なぜ知識や能力が足りない人ほど「馬鹿の山」に登りたがるのか

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知識や能力が足りない人ほど「馬鹿の山」に登りたがる。

「ホワイト過ぎる職場に、成長の機会を奪われると感じて辞めてしまう」――若者の退職を招く新たな問題に、「厳しくしても優しくしてもダメなら、いったいどうすればいいんだ!」と頭を抱える担当者は多い。本連載は、今どきの若者とどう関わるのが正解か、20年近く企業の組織改革に携わってきた経営コンサルタントが、11の具体的シーンで解説した『若者に辞められると困るので、強く言えません――マネジャーの心の負担を減らす11のルール』(横山信弘著/東洋経済新報社)から内容の一部を抜粋、編集。

 第5回目は、部下がちょっと実績を出して自信過剰になる「認知バイアス」の典型例を紹介。適切な戒め方を解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 ゆるくてもダメ、Z世代を劇的に変える「ちょうどいい」マネジメントとは?
第2回 部下を褒めるよりも100倍大事な「アクノリッジメント」とは何か?
第3回 「スピード」と「完成度」、どちらを部下に優先させるべきか
第4回 「無意識的無能」から「無意識的有能」へ、部下を成長させる「学習の4段階」とは?
■第5回 なぜ知識や能力が足りない人ほど「馬鹿の山」に登りたがるのか(本稿)

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「ドンマイ、ドンマイ」と言ってはならないとき

 部下の問題で落ち込んでいる場合はどうしたらいいか。

 まず、「励ます」という選択肢はない。部下自身の問題だから、

「ドンマイ、ドンマイ」

 だなんて言ってはならない。だからといって、

「どうして失敗したか、君は本当にわかっているのか?」

 などと追い打ちをかけるように叱咤してはならない。酷い「追体験」をさせてしまう。部下が自分の落ち度だと理解しているのなら、見守るだけでいい

 問題は、なぜうまくいかなかったのか、どうして成果を挙げられなかったのか、正しく理解していないときだ。

「自分はやれるだけのことはやった。ここまでやってもダメならしょうがない」

 と部下が思っているのならスルーできない。

 なぜうまくいかなかったのか。キチンと伝える必要がある。これは教育の領域だ。薫陶ではない。ちゃんと覚えてもらわないといけないことなので、時間を使って丁寧に伝えていこう。

 そんなときに便利なフレームワークを紹介する。それが「ダニング・クルーガー効果曲線」である。

10年早く知りたかった「ダニング・クルーガー効果曲線」

 この曲線を知ったとき、私は正直なところ

「10年早く知っていたら、自分の人生はもっと豊かになっただろう」

 と思った。それほど衝撃を受けたフレームワークだ。上司が部下の市場価値を高めるうえで、絶対に知っておくべき概念である。

 そもそも、ダニング・クルーガー効果とは何なのか? まず、この心理効果について解説しよう。

 ダニング・クルーガー効果とは、能力や経験の低い人ほど自信過剰になる認知バイアスのことだ。「優越の錯覚」とも呼ぶ。

 20年近くコンサルタントの仕事をしていて、この心理現象は常に目の当たりにする。アマチュアであればあるほど学習や鍛錬を怠り、プロであればあるほど謙虚に自分磨きを続けるものだ。

 だからまだ未熟なのにもかかわらず、部下自身が、

「今回はうまくいかなかったが、自分のせいではない」

 と思い込んでいるのなら、ダニング・クルーガー効果が働いているかもしれない。まだ実力が足りていないことを自覚できていないからだ。

 自分に対して

「気にするな。ドンマイ、ドンマイ」

 と言って気持ちを切り替えようとしているのなら、上司は指摘すべきだろう。

「うまくいかなかったのは、勉強不足だったからだ」

「もっとスキルを上げないと、同じことを繰り返すぞ」

 と戒めなければならない。

 実力不足の人は、どこまでの力を身につけたら十分なのかを正しく認識できない。たまたまビギナーズラックに恵まれると、

「ひょっとして才能があるかも」

 と天狗になってしまう若者もいる。天狗になって伸びた鼻をへし折るのは、おすすめしない。とはいえ、自分の力を過信しないようには注意すべきだ。そうでないと、部下の成長を阻害してしまうからだ。

 さらに理解を深めてもらうために、次節以降はダニング・クルーガー効果を曲線で表現した図を使って解説していく。

「教えたがるようになる」のが悪いサイン

 少し覚えただけで、ちょっと実績を出しただけなのに、過剰な自信に満ちている状態が「馬鹿の山」である。

 たとえば、SNSマーケティングについて知識も経験もまったくない場合は、多くの人は自信を持たない。

「SNSなんて、やったことがない」

「情報発信なんて、できる気がしない」

 と思い込む。しかし会社の要請で、渋々始めたとする。そうすると、みるみるうちにフォロワーが増え、話題になったらどうか?

「センスがあるよ!」

「お客様の間でも話題になってる。すごい!」

 と、周りにもてはやされる。本人も成果を出せば、ドンドンと自信を深めていくはずだ。

 そして、

「SNSを使って結果を出すことは、誰でもできる」

「わからないことがあれば、何でも私に聞いて」

 と言い出すかもしれない。これがまさに「馬鹿の山」に登っている状態だ。

 私もそういう経験は、数えきれないほどある。

 コロナ時代になってからYouTubeチャンネルを開設し、人気を博すと、多くのお客様から評価された。

「私も横山さんのように、動画で発信したい」

「どんな動画を作ればウケますか?」

 と質問された。そうすると、これ見よがしに、

「サムネイルはこうすべし」

「タイトルとハッシュタグのつけ方が命」

 と自慢げに吹聴した。その後、YouTubeコンサルに強烈なダメ出しをされるまで、自信過剰の状態は続いた。

<連載ラインアップ>
第1回 ゆるくてもダメ、Z世代を劇的に変える「ちょうどいい」マネジメントとは?
第2回 部下を褒めるよりも100倍大事な「アクノリッジメント」とは何か?
第3回 「スピード」と「完成度」、どちらを部下に優先させるべきか
第4回 「無意識的無能」から「無意識的有能」へ、部下を成長させる「学習の4段階」とは?
■第5回 なぜ知識や能力が足りない人ほど「馬鹿の山」に登りたがるのか(本稿)

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