増えるトラックとの事故。義務化されているのに自動ブレーキ搭載車が増えない謎

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Image: Midjourney

なんでトラックには自動ブレーキついてないの?」って思っている人、多いはず。 実は私もそのひとりでした。

トラックに関連する痛ましい事故が相次いでいます。2024年5月6日に群馬・伊勢崎で対向車線に大型トラックがはみ出し、2歳の子どもをはじめとして一家3人が亡くなる死亡事故が起きました。その翌週には首都高5号線で大型トラックが渋滞中の乗用車に突っ込み、3人が亡くなる大事故が発生。

これらの事故に共通しているのは自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)が作動した形跡がなかったこと。「トラックに自動ブレーキがついていれば防げたのに」と思ったわけです。

実は10年前からトラックの自動ブレーキは義務化されていた

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Image: 国土交通省「先進安全技術に関する現行制度等」資料より(3枚目参照)

ですが、よくよく調べてみると、国土交通省の資料によればトラックも乗用車同様に自動ブレーキが義務化(上の図参照)されています。しかも乗用車の自動ブレーキ義務化よりも早く、2014年から順次義務化されているというから意外すぎです。

22t超の大型トラックは、2014年11月以降に発表された「新型車」に自動ブレーキが義務化されています。20t超~22t以下のトラックは2016年11月以降、8t超~20t以下のトラックは2018年11月以降、3.5t超~8t以下のトラックは2019年11月以降の新型車から自動ブレーキが装備されているのです。

ここでいう「新型車」とは、フルモデルチェンジもしくは新しく誕生したモデルのこと。モデルチェンジ直後ではないけれど、ディーラーで新車として購入できる「継続生産車」は、22t超トラックは2017年9月以降、20t超~22t以下のトラックは2018年11月以降、8t超~20t以下のトラックは2021年11月以降、3.5t超~8t以下のトラックは2021年11月に販売されたモデルから、自動ブレーキが義務化されています。

すべての新車のトラックには自動ブレーキがついている

つまり2021年11月以降は、新車として販売された3.5t以上のすべてのトラックに、自動ブレーキが標準装備されているのです。2017年までは自動車取得税の軽減、2018年4月までは自動車重量税の軽減などの税制特例もあり、政府もトラックの自動ブレーキの普及に注力しています。

ちなみに乗用車の新型車への自動ブレーキ装着義務化は2021年11月、継続生産車を含めたすべての新車に自動ブレーキが装着されるのは、2025年12月。トラックよりも4年も遅れているのです。さらに、輸入車の乗用車においては、新型車が2024年7月、すべての新車への義務化が2026年7月です。

現実的にはトラックは義務化されてないどころか、乗用車よりも先をいっているわけです。さらに2023年1月には、トラックの自動ブレーキ性能の強化が発表されました。停止状態の前方車両に時速70kmからでも衝突しないこと、時速20kmでの走行時に前方を横断する歩行者に衝突しないこと、といった厳しい基準が設けられています。この新基準の適用は新型車が2025年9月、継続生産車が2028年9月となっています。

義務化されても、自動ブレーキ付きトラックは増えてない?

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Image: 一般社団法人日本自動車工業会資料より(15枚目参照)

自動ブレーキが義務化されたトラックですが、一般社団法人 日本自動車工業会の調査では、新車販売台数は伸び悩んでいます(上の図参照)。2022年の普通トラック(大中型トラック)の新車販売台数は5.7万台。過去10年で最低の水準となっています。これは新型コロナによる景気後退、世界的な半導体不足が原因でしょう。

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Image: 一般社団法人日本自動車工業会資料より(24枚目参照)

それに対し、トラック購入時の中古車の割合は毎年増え続けていて、2022年には運輸業で13%、自家用では24%と過去最高に(上の図参照)。

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Image: 一般社団法人日本自動車工業会資料より(12枚目)

トラック自体の台数は毎年ゆるやかに増加していて、2022年のトラック保有台数は約159.5万台となっています。新車の数が減り、中古車の割合が増え、さらに長年使い続けるオーナーが増えることで、トラックの平均寿命も長くなっています。一般社団法人自動車検査登録情報協会の「2023年車種別の平均車齢推移表」によれば、トラックの平均車歴は11.84歳。毎年伸び続けています。新車は自動ブレーキ付きになりましたが、自動ブレーキなしの古いトラックが、まだまだ大勢を占めているのです。

10年後の日本は、トラック事故が減っているかも

「働き方改革」でドライバーの労働時間に上限が課される、いわゆる2024年問題も顕在化しています。トラックドライバーの労働時間が削減されるなか、新たなドライバーは確保できず、結果的に売り上げが減り、新型車を導入する余裕がなくなる…という物流・運送業界の負のスパイラルが想像できます。車歴はさらに長くなりそう

国内のトラックのうち、自動ブレーキがついている割合は発表されていませんが、新車販売台数が減り、中古車が増え、平均伸びている現状を考えると、すべてのトラックに自動ブレーキがついている状態になるのは、10年以上先になるかもしれないですね。

Source: 国土交通省, 一般社団法人日本自動車工業会

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