一因になっています」。

報告書によれば、NASAの担当者らはOIGの分析に異議を唱えており、ML-2のコスト増加は徐々に減っていくと考えているとのこと。

「ML-2の建設の開始で前進しましたが、契約の増え続けるコストへの影響と、ベクテル社が建設フェーズを通して改善されたレベルのパフォーマンスを達成し維持できるかどうかを判断できる段階ではありません」と、OIGは書いています。

予定どおりにはいかないアルテミス計画

NASAの月を再訪する計画は、コスト超過とスケジュール遅延に見舞われてきました。同局はすでに、モバイル・ランチャー1(ML-1)がフロリダ州ケネディ宇宙センターにあるスペースシャトル組立棟(VAB)から39B発射台へと運んだSLSロケットの膨れ上がった費用についての批判を受けています。

2023年5月に発表された報告書では、NASAのアルテミス計画における総投資額は2012年から2025年にかけて930億ドルに達すると予測されていました。SLSのコストだけでも2022年までに238億ドル費やされており、月ロケットの当初の予算よりも60億ドル多いことになります。

NASAはSLSのコスト削減の方法を、そのオペレーションに打ち上げサービスモデルを検討することで模索してきました。サービス契約によってNASAはロケットを所有・運用・統合する請負業者から、今後の打ち上げとペイロード能力を購入できるようになります。

2022年11月16日にアルテミス1ミッションのために打ち上げられたSLSは、無人宇宙船「オリオン」を月へ送りました。重量575万ポンド(約2610トン)のロケットは2025年9月に初の有人ミッションを遂行する予定で、アルテミス2号を約10日間に及ぶ月周回の旅へと送り出します。

これまでのところSLSロケットは予算編成における悪夢となっていますが、月上の持続可能な有人拠点を築くことを目指したNASAの野心的な月プログラムはまだ始まったばかりなのです。

Source: NASA Office of Inspector General, NASA,

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