新築マンション「売れ行き悪化」でバブルしぼむか

(撮影:今井康一)

新築マンションの売れ行きが悪化している。しかし、月次で発表される不動産経済研究所の市場動向データは、前年同月比と前月比という分析にとどまるため、今年に入ってから8カ月経過時点での「売れ行き悪化」と報道されてはいない。

首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)の売れ行きの実態はこうだ。2024年8月までの販売戸数累計は1万1290戸、平均販売価格は7819万円、戸数×価格となる売り主の売上総額は8828億円となる。

前年同期は、販売戸数累計は1万4562戸、平均販売価格は8894万円、売上総額は1兆2950億円となる。これを前年同期比にすると、販売戸数が22%減、価格が12%減、売上は32%減となっている。

とはいえ、マンション全体の売れ行きが悪いとは思っていない。なぜなら、中古マンション市場が拡大しているからだ。2024年8月までの販売戸数累計は前年同月比4%増、価格は同9%増、売上は同14%増となっている(東日本不動産流通機構の月次データから集計)。

報道を受けて投資家がマンション購入に走った

ではなぜ報道にこだわるのかと言うと、報道が市況を変えてしまったと思っているからだ。コロナ下ではステイホームを強いられたために、住み替え検討者が多く、需要過多で総じて価格は上がった。こうした動きに敏感だったのは都心3区の中古マンション市場だった。

2020年第一四半期と比較して、コロナ下である翌年同期の単価は10.4%アップ、その翌年はさらに13.9%アップした。ステイホームから全国旅行支援などの「外出奨励」へと180度転換が行われたその翌年は0.7%アップとほぼ横ばいとなった。家探しよりもレジャーが優先し、買い手が少なくなったからだ。

しかし、それが一変する報道が発表される。2023年3月の首都圏新築マンションの平均価格が初めて1億円を超えて、1億4360万円と発表されたのだ。都心好立地の2つの高額物件が同時期に販売されたからだが、この数字は前月比で212%、つまり2倍以上になったことになる。

そもそも物件数が少ない中で、月をまたいだ違う物件を比較しても意味がないものの、これは素人目には「都心マンションの高騰」ととらえられたようだ。

値引き交渉せずに即日満額で購入

ここで、中国人をはじめとした投資家がマンション買いにむかう。日本でも個人の富裕層や事業法人が検討し始め、私も多くの相談を受けた。この頃、「価格が上がると買う人が少なくなる」という需給バランスを主張する専門家がいたが、現実は逆の方向に動いている。値上がり報道が投資家を呼んでくるというのが今回の市場の実態だったのだ。

こうして、中古市場では売り出されたら値引き交渉せずに即日満額で買い付けを入れる層が出てくる。通常、物件検索サイトに載る価格は売出価格と言って、成約する価格の約2割高いものだが、意に介せずかっさらっていく。

あっという間に売れていく物件を目の当たりにし、新たに出てくる物件がさらに高い価格で売り出され、相場を吊り上げていくことを認識すると、自宅購入を検討していた買い手は焦りを隠せなくなり、「どうしたらいいのでしょう?」と嘆きの相談が増えた。

こうして、「1億超えの衝撃」は翌年の平均単価を15.8%押し上げるに至る。コロナ下よりも急ピッチな上げ幅である。それ以降、1億円超えは単月では起きていないが9000万円台後半は何度かある。今後も単月で戸当たり価格が1億円を超えてニュースになることもあろう。

しかし、報道で踊る相場は報道でしぼむ可能性がある。8カ月経過で大幅ダウンの現状を残り4カ月で取り戻せるかと言うとかなり厳しい。単純計算で半分の期間(4カ月)で昨年水準に戻すには、販売戸数で44%増、平均価格で24%上昇しなければならない。

今後、販売時期が先送りされた湾岸の大型タワー物件等の販売が10月以降に控えてはいる。これらは総じて首都圏内では割高なものの、昨年の3億円の住戸が1000戸水準で販売されるのと比較したら小粒になる。このため、昨年水準超えはほぼ不可能だろう。

「1億超えの衝撃」で動いた投資家は消える?

そうした暦年の累計値が発表されるのは2025年1月下旬になる。そこでトリプル悪化(販売戸数減少・価格下落・在庫増)となると、売れていないことを印象付けることになる。ちなみに、3つ目の販売在庫は2023年8月の4712戸に対して、2024年8月は5110戸で約400戸多くなっており、このシナリオの実現可能性は今のところ高い。

そうなると、報道で動いた投資家は蜘蛛の子を散らすように居なくなるかもしれない。この人たちの投資意欲は「先高感」によるキャピタルゲイン狙いが最も強い動機になっているので、市況悪化シグナルによる「先安感」は熱狂を冷ますには充分な理由になり得る。

最後に整理しておこう。新築は売れ行きが悪化している数字が並ぶが、中古はそうでもない。報道では新築市況が注目されやすいが、センセーショナルになりやすいのは供給戸数が減ってきた中で個別物件の全体数値への影響が強くなっているからである。

そうとは知らずに報道に過敏に反応した投資家は、市況悪化報道に意欲を失う可能性がある。そうなれば、過熱感が薄れて落ち着きを取り戻した市場となり、自宅購入を検討している人には焦らず購入できる環境となるかもしれない。

市場が健全化して自宅が買いやすくなるか

ちなみに、私は現状のマンションの売れ行きは悪くないと思っている。それは新築と中古を合計して判断しているからだ。報道による投資家の大量発生はマンション価格を実態と乖離したバブル価格にしてしまった。

一旦は、バブルを冷え込ませて市場の健全化が進むことが望ましいと考えている。それは価格が下がることがなかったとしても買い手が少なく、売れ行きが悪い時期ということになる。

「健全」と言うのは、自宅を購入する人が優先的に買える状況を意味する。その意味で、報道によるバブルは報道によって崩壊させるのが望ましいと考えている。

(沖 有人 : 不動産コンサルタント)

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