「新規参入でもシェアを取れる」トリドールHD粟田社長が語る、外食産業市場のダイナミックな可能性とは?
一軒の焼き鳥屋から始まり、「丸亀製麺」の大ヒットから東証プライム上場を果たしたトリドールホールディングス(HD)。今や国内外に約20の飲食ブランドを持つまでに成長したグローバルフードカンパニーは、なぜ次々と繁盛店を生み出せるのか。本連載では『「感動体験」で外食を変える 丸亀製麺を成功させたトリドールの挑戦』(粟田貴也著/宣伝会議)から、内容の一部を抜粋・再編集。「外食は最も身近なレジャー」をコンセプトに快進撃を続けるトリドールの戦略ストーリーと、成功の源泉とも言える独自の経営論について、創業社長・粟田貴也氏が自ら明かす。
第1回は、個人経営が全体の約4分の3を占める日本の外食市場を俯瞰、「多くの起業家に外食産業を目指してほしい」と語る粟田氏の思いとは?
<連載ラインアップ>
■第1回 「新規参入でもシェアを取れる」トリドールHD粟田社長が語る、外食産業市場のダイナミックな可能性とは?(本稿)
■第2回 「製麺所の風情を手放したら丸亀製麺ではなくなる」トリドールHD粟田社長が語る“二律両立”の経営とは?
■第3回 省人化の時代に、なぜ丸亀製麺は“増人化”へ舵を切ったのか?トリドールHD粟田社長が語る「体験価値」(11月26日公開)
■第4回 トリドールHDが始めた「KANDO開拓コミッティ」とは?離職率が下がれば顧客満足度が高まるメカニズム(11月29日公開)
■第5回 トリドールHD急成長の土台、従業員一人ひとりが持つ成長哲学「トリドール3項」とは?(12月10日公開)
■第6回 国内外で年間250店、トリドールHD粟田社長はなぜ新規出店の意思決定を人に任せるのか?(12月17日公開)
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26兆円の外食産業市場で大きな夢を追いかける
約26兆円。これは、2019年の日本の外食産業の市場規模です。2020年に新型コロナウイルス感染拡大の影響で市場が大きく縮小したものの、2022年からは持ち直し傾向にあり、日本フードサービス協会会員社の外食産業市場動向調査によると、2023年には2019年比で売上が107.7%まで回復しています。情報通信や不動産などに比べれば小規模かもしれませんが、3%のシェアが取れれば7800億円、5%取れれば1.3兆円です。これは十分挑戦し甲斐のある大きな市場だと思います。
外食産業市場の特徴は、寡占が進んでいないこと。個人経営が市場全体の約4分の3を占めているのです。また、外食を専業とする年商1000億円超の約10社の売上を束ねても、総売上高の占有率は10%弱。上場している外食企業は約100社あり、それらを合計した市場占有率も約30%です。日本には上位5社まででマーケットシェアの80%以上を占める、といった業界がいくつもあります。それに比べると外食産業は流動的なマーケットが大きく、新規参入でもシェアをとる余地があると言えるでしょう。
新陳代謝が激しく、新規の参入が多いところも特徴です。かくいう私も、経営については何も知らず、焼き鳥が焼けるというだけで店を開いたド素人参入でした。毎年新しい個人店がオープンし、その中から一定の割合で繁盛店が出てくるため、上位企業の寡占化が進まないのです。
私が39年前に「トリドール3番館」を開業した時は、今よりも、外食産業の社会的地位が低かったように思います。今でも外食産業はそこまで可能性がある市場だと思われていないのではないでしょうか。しかし、私が「飽くなき成長」をモットーに事業拡大できるのも、26兆円の市場規模があるからです。やればやるだけ店舗数、そして売上を伸ばすことができる。複数の業態を展開すれば、そのスピードはさらに上がります。
さらに海外に飛び出してみると、そこには信じられないほど巨大な市場がありました。アメリカの外食産業市場は約70兆円、中国の外食産業市場は約80兆円です(ユーロモニターデータベースを基にトリドール推計の2019年市場規模)。そして、飲食サービスはグローバルに展開できる可能性の高い業種です。特に日本の飲食ブランドは大きなポテンシャルを秘めています。世界的に健康志向が高まるなか、日本食への注目も高まっているからです。
これだけダイナミックに展開できる領域は他にないと私は思っています。外食産業に出会っていなければ、こんなに大きな会社をつくれなかったでしょう。ぜひ多くの起業家に外食産業を目指してほしい。
そもそも、飲食店の運営は「ごちそうさま」と感謝され、代金もいただけるという稀有な商売です。私は早くに父を亡くし、高校生の頃から工場の作業員や警備員のアルバイトをしていました。知り合いから紹介してもらったこれらのアルバイトは、1回毎に現場が違い、わけもわからず指示されたことをやったり、決められた場所に立っていたりするだけ。勤務中は時間が早く過ぎることを願うばかりで、仕事とは苦痛な時間と引き換えに金銭をもらう行為なのだ、という少しひねくれた考え方をしていました。
大学生になって喫茶店で働きはじめ、その考えは一変しました。ここでは、コーヒーの淹れ方を学んだり、お客様とお話ししたりすることで店の売上に貢献できるのです。自分が行動することで結果を変えられる。言われたままのことをやっていた時とは違い、自己効力感が得られ、仕事が楽しくて仕方なくなりました。初めて働くことに意義を見出せたのが、飲食店の仕事だったのです。
「接客が楽しいのであれば、他の小売業でも良いのでは」と思われるかもしれません。私が飲食店の良さだと感じているのは、発注、調理、提供、そしてお客様に喜んでいただくという一連のサイクルが短いところです。さすがに野菜をつくったり、魚を獲ったりするところからはできませんが、それ以外の作業がほぼ一人で完結する点にもやりがいを感じたのです。
さらに飲食店では目の前にお客様がいて、自分が作ったものを食べていただける。反応がリアルタイムで返ってきます。日々の営業や生活の中の気づきが、事業の成長に直結するのです。究極のtoC(対消費者)の事業が飲食店運営ではないでしょうか。こんなにおもしろいビジネスは他にありません。
なぜ外食市場の成長は止まってしまったのか
ここで少し外食産業の歴史を遡ってみます。私は1961年生まれで、子どもの頃は身近に外食する店、特にチェーン店はなかったと記憶しています。当時の外食産業の市場規模は5兆円ほどだったようです。食品の購入も八百屋や魚屋といった個人店がメインでしたが、この後スーパーマーケットが台頭してきます。チェーンストア理論が脚光を浴び、近代化が進んだ時代でもありました。
1970年、日本におけるファミリーレストランの先駆けである「すかいらーく」の1号店がオープンします。ファミリーレストランは最先端の業態として、大行列ができていました。私の世代には、ファミリーレストランでナイフとフォークの使い方を覚えた、という方も多いのではないでしょうか。
「マクドナルド」の日本第1号店ができたのは1971年です。ここから1980年まで外食産業は急成長期にあり、毎年10%近い対前年伸び率を維持していました。
1981年の外食産業市場規模は15兆6800億円。80年代も毎年平均6%の対前年伸び率を維持。市場は拡大し続け、「マクドナルド」や「ロッテリア」、「ケンタッキーフライドチキン」などのファストフード、「すかいらーく」や「デニーズ」といったファミリーレストランが売上の上位を占めていました。それでも上位100社の市場占有率は10%ほどで、個人店も大手企業と同じように伸びていたと考えられます。
外食産業は1997年にピークを迎え、市場規模は29兆円に達します。そこから業界全体の伸び率はゆるやかに減少し、2003年からはほぼ横ばいとなりました。
コンビニエンスストアなど購買チャンネルの増加は外食市場がシュリンクしている大きな要因でしょう。ただ、私は消費者のニーズが多様化し、消費者が求めるものと飲食店が提供しているものの間にギャップが出てきたことも、市場が縮小した一つの理由だと考えています。
例えば、高度経済成長期のファミリーレストランは、憧れの存在だった洋食メニューを多く揃え、店の造りも含めて外国で食事をするような体験を提供していました。それが大人気となり、いくつものファミリーレストランチェーンが生まれたのです。しかし、ファミリーレストランは今、行列ができるような人気の業態ではありません。消費者のライフスタイルが変化し、昔は特別だった洋食も、今は日常になっています。
今でもファミリーレストランを好む方はいるけれど、「子連れや若者だけでも入りやすいから行く」「長時間の作業や勉強をする場として行く」など、当初とは違う目的を持っているユーザーが多いのではないかと思います。そうなると競合はカフェ業態になり、価格競争に巻き込まれてしまう。
今消費者が何を求めているのかインサイトをうまく捉え、それを業態に落とし込めなければ、外食産業はさらに縮小していってしまうのではないかと危惧しています。
<連載ラインアップ>
■第1回 「新規参入でもシェアを取れる」トリドールHD粟田社長が語る、外食産業市場のダイナミックな可能性とは?(本稿)
■第2回 「製麺所の風情を手放したら丸亀製麺ではなくなる」トリドールHD粟田社長が語る“二律両立”の経営とは?
■第3回 省人化の時代に、なぜ丸亀製麺は“増人化”へ舵を切ったのか?トリドールHD粟田社長が語る「体験価値」(11月26日公開)
■第4回 トリドールHDが始めた「KANDO開拓コミッティ」とは?離職率が下がれば顧客満足度が高まるメカニズム(11月29日公開)
■第5回 トリドールHD急成長の土台、従業員一人ひとりが持つ成長哲学「トリドール3項」とは?(12月10日公開)
■第6回 国内外で年間250店、トリドールHD粟田社長はなぜ新規出店の意思決定を人に任せるのか?(12月17日公開)
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11/12 06:00
JBpress