温室効果ガスを75%削減? アルミのクリーン製錬所がアメリカに誕生へ

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地球温暖化対策として大きな役目を担うと言われているアルミニウム。アルミ業界が一皮剥けるために必要なのは何か。それは、アルミ精錬を含むアルミ業界全体が化石燃料から脱却し、クリーンな方法を確立していくこと。つまり、大規模な改善が必要だということ。

日本では1970年代の業界ピーク以後、アルミ精錬は衰退。現在は日本国内でのアルミ製錬はなく、すべてのアルミ地金を輸入に頼っています。

一方、アメリカでは、45年ぶりに国の資金援助によって、アルミ精錬工場の新設計画が進んでいます。この新工場こそがアルミ業界をよりクリーンな方向へ導く立役者! アメリカでは、次世代アルミ精錬をどう取り組んでいるのでしょう。

アルミ精錬には膨大な電力が必要

多種多様なものに使用されるアルミニウム。その精錬には莫大な電気を必要とします(日本国内のアルミ精錬衰退の背景には電力コスト高騰があります)。その電力の大半は化石燃料によるものであり、それゆえに米アルミ精錬業界は、年間11億トンもの二酸化炭素排出量への責任を担っています。アルミ生産を含む重工業産業は、アメリカ国内の温室効果ガス排出量の三分の一近くをしめています。

業界変革は大きなチャレンジであり、そこに手を差し伸べようとしているのが米エネルギー省。今年3月、重工業による気候変動への影響を減らす戦略デモプロジェクトとして60億ドル(約9400億円)の予算を発表

45年ぶりの新アルミ精錬工場

この予算の一部が提供されるかもしれないのが(現在最終決定待ち)、Century Aluminum Company(センチュリー・アルミニウム)。最大5億ドル(約780億円)の資金提供をうけ、アメリカ国内では45年ぶりとなるアルミ精錬工場を新たに建設する予定です。

クリーンでエコ、地球環境に優しいことを掲げた新工場の名前はThe Green Aluminum Smelter、その名も「グリーンアルミ精錬所」です。実現すれば、米国内のアルミ第一次生産量を2倍にする一方で、旧式精錬所よりも二酸化炭素排出量は75%削減できる想定。その鍵(かつ課題)になるのは、再生エネルギーの活用と電力効率化です。

日本のアルミ精錬と同様に、1980年代以降、電力高騰によりアメリカ国内のアルミ精錬も減退。1980年の年間生産量465万トンをピークに、その後80%も減少(環境団体BlueGreen Allianceのレポートより)。日本とは違い、国内精錬ゼロにはなっていないものの、海外工場に多くを頼っているのが現状です。

一方で需要は増すばかり。ダートマス大学とプリンストン大学の研究チームによる昨年のレポートによれば、アメリカ国内の風力・太陽光エネルギー業界は、2035年まで年間800万トン近いアルミが必要になるといいます。これ、2022年にアメリカが生産した第一次&再生アルミの2倍もの量なんです…。

アルミを必要とする業界はほかにもたくさんあります。電気自動車だって、送電線だって、身近なものでは食器からスマホにだって必要なんですから。

需要増のアルミをどうやって手にいれる?

今まで以上のアルミが必要なことは、疑う余地なし。では、どうやってアルミ生産を伸ばすのか…。

アルミの生産は、アルミが多く含まれる鉱石ボーキサイトを、アルミナと呼ばれる精製粉末にするところから始まります。これを精錬して金属を作ります。ボーキサイト採掘を含むこの生産プロセスは、残念ながら有害物質を排出し有毒な廃棄物をうむ環境破壊に繋がっています。二酸化炭素排出量の多さで、地球温暖化にも影響を与えてしまいます。ちなみに、アルミ生産プロセスでの二酸化炭素排出量の6割は精錬時の電力によるもの。

環境非営利団体ClimateWorks Foundationの企業脱炭素の専門家Rebecca Dell氏いわく「本当に泣きたくなるほど膨大な電力量なんです。(業界がカーボンフットプリント削減に取り組むなら)まず最初にすべき最重要課題はクリーンエネルギーを使うことでしょう」

世界で取り組まれているアルミ精錬のクリーン化

アルミ精錬業界のクリーン化という取り組みは、もちろんアメリカだけでなく世界で行なわれており、クリーンエネルギー活用で劇的に炭素排出量削減を見せている国もあります。ノルウェーカナダ(ケベック)の精錬所では水力発電を、アイスランドでは豊富な地熱資源を活用することで、温室効果ガスの排出量を削減しています。

が、世界最大の第一次アルミ生産を担う中国では、世界トップの座を死守するため、工場の電力は石炭火力発電なんですけれどね…。

センチュリー・アルミニウムは、アイスランドで低炭素精錬を運用しており、年間30万トンのアルミを生産。アメリカ国内でも、ケンタッキー州とサウスカロライナ州であわせて2つの小規模工場があるので、エネルギー省の予算獲得を足がかりに低炭素精錬を拡大するととともに国内での存在感を強めたい考え。

45年ぶりとなる新アルミ精錬工場について、センチュリー・アルミニウムもエネルギー省もその稼働開始時期についてはコメントしていません。どれほどのアルミ生産が可能かも明言されていません。ただ、期待されているのは年間100万トン弱。(2023年のアメリカ第1次アルミ生産は約75万トン。)

工場新設にかかる費用

新工場については詳細不明点がたくさんあるものの、1つ明確なことがあります。それは、工場建設には莫大なコストがかかるということ。業界脱炭素に注力する非営利団体Industrious Labsのアルミニウム担当Annie Sartor氏いわく、エネルギー省からの資金はすべて使い切るどころか、きっとそれ以上の費用がかかるだろうと。「大規模でモダンな工場新設は、(エネルギー省予算の)倍はかかるのではないでしょうか」

エネルギーコンサルタントのWood Mackenzie氏いわく、中国以外のアルミ精錬所では、年間生産100万トンにつき40億ドルのコストがかかると言われています。

莫大な建設費用はもちろん、その工場が必要とするクリーンエネルギーはどっからもってくるの?という問題もあります。エネルギー省によれば、センチュリー・アルミニウムはケンタッキー州に工場建設を希望しているそうですが、実はケンタッキー州はクリーンエネルギーに強い州ではないのです(2020年の太陽光発電力はたったの30.1メガワット風力発電なし)。

Sartor氏は、工場に電力を供給するには、80万世帯の年間電力に匹敵する電力量が必要だといいます。つまり、ケンタッキーにクリーンなアルミ精錬所を作るとすれば、まずこの莫大な量のクリーンエネルギーを作れる施設から作らなければならないと。

センチュリー・アルミニウム担当者は「変革プロジェクトの前進にわくわくしている」と取材にコメントはしてくれたものの、必要なクリーン電力をどう確保するのかなど詳細についてはノーコメント。米エネルギー省も同じく詳細については触れていません。

誘致バトル勃発?

いずれにせよ、実現すれば45年ぶりとなるアルミ精錬所の建設地はまだ公には決定していません。センチュリー・アルミニウムが推すケンタッキー州なのか、はたまたほかで噂されているオハイオ州なのか。

誘致には政治な力も働くのは必至。なんせ、センチュリー・アルミニウムの予想では、精錬所誘致によって1,000を超える組合系の求人、5,500を超える建築求人が発生するとのこと。

Dell氏は、この求人はケンタッキー州などにとって経済発展のチャンスとして非常に魅力的だといいます。また、建設候補地域はクリーンエネルギー最先端エリアとは言い難いだけに、この誘致をきっかけに環境問題への取り組みがアップすることも期待されているでしょう。

製鉄業界への刺激

センチュリー・アルミニウムが国からの予算を獲得し計画を実行できたら、つまりクリーンなアルミ精錬所を実現する術を見つけることができたら、製鉄などほかの産業にも大きな影響があります。他産業にも変革の希望、チャンスがあるということ。同時に、クリーン化しないと負けるというプレッシャーにもなります。

鉄はアルミの最大のライバル。クリーンという高い付加価値を自社の金属につけることができれば、自動車業界へのアピール力も高まります。アルミ精錬のクリーン化成功は、つまり、製鉄のクリーン化の起爆剤となるかもしれないのです。

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