不織布・吸収体に経営資源を集中、ユニ・チャームの高収益を支える「本業多角化、専業国際化」とは?
日本企業のPBR(株価純資産倍率)の低さが、近年取り沙汰されている。PBRは証券市場における株主からの評価を表す指標と言えるが、東証プライム上場企業のうち約4割がPBR1倍を割り込んでいるのが実情だ。一方、高PBRを実現する企業は、いかにして持続的な成長を維持しているのか。本連載では『ビジネススクール企業分析 ゼロからわかる価値創造の戦略と財務』(西山茂編著/日経BP)から、内容の一部を抜粋・再編集。高PBR企業が持つ経営力の秘密に迫る。
前回に引き続き、第2回も日用品メーカーのユニ・チャームの事例を紹介(西山茂・石地由賀著)。同社の高収益性を象徴する「本業多角化、専業国際化」の事業戦略とその狙いについて見ていく。
<連載ラインアップ>
■第1回 ユニ・チャームは「成熟期」を迎えながら、なぜ高PBRを維持できるのか?
■第2回 不織布・吸収体に経営資源を集中、ユニ・チャームの高収益を支える「本業多角化、専業国際化」とは?(本稿)
■第3回 新興市場がユニ・チャームの成長を牽引、海外展開を成功に導く「勝ちパターン」とは?
■第4回 年間入園者数が3000万人を突破、東京ディズニーリゾートはなぜ驚異的なリピート率を維持できるのか?
■第5回 「待ち時間を減らす」東京ディズニーリゾートの“客単価”を引き上げたオリエンタルランドの方針転換とは?
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横展開のポイント①
「本業多角化、専業国際化」で世界中の収益機会を得る
ユニ・チャームの収益力の高さの背景には、同社の事業展開に関する考え方があります。同社は以下のように説明しています。
「当社は、経営資源をコアコンピタンスである不織布・吸収体の加工・成形技術に集中させ、その中で差別性が高いものに特化することで、高付加価値な商品・サービスの開発に成功しています。このような本業の中でも、国境を越えられるだけの差別性のあるものを専業と位置づけ、積極的に海外に進出することで『本業多角化、専業国際化』を実現しています」
「本業多角化」とは、同社の強みである不織布・吸収体の加工・成形技術を活用し、新たな価値を幅広く生み出す戦略です。不織布・吸収体関連事業に経営資源を集中させ、ニーズにきめ細かく応える商品を市場へ数多く投入しています。
不織布・吸収体の加工・成形技術という大元は同じではあるものの、それをいろいろな種類の商品に応用して展開することで、「人のライフステージ」を広くカバーすることを可能にしています。
商品ターゲットは、赤ちゃんからお年寄りという幅広い年齢層、そしてペットも含めて、バランスよく展開しています。新生児のときは紙おむつを使用し、女性の場合は欠かせない生理用ナプキンを使い、出産した場合には子供に紙おむつを使用し、年齢を重ねた後は大人向けケア商品を使用する。ペットを有する方はペットケア商品を使用する。
このように人のライフステージを幅広くカバーする事業展開によって人口動態や市場変化の影響を極小化し、持続的な収益性の維持を実現しています。
一方で、「専業国際化」とは、海外に大きな収益機会がある商品を選んで、世界へ市場を拡大させることです。日本のように高齢化が進んでいる先進国では、高齢者や大人向けのケア商品の需要が高まり、一方で新興国では、衛生問題の課題解決につながる生理用品が大きく伸びる余地が存在します。
この点に関してユニ・チャームでは、「不織布・吸収体商品の普及率はその国の1人当たりGDPの水準と大きく関係しており、当社では、1人当たりGDPが3000ドルを超えると生理用品やベビー用紙おむつの普及が一気に進み、さらに1人当たりGDPが高まっていくと生理用品やベビー用紙おむつの普及率が高止まりする一方で、大人用紙おむつやペットケア用品の普及が拡大すると考えています」と分析し、マクロ経済の動向を踏まえながら戦略を立てています。
市場の成長ステージが異なる国・地域を横断して、それぞれの国や地域が抱える課題やニーズに合う商品を段階的に取りそろえることによって、低価格競争、薄利多売を避け、高い収益性を維持できる可能性が高まります。つまり、市場のニーズを的確にくみ取った商品を投入し、他社製品との差別化を図り、コモディティ化による利益率の低下を回避してきたところに、ユニ・チャームの収益力の高さの秘密があると言えます。
このようにユニ・チャームは、経営資源を不織布・吸収体の加工・成形事業に集中させ、その中で差別性、収益性の高いものは海外へと広げる「本業多角化、専業国際化」を展開して成功してきました。
花王やライオンは、ユニ・チャームと同じくドラッグストアで日用品を販売しているものの、商品ラインナップは幅広く、総花的な経営となっています。一方で、ユニ・チャームは、商品により用途は異なりますが、不織布・吸収体を用いた商品に絞っているのです。不織布・吸収体をコアとして、そこから派生する製品をターゲットや特性別にセグメント分けして開発し、世界各国に展開しています。
ここまで説明してきたライフステージ戦略として強調したいのは、市場ステージの異なる国・地域で、現地のニーズに合う商品展開をしていることです(後述)。それを徹底することによって、商品の高付加価値による収益性維持が実現できているのです。
横展開のポイント②
ノンコア事業を売却して不織布・吸収体関連に集中
実は、ユニ・チャームの祖業は現在の主要事業と全く異なっています。事業転換によって、現在の事業構成になったのです。
ユニ・チャームは、1961年に建築資材の製造・販売で創業しており、当時の社名は「大成化工」でした。1963年には生理用ナプキンの製造・販売を開始し、1974年には生理用タンポン分野にも進出。同年に現在の社名であるユニ・チャームになりました。その後、今のユニ・チャームのコアとなる不織布・吸収体関連の事業を拡大させ、1976年に上場しました。
1980年代後半から1990年代には、海外展開を開始してアジア地域を強化すると同時に、さまざまな新事業にも乗り出し、幼児教育事業や結婚情報サービス事業、リゾート事業なども展開していました。
しかし2000年代に祖業であった建材事業を含めてノンコアと判断した複数の事業を売却し、不織布・吸収体関連の事業に経営資源を集中させました。大胆に事業ポートフォリオの再編を図り、現在のユニ・チャームへの変貌を遂げたのです。コア事業以外の撤退は、創業者の高原慶一朗氏から経営を引き継いだ、長男の高原豪久社長による決断でした。
ただし、この頃に開始したペット事業は、同社のコアと親和性があったため、今日まで成長を支えています。1986年に多角化の一環として開始し、1998年に味の素ゼネラルフーヅからペットフード事業を吸収しました。2011年には米国ペット用品大手ハーツ・マウンテンを買収し、事業拡大を図りました。
その後、ユニ・チャームはグローバルな成長を加速させていきます。今ではアジア以外にも、アフリカや南米などの成長市場に参入しています。
<連載ラインアップ>
■第1回 ユニ・チャームは「成熟期」を迎えながら、なぜ高PBRを維持できるのか?
■第2回 不織布・吸収体に経営資源を集中、ユニ・チャームの高収益を支える「本業多角化、専業国際化」とは?(本稿)
■第3回 新興市場がユニ・チャームの成長を牽引、海外展開を成功に導く「勝ちパターン」とは?
■第4回 年間入園者数が3000万人を突破、東京ディズニーリゾートはなぜ驚異的なリピート率を維持できるのか?
■第5回 「待ち時間を減らす」東京ディズニーリゾートの“客単価”を引き上げたオリエンタルランドの方針転換とは?
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10/25 06:00
JBpress