宇宙の誕生「ビッグバン」、2つあった説

Image : SXS
2つのブラックホールが衝突し、重力波が発生する前の状態を表したコンピュータシミュレーション

2023年4月3日の記事を編集して再掲載しています。

宇宙の6分の5を構成すると仮定されている謎の物質「ダークマター(暗黒物質)」。

これまで物理学者は、ダークマターは宇宙が始まったとき(ビッグバン)と同じ閃光の熱でできたと考えていました。しかし、このダークマターは、私たちが実際に見たり、感じたり、観察したりできるものを構成する「通常の物質」とほとんど相互作用することがなく、一種のパラレルワールド、影の世界に存在するモノなんです。

ひょっとするとダークマターは、宇宙が始まってから数日後に、ある種の「影の」ビッグバンでできたのかもしれません。そんな理論が新たに誕生しました。

ビッグバンが2つ存在した?

テキサス大学(UT, The University of Texas)オースティン校の物理学者キャサリン・フリース氏とマーティン・ウィンクラー氏は、「暗黒のビッグバン」と呼ぶ新しい理論を展開。ダークマターがこれまで検出されなかった理由と、科学者がそれを最終的に検出できるようになるかもしれないことを説明しています。

「私たちのシナリオでは、ビッグバンが2つ存在します」と、2月に査読前論文として公開された理論についてウィンクラー氏は述べています。「一般的に知られているのは“熱い”ビッグバンであり、可視物質と放射線の熱いプラズマを作ります」。しかし、ダークマターはもっと後になってから「暗黒のビッグバン」でつくられているのです。

私たちに馴染みのあるビッグバンのシナリオでは、宇宙空間が高温で混沌としていた初期の宇宙において、原子のような「通常の物質」ができたとされています。熱かった宇宙が冷えて体積が膨張すると、原子が融合して銀河や星のような構造に。そこで登場したのがダークマターです。

重力についての理解が誤っていない限り、銀河の中に星を閉じ込めるのに十分な重力をほかの物質では得られないからこそ、ダークマターは存在しています。ダークマターはまさに「宇宙の案内人」で、その重力で原子をあるべき位置に導いてきたのです。

そして今日まで、ダークマターは銀河の位置を決め、私たちの銀河系を含む全ての銀河系はこの「目に見えない粒子の雲」によって支えられてきました。

シナリオとは異なる大胆な新説

しかし、ダークマターはどこから来たのでしょうか? ほとんどの理論は、その他すべてと同じビッグバンでできたとされています。

しかし、ウィンクラー氏とフリース氏はその仮定に疑問を持ち始めました。「構造形成に関連する時期より前にダークマターがあったという証拠がまったくない」とウィンクラー氏。つまり、「通常の物質」が形成されたとき、ダークマターはまだ存在していないかもしれないのです。「実際私たちは、ビッグバンができて1カ月後にダークマターができた可能性を見つけた」と話しています。

これはダークマターの測定を試みる科学者に、大きな影響を与える大胆な新説です。もし「暗黒のビッグバン」が本当に起こったのなら、影響は現在でも宇宙全体に波及しているはず。

巨大な天体が劇的な変化を遂げると、石を落とした池の水面のように空間が揺らぐ「重力波」を発生させることがありますが、2017年にはLIGO(レーザー干渉計重力波観測所)が、衝突する2つのブラックホールから発生する重力波を測定し、ノーベル物理学賞を受賞しました。しかし、「暗黒のビッグバン」が生み出す重力波は動きが遅くて微弱なため、LIGOでは検出できないのです。

そこでこの論文の著者たちは、「パルサー」と呼ばれる遠くで点滅する星々に、重力波が与える影響を調べるという代案を出しています。パルサーは強い磁場を持って回転している星で、灯台のように一定の間隔で地球に向けて光を放っています。このような周期的な光は、重力の波が宇宙を通過する際に衝撃を受けます

フリース氏とウィンクラー氏によれば、国際パルサー・タイミング・アレイ(Pulsar Timing Array, PTA)やスクエア・キロメートル・アレイ(Square Kilometer Array, SKA)のような、たくさんの光線から得られる情報を組み合わせた今後の研究によって、「暗黒のビッグバン」の確かな証拠が見つかるかもしれません。

ダークマターが測定できるかも

この新しい理論は、物理学者によるダークマター探索の限界ギリギリの重要な瞬間に誕生しました。そもそもダークマターが謎な理由は、通常の物質を通り抜けているように見えるからです。科学者たちは、地球を通過するダークマターの粒子をつかまえるため、地下に巨大な検出器を設置しましたが、この「捉えどころのない幽霊」は何の痕跡も残しません。

物理学者たちは、重力だけがこの暗黒の世界と私たちの世界を結びつけていて、この重力は小さすぎて実験室で測定できないのではないかと懸念していました。

しかし今回の新しい理論は、この懸念を払拭しています。「ダークマターが純粋に重力的に結合したものであることを考慮すれば、暗黒ビッグバンはダークマターの生成メカニズムとして最も妥当でしょう」と、ウィンクラー氏。「ダークマターが重力的な結合しかしないとしても、この理論を検証する大きなチャンスが残されているというのが、今回の論文の嬉しいところ」。

実際に今後数年間で、暗黒ビッグバンの余震が明らかになり、我々の宇宙についての知識における大きなギャップがついに埋まるかもしれませんね。

筆者ジョセフ・ハウレットはフリーランスのサイエンスライターで、スタンフォード大学の物理学者。josephjhowlett.github.ioで検索してみてくださいね。

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