光より速い素粒子「タキオン」は“存在可能”かも

Image: Pixabay via Gizmodo US

光速を超えることは理論的に可能?

真空中における光の速度は秒速29万9792.458km(約30万km)。1秒間に地球を7周半できる速さです。

これは宇宙最速であり、ほかのいかなるものにも超えることができない速度であると、アインシュタインが特殊相対性理論において提唱しましたよね。

けれども、「もしも光速を超える速度で移動できる物体があったとしたら」という仮定に基づいた幻の素粒子も、物理学上定義されています(ほとんどの物理学者は存在しないと考えているらしいですけど)。

タキオンとは

それがタキオン(tachyon)。語源であるギリシャ語(tachy)は「速い」を意味しています。

常に光の速さを超える速度で動いているとされる仮想的な粒子ですが、タキオンがこれまで実際に観測された例はなく、あくまで理論上考えられうるものとして扱われてきました。

タキオンは存在しうるのか

アクシオン(axion)暗黒光子(dark photon)など、この宇宙を構成しているであろうと仮定されている多くの素粒子と同様に、タキオンが存在する証拠はまだ見つかっていません。

ですが、もしもタキオンが存在していたのなら、素粒子物理学や場の理論上における問題を解くカギになるだろうと信じている物理学者もいます。

そんな学者たちにとって希望の光となりそうなのが、Physical Review D誌上に最近発表されたある論文です。

なんでも、ワルシャワ大学の研究者によれば、特殊相対性理論とタキオンの存在とは理論上矛盾しないとのこと。矛盾しないとは、すなわち存在している可能性も高まったということになります。

タキオンの矛盾点

光速を超えた物体は、通り過ぎた後にしか見えないことを表現しているイメージ。GIF: Mysid - Self-made in Inkscape via Wikipedia

タキオンが存在しないだろうと言われてきた理由はいくつかあるそうです。

一つめは、「タキオン場」と呼ばれる虚数の質量を持つ量子場は、基底状態が不安定だとされているため。

二つめは、もしもタキオンを観測できたとしたら、観測者の位置によって観測されるタキオンの数が異なって見えてしまうため。

また三つめは、タキオン粒子の持つエネルギーが負の値を取る可能性があるためです。

タキオンは数学的に矛盾しない?

これらの矛盾点に対して、ワルシャワ大学の研究チームはタキオンの観測時において初期状態と最終状態のどちらをも把握することによって解決すると論じています。

そのような場合においてならタキオンの仮説は数学的に矛盾しないそう…なのですが、残念ながら訳者にはサッパリ。さらに詳しく知りたい方は、どうぞこちらのプレスリリースと、もとの論文もご参照ください。

新たな種類の「量子もつれ」

今回の研究の成果は、もうひとつあったそうです。

タキオンの矛盾点について研究を進めていく上で想起されたのは、過去と未来をごちゃ混ぜにする類の量子もつれ。従来の量子理論においては存在しなかったものでした。

「過去が現在に影響するかわりに未来が現在に影響しうるというアイデア自体は、物理学においてなんら新しいものではありません」とワルシャワ大学の物理学者・Andrzej Dragan氏は説明しています。さらに、「このような見解は決して一般的ではなかったんですが、今回においては理論上この結論に至らざるを得ない状況となりました」と話しているのも興味深いですね。

因果律の崩壊

もしもタキオンが存在していて、タキオンに乗せて光よりも速く信号を送ることができたとしたら、未来から過去へ情報を伝えることもできてしまうことになります。

そうなると、「過去の原因によって現在の結果が生じている」という、わたしたちの世界においてこれまで当たり前だった因果律が崩壊してしまうことになります。

これまではアインシュタインの特殊相対性理論をベースにしてこの世界の「当たり前」が説明されてきました。もしもタキオンのように光よりも速く動く物体が存在したとしたら、この世界の当たり前はすべて考え直されなくてはならなくなります。

そう考えると、なんだかワクワクしますね。タイムトラベルも、時空ワープも、映画の世界の中だけだと思っていたことが現実に起こりうるかもしれないのですから。

Reference: Telescope Magazine, University of Warsaw
Image: Pixabay, Wikipedia

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