経済産業省・物流企画室長の中野剛志氏に聞く CLO設置の目的や選任者が果たすべき役割とは?

写真提供:共同通信社

「物流2024年問題」対策として2024年4月に可決・成立した「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」(物流総合効率化法)において、一定規模以上の荷主企業に対して「物流統括管理者(Chief Logistics Officer:CLO)」の設置が義務付けられることになった。対象となる企業は、2026年度までに社内でCLOの選任を進めなければならない。本連載では『CLOの仕事 物流統括管理者は物流部長とどう違うのか』(森隆行著/同文舘出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。経済産業省・物流企画室長の中野剛志氏(肩書は2024年6月時点)へのインタビューから、改正法のポイントやCLOに求められる役割を解説する。

 第1回は、CLO設置が法制化された狙いや、CLO選任者に求められる法的義務などについて見ていく。

<連載ラインアップ>
■第1回 経済産業省・物流企画室長の中野剛志氏に聞く CLO設置の目的や選任者が果たすべき役割とは?(本稿)
第2回 経済産業省・物流企画室長の中野剛志氏に聞く CLO誕生で進むサプライチェーンの「手の内化」とは?
■第3回 経済産業省・物流企画室長の中野剛志氏に聞く CLOを起点として期待される企業間の「水平連携」とは?(10月28日)
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経済産業省 商務・サービスグループ 消費・流通政策課長物流企画室長(併) 中野 剛志氏

森:これからCLOが法制化されるわけですけれども、CLOの条件、基準はどのようなものになるとお考えですか(※注 2024年4月26日、国会において「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」が可決・成立。同年5月15日、改正法〈令和6年法律第23号〉が公布)

中野:今回の改正法における「物流統括管理者」としてイメージしているのは役員クラスで、各社の物流全体を統括できる方です。ここでいう物流とは、「販売物流だけではない」というのがポイントです。調達物流と販売物流の両方を俯瞰して見て、経営にサプライチェーンマネジメントの観点を反映できるようなしかるべき方、ということになります。

 時折、「うちの会社には、役員じゃないんですけど物流担当の部長がいるので、彼でもいいですか」というような質問を受けますが、私たちのお答えは、その方が物流全体を統括し、調達も販売も見ることができて、かつ、それに関連する製造・販売分野、あるいは投資の決定にも影響を与えられる方であれば、別に役員にこだわることはない、というものです。

 逆に役員であっても、実力がなかったら駄目ですね。もちろん、各社の状況に応じてではありますが。もう1つ、よくある質問が「ホールディングスで1人でもいいですか」といったものです。

 もちろん、ホールディングス全体で見たほうがそのホールディングス全体の物流の効率化という観点で適切という場面はあるので、そういう方がおられるのはまったく構わないんですが、法律上は法人格ごとの設置になると思います。

 だから法律上はホールディングスで1人とはいきませんが、ホールディングス全体で見たほうが全体の物流が効率化できるという意味ではいいアイデアで、法律の外でそういう方がCLOのような存在としているのは、大変面白い取り組みだと思います。

森:なるほど。調達物流・販売物流の両方の物流を統括し、他部門にも影響して、ということでは、サプライチェーン全体を統括するというイメージですね。

中野:そうです。その意味では、物流の効率化のために、例えば積載効率を上げるためにパッケージ、もっというと製品自体の形を設計段階から織り込むようなら、製造部門に影響を与えられる方じゃないといけないし、納品のリードタイムを延ばすことで物流を効率化しようとする場合は、当然、販売部門と販売戦略立案に影響を与えなきゃいけないし、物流の自動化・効率化のために投資を行なうということであれば、投資の優先順位として、それを高く位置づけられるように経営にコミットしている方じゃないといけません。

森:CLOの設置が義務づけられるのは、すべての会社ではありませんね。どういう会社が対象になるのでしょうか。

中野:法律上の設置の義務を課されるのはすべての会社ではなく、法律が成立した後の施行の段階で決まってきます。努力義務は全事業者に課されますが、努力義務にとどまらない物流統括管理者の設置等の法的義務のほうは、国が指定する「特定事業者」と呼ばれる、比較的大規模な企業に課されます。

 その規模の基準は、荷主であれば扱っている物資のうち一定条件を満たすものの年間の合計重量、その基準をどこにするかは、施行の段階であらためて決めていきます。大雑把にいえば、比較的大手の企業が、CLOの設置を義務づけられます。

 法律上は、特定事業者は一定期間の物流改善のための計画を策定して国に提出し、毎年度の自社の物流の状況を国に報告するといった義務になります。そうした中長期計画の策定や報告の提出という行為の一義的な責任は、事実上、CLOが負うことになると思いますので、その責任は重いといえますね。

森:なるほど。では、法律が今国会で成立すると、いつから実施となりますか?

中野:細かく分かれていて、本体部門、いわゆる全事業者への努力義務等の措置は、法律の公布後1年以内の施行となります。その1年以内の間に特定事業者の基準を決めたり、荷主企業が守るべき判断基準を策定したりするという流れになります。

森:そうすると、CLOを任命するのはいつからになるでしょうか?

中野:特定事業者の基準が法律の公布後1年以内に決まり、その後、各事業者が年間の重量を計測し、それを踏まえて特定事業者が指定されてからになりますので、その意味では全事業者への努力義務が課されてから、さらに1年先になるというイメージです。

森:すると、2026年というイメージでしょうか?

中野:そうですね。うちの会社は特定事業者になるとわかってくるのが2026年からで、その際に指定されたりということになると思います。

森:ありがとうございます。この法律が成立することで、何人くらいのCLOが誕生すると見込まれますか。

中野:対象となる企業は3000社くらいと見込んでおり、3000人くらいですね。

森:法的にCLOに求めることは、目標などを作成し、報告するということでしょうか。

中野:CLOに求められているのは、自社の物流全体を管理・統括すること、と法律上はなっています。事実上、計画の策定や国に対する報告の責任は、一義的にCLOが前面に立つ感じになるでしょう。

 場合によっては、今話題の「トラックGメン」で国から勧告を受けたりすると、会社の名前が公表されるわけですが、会社の代表は社長であっても、世間の目はCLOに向くでしょうね。その意味では、CLOの責任は重いし、それに伴って社内での地位もそれなりに高くなるんじゃないでしょうか。

森:今いわれた「トラックGメン」は、もう動いていますよね。

中野:動いています。

森:CLOはまだ任命されていませんが、会社に対してはすでにいろいろやられているわけですね。

中野:はい、2024年に入り勧告はすでに2社に対して出されています。

森:そうすると、今は経営者に目が向けられていますが、今後、そういう目が向くのはCLOということになるのですね。

中野:そうなるでしょうね。「あそこの物流は何をやっているんだ」「CLOは出て来い」となりますよね。

森:その意味では、法律で定めること以外にも大きな責任があるわけですね。

中野:法律は「物流を全部統括する人間を選任しろ」と書いてあるくらいですが、おそらく法律に書いてある以上の大きな効果が出てくるでしょう。今回の改正物流効率化法が施行されると、特定事業者のうち、例えば荷待ち・荷役の時間が長すぎるなど、物流に対する悪影響が大きいような会社に対して勧告や命令を出せることになっています。

 勧告された会社の名前は公表することになります。また、設置の義務が課されるのは特定事業者に限られますが、全事業者にCLOの設置が推奨はされると思います。

 もちろん、中小零細の会社もあるので、いちいち義務にはしませんが、ただ、「物流がわかる人がちゃんといてくださいね」という意味では、法律上の厳密な義務ではありませんが、設置が推奨されると思います。

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