深海の鉱物が「暗黒酸素」をつくり出している

Image: NOAA via Gizmodo US

地球上の多くの生命に必要不可欠である酸素。まさか暗黒の闇に包まれた海の底でも生成されていたとは…!

酸素をつくれるのは植物だけじゃなかったんです。

海底で「鉱物」が酸素をつくりだしていた

太平洋のまっただ中、水深3,962メートルのまっ暗な海底で行われた調査により、金属鉱物が酸素をつくりだしているという新事実が明らかになりました。光合成を行なう植物や藻類のみが地球上の酸素を生成しているとの従来の考え方をくつがえす大発見です。

「酸素の存在は、この惑星において好気性生物が誕生するための大前提でした。そして、その酸素の供給は光合成を行なう生物によって始まったとこれまでは考えられていたんです」

スコットランド海洋科学協会(SAMS)に所属する海洋学者・Andrew Sweetman氏はプレスリリースで説明しています。

「しかし、今回の調査からは、光が届かないほど深い海の底においても酸素が生成されていることがわかりました。この発見を踏まえ、わたしたちは好気性生物が地球上にどのように誕生したかを考え直す必要性に迫られています」

とも。

見過ごされて10年

ことの発端は、南米沖にあるクラリオン=クリッパートン帯(Clarion-Clipperton Zone: CCZ)と呼ばれる海底山脈での調査でした。

サンプル集めに勤しんでいたSweetmanさんら研究者は、あるとき酸素の存在を偶然発見したわけですが、はじめは「調査機器が故障したかも?」と思ったそうです。

「データを初めて確認した時、センサーがバグったのかと思いましたよ。だってこれまで海底で行ったどの調査においても、酸素は消費されるものであり、生成されるものではなかったわけですから」

と、Sweetmanさん。

「なので調査を終えて家に帰ったら、センサーの調整をし直してはまたフィールドへ出かけていました。そんな調子で10年間調査を続けた中で、不思議な酸素のデータは現れ続けたんです。」

水分子が電解されて酸素に

そこで、Sweetmanさんは米ノースウェスタン大学の科学者・Franz Geiger氏に相談してみました。

Geigerさんは「多金属ノジュール(polymetallic nodule)」と呼ばれる深海の海底に存在する球状の鉱質沈着物に注目。多金属ノジュールにはコバルト・ニッケル・銅・リチウム・マンガンなどの元素が含まれていて、これらは電池にも使われています。

さらに、Geigerさんは過去の実験からサビと海水とを合わせると電流が発生することを突き止めていました。

これらのことから、海底の多金属ノジュールも同様に電流を発生させており、海水電解が起きることで酸素が生成されているのではないか?と考えたのです。

まっ暗な海底でつくられる「暗黒酸素」

調べてみたところ、果たしてそのとおりでした。たったひとつのノジュールから0.95ボルトの電流が発生していることもわかりました。これは海水電解に必要な電流の3分の2に相当します。

「このように、わたしたちは海の底に自然由来の“ジオバッテリー”を発見したというわけなんです。これらの電池は海の底で生成される暗黒酸素の存在を説明する根拠ともなっています」

Geiger氏はこう説明しています。

多金属ノジュールの採掘に「待った」

ところで、すでに述べたとおり、これらの多金属ノジュールは金属鉱物の宝庫でもあります。

そして今、いくつもの大規模な工業会社が、水深3,000メートルから6,000メートルの海底において金属元素の採掘を狙っているとのこと。

「採掘を始める前にどのように進めるべきかをよくよく考えておかないと、いずれ深海における酸素の供給源を根絶やしにしてしまいかねません」とGeigerさんは警鐘を鳴らしています。

Reference: Phys.Org
Image: NOAA

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