年間入園者数が3000万人を突破、東京ディズニーリゾートはなぜ驚異的なリピート率を維持できるのか?

写真提供:共同通信社

 日本企業のPBR(株価純資産倍率)の低さが、近年取り沙汰されている。PBRは証券市場における株主からの評価を表す指標と言えるが、東証プライム上場企業のうち約4割がPBR1倍を割り込んでいるのが実情だ。一方、高PBRを実現する企業は、いかにして持続的な成長を維持しているのか。本連載では『ビジネススクール企業分析 ゼロからわかる価値創造の戦略と財務』(西山茂編著/日経BP)から、内容の一部を抜粋・再編集。高PBR企業が持つ経営力の秘密に迫る。

 本連載の後半では、東京ディズニーリゾート(TDR)を運営するオリエンタルランドにスポットを当てる(西山茂・前綾香著)。第4回は、高いリピート集客力で好業績を維持する同社が、顧客を飽きさせないために続けている先行投資戦略について考察する。

<連載ラインアップ>
第1回 ユニ・チャームは「成熟期」を迎えながら、なぜ高PBRを維持できるのか?
第2回 不織布・吸収体に経営資源を集中、ユニ・チャームの高収益を支える「本業多角化、専業国際化」とは?
第3回 新興市場がユニ・チャームの成長を牽引、海外展開を成功に導く「勝ちパターン」とは?
■第4回 年間入園者数が3000万人を突破、東京ディズニーリゾートはなぜ驚異的なリピート率を維持できるのか?(本稿)
第5回 「待ち時間を減らす」東京ディズニーリゾートの“客単価”を引き上げたオリエンタルランドの方針転換とは?
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■ USJとの比較でわかるTDRの特徴 ①

 オリエンタルランドの比較対象として、大阪府にあるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)があります。

 USJは非上場であり、売上高は公開していないものの、AECOMのレポート(下図)によると、来園者数は2022年には東京ディズニーランドを抜いて、テーマパークの世界3位におどり出ました(東京ディズニーシーは8位)。

 各テーマパークの敷地面積は、東京ディズニーランドは51ha、東京ディズニーシーは49ha、USJは54ha(開園時)で、ほぼ同じです。来園者数の順位逆転には、TDRがコロナ対策のため、まん延防止等重点措置が解除された2022年3月以降も入場制限を実施していたのに対し、USJは2022年3月以降は入場制限をかけなかったことが影響していますが、USJの来園者数が年々増加していることも事実です。

 USJは米ユニバーサル・スタジオの日本版として開業しましたが、その後ライセンス契約を他のコンテンツにも広げました。最近では『鬼滅の刃』などのアニメやキャラクターとコラボレーションし、次々に新しいアトラクションやイベントを導入しています。

 有名なところで言えば、2014年に総工費450億円をかけオープンした「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」、2021年に任天堂とコラボレーションし総工費600億円以上をかけ新設した「スーパー・ニンテンドー・ワールド」があります。また2023年は東京の渋谷ストリームでの「ハロウィーン・ホラー・ナイト」を実施しており、大阪以外の場所でも新たな施策を実施しています。

 一方、オリエンタルランドは、米ディズニーの保有する強いコンテンツはありますが、同時にディズニー以外のキャラクターを使用できません。使用許諾の制限も厳しいため、企業や芸能人とのコラボレーションも困難です。そのため、ディズニーキャラクターのブランド力を最大限に活かす必要があります。

驚異のリピーター集客のポイント①
「感動体験」への継続的な投資

 オリエンタルランドが投資家から高く評価されているのは、顧客からの支持が高く、そして安定していることにあります。

 TDRの入園者数は、コロナ前には年間3000万人を超えていました。日本の人口は約1億2000万人ですから、1人1回来園すると仮定した場合、4年間で日本人全員が1回は来園する計算になります。

 ということは、何度も繰り返し来園してもらえなければオリエンタルランドは業績を維持拡大できないわけですが、それをずっと実現してきたところに同社の凄さがあります。つまり驚異的なリピート率こそがオリエンタルランドの好業績の核心です。

 リピート集客力の源泉は、言うまでもなく米ディズニーのコンテンツです。新作映画として生まれた新しいコンテンツのアトラクションを新設するなど、先行投資を継続することによって顧客を飽きさせず、「また来たい」とリピーター化することに成功しています。下の図の通り、毎年のように新しいアトラクションやショーを導入するなど、常にリニューアルを図っています。

 アトラクションに対する先行投資はコロナ期にも途絶えませんでした。2020年から2024年の4年間で4000億円以上の投資を実施しています。コロナ真っ只中の2020年9月には、美女と野獣エリア、ベイマックスのハッピーライド、ミニーのスタイルスタジオがオープンし、さらに2021年4月にはファンタジーランド・フォレストシアターがオープンしました。これら4施設の総工費は約750億円にも達しています。

 2024年6月6日には、東京ディズニーシーの新エリアとして「ファンタジースプリングス」が開業しました。

「アナと雪の女王」「塔の上のラプンツェル」「ピーターパン」を題材としており、3つのレストラン、ホテルも併設しています。その投資額は約3200億円に達し、TDR史上最大規模の拡張案件です。東京ディズニーランドの総事業費は約1800億円、東京ディズニーシーの総工費はホテルミラコスタを含めて約3350億円でした。

 コロナによる営業停止期間中、オリエンタルランドのキャッシュフローはもちろん急速に悪化しました。2020年3月31日から6月30日の3カ月間に現金及び預金が831億円減少していました。

 それでも、前述のように財務体質を盤石にしてきたおかげで、2020年6月30日時点で1781億円の現預金が残っていました。さらに非常事態に備えた資金確保の手を打っており(後述)、アトラクション投資を継続することができました。

 また、オリエンタルランドはアトラクションのみではなく、パレードやショーに多額の投資をしています。2002年以降でも総額400億円以上の投資をしています。

 パレードやショーなど目の前で展開される「その場限り」のライブイベントは、大人にも子供にも大きな感動を与えます。TDRのパレードやショーは、最新技術が導入され、ライブイベントとして高品質で、多くの人に「また観たい」と思わせます。

 オリエンタルランドの有価証券報告書でもイベントは集客効果が高いこと、またアナリストの見解としても高頻度で来園するコアファンの来園目的の1つがショーであることが説明されています。

 東京ディズニーランドのパレードは35~45分間、600~900mの距離を移動しながら公演します。東京ディズニーシーの場合は、海上ショーがメインであり、10~30分間です。ホテルやレストランからもショーを見ることができます。

 新しい試みとして、「ジャンボリミッキー!レッツ・ダンス!」は、ゲストがキャラクターと一緒にパフォーマンスするインタラクティブなショーとして人気を博しました。このようなショーはポジティブな思い出をもたらす没入体験となり、再来園の動機付けの1つとして働いています。

 また、新しいショーの開始は多くのメディアに取り上げられることもあり、リピーター集客に効果的です。東京ディズニーランド開園時にマーケティンググループに所属していた渡邊喜一郎氏が執筆した『ディズニー こころをつかむ9つの秘密』には、オリエンタルランドの広報対応の工夫が記載されており、「継続的にメディアに出続けること」を目標に掲げ、メディア露出度をコントロールしているということです。

 イベントというトリガーで大きくマスコミに取り上げられた時期の後は露出を控えるようにし、顧客を飽きさせない仕組みを作っていたということです。

<連載ラインアップ>
第1回 ユニ・チャームは「成熟期」を迎えながら、なぜ高PBRを維持できるのか?
第2回 不織布・吸収体に経営資源を集中、ユニ・チャームの高収益を支える「本業多角化、専業国際化」とは?
第3回 新興市場がユニ・チャームの成長を牽引、海外展開を成功に導く「勝ちパターン」とは?
■第4回 年間入園者数が3000万人を突破、東京ディズニーリゾートはなぜ驚異的なリピート率を維持できるのか?(本稿)
第5回 「待ち時間を減らす」東京ディズニーリゾートの“客単価”を引き上げたオリエンタルランドの方針転換とは?
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