羊を飼って電力を生み出す合わせ技。環境にもいいことづくめ

2024-08-22_SolargrazinginTexas_01_Top

Image: Enel North America

農業と太陽光発電が、石油王国のテキサスで融合する日が来るとは…。

マサチューセッツ州に本拠を置くクリーンエネルギー大手のエネル・ノースアメリカと、テキサス州で大規模太陽光発電所(メガソーラー)の植生管理を行なう家族経営のテキサス・ソーラー・シープは、持続可能な電力と農業の発展のために営農放牧型太陽光発電を拡大させると発表しました。

電力も農業もより持続可能に

エネル・ノースアメリカは、同社がテキサス州に所有する8カ所、マンハッタンの3/4に相当する41平方キロの大規模太陽光発電所に、テキサス・ソーラー・シープから貸し出された6,000頭の食肉用の羊を放牧します。8カ所の発電所では、現在2.6ギガワットの電力を供給しています。

American Solar Grazing Association(アメリカソーラー放牧協会)は、今回の提携による事業はアメリカで最大規模の営農放牧型太陽光発電になるといいます。同協会は現在、全米で約400平方キロの大規模太陽光発電所で放牧が行なわれていると推定しています。今回の事業は、その10%に相当する計算になりますね。

利点が多い羊の放牧による植生管理

羊による植生管理には利点が多いといいます。まず、立ち並ぶ太陽光パネルの下で、草刈り機では手間がかかる隅々の植物まで食べてくれます。草刈り機は石やごみなどをはじき飛ばして、パネルを破損させる可能性が高くなり、そうなるとコストも高くなってしまいます。

また、羊は草刈り機のように化石燃料で動かさなくても草を食べてくれるので、微量とはいえ二酸化炭素と汚染物質の排出を抑えられます。おまけに在来植物を自生させることで、花粉を媒介するミツバチや昆虫などの多様性が豊かになり、土壌の浸食も抑えられるとのこと。

さらに羊の排せつ物は天然の肥料になるため、土壌質の改善につながります。移動しながら植物を食べるので、排せつ物と一緒に植物の種も他の場所に移動し、生息域が広がっていきます。

エネル・ノース・アメリカは、既存の営農放牧型太陽光発電所で、有機物が200%以上改善されたとプレスリリースで述べています。

羊たちにとっても、太陽光パネルとの共生には恩恵があるんだそうです。太陽光パネルは、夏のテキサスの強烈な日差しを遮ってくれるため、羊たちの健康維持にもつながりますし、日陰のない場所での放牧よりも水を節約できます。

環境にも気候にも生態系にも良く、経済性も高く、羊たちにもいいなんて一石何鳥になるんだ?

ところで、ヤギじゃダメなのかと疑問を持ったんですけど、ヤギは電線をかじるからダメなんだそうです。ヤギさんは手紙だけじゃなく電線まで食べちゃうのか…。

羊が足りない

テキサス州では近年、大規模太陽光発電の導入が加速しています。テキサス・ソーラー・シープは、太陽光発電所を建設した事業主に羊を貸し出す事業を3年前に始めました。当時はたった1カ所に400頭の羊がいただけだったそうです。現在では、19カ所に約1万2000頭の羊を貸し出しています。展開が速すぎますね。

テキサス・ソーラー・シープの共同経営者であるJ.R.ハワードさんは、大規模な営農放牧型太陽光発電プロジェクトが急増しているおかげで、近隣の農家からかき集めても羊が足りない状況のため、羊の派遣を断らなければならなくなっているのだとか。

営農放牧型太陽光発電の現状について、ハワードさんはこう語っています

4年前にこの事業が羊産業にとって最大のチャンスだと私が話したときに笑った人たちが、今では電話をかけてくるようになりました。

ハワードさんの目標は、近いうちに自分の羊の一部を他の農家に売って、その人たちが営農放牧型太陽光発電ビジネスを始める支援をすることだそうです。

でも、今はとにかく羊が、羊が足りていません。

日本でも導入されている

日本でも、兵庫県で再生可能エネルギー発電事業を行なっている町おこしエネルギーが、7月に北海道釧路管内白糠町で、日本初となるメガソーラー規模の営農放牧型太陽光発電システム導入しました。89ヘクタールの土地で食肉用の羊を最大200頭放牧するそうです。最大出力は9,600キロワットとのこと。

日本の国土の1.8倍あるテキサス州と同じ規模、同じ速さで増やすのは難しいでしょうけど、化石燃料のように資源の価格に左右されない再生可能エネルギーの選択肢の1つとして、恩恵が多い営農放牧型太陽光発電の導入が進むといいですね。

Source: Enel North America

Reference: Canary Media, Fast Company

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