「石破新政権誕生」で、日本株は停滞しかねない

「5度目の正直」で自民党総裁選挙に勝利した石破茂氏。筆者は「石破新政権下」での政策転換を懸念する(写真:ブルームバーグ)

事実上の次期首相を決める自民党総裁選挙が終了した。大手メディアなどの調査では石破茂、高市早苗、小泉進次郎の3氏が有力と言われていたが、決選投票では接戦の末、石破氏が勝利した。

市場の「高市首相期待」が剥落、再び円高へ

「高市首相誕生」への期待が高まった市場では、9月26日時点から株高、円安の動きが始まり、27日にはドル円相場は1ドル=146円台までドル高円安が進んだ。日経平均株価も3万9829円と4万円一歩手前まで急伸。だが、石破首相誕生が報じられると、ドル円相場は一時142円台まで円高が進み、先物市場の日経平均は3万8000円を割りこんだ。

日本株は7月11日にTOPIX(東証株価指数)、日経平均とも最高値を更新したが、同月末の日本銀行による利上げ後に歴史的な急落となった。

9月以降はやや持ち直している格好だが、一方の米国株は9月26日にS&P500種指数が最高値を更新している。良好な外部環境に助けられているにもかかわらず、2024年春先までは非常に好調だった日本株は、米国株と比較してアンダーパフォームしたままである(年初来の騰落率はS&P500種指数が+21.1%、TOPIXは+15.2%。アメリカは9月26日、日本は9月27日時点)。

「石破新首相」の金融財政政策はどうなるのか

日本株が冴えなくなった最大の理由は、やはり為替相場にある。ドル円は一時1ドル=140円を割り込むなど、ほぼ年初と変わらない水準に戻ったことだ。2024年度の経済成長見通しがゼロ%台に下振れる中で、通貨当局による円高誘導介入、日本銀行による利上げという、金融引き締め策が相次ぎ、これらに株式・為替市場がいずれも反応した格好だ。

結局「岸田政権の退陣表明」(8月14日)という政治情勢の混乱に乗じて、引き締め的な経済政策に「前のめり」な政治家や経済官僚の政治力が強まっていたわけで、筆者は、日本経済はかなり危うい状況にあると懸念していた。

ただ、次期政権が揺らぎつつある金融財政政策を立て直し、経済成長を高める政策が強化されれば、日本株は米国株と同様のパフォーマンスに再び追いついても不思議ではなかっただろう。

ここで改めて石破次期首相の金融財政政策に対する見解を、以下で整理しておこう。

財政政策について、石破氏は政策集でも「経済あっての財政との考え方に立ち、デフレ脱却最優先の政策運営を行う」としており、9月25日の記者会見でも「岸田政権の取り組みを引き継ぐ」と述べている。石破氏は推薦人を確保する過程で、経済成長を重視する政治家による政策提案を受け入れたとみられる。

一方で、石破氏は「法人税には引き上げ余地がある」と言及するなど、むしろ緊縮的な財政政策を志向し続けているのではないか。石破次期首相の本当の考えは、財務相など、10月1日以降に行われる組閣の人選によっても判明するだろう。

一方、決選投票で敗れた高市氏は、現在の経済状況における増税にははっきり反対していた。日本の財政赤字は2024年4~6月時点ですでにGDP比率2.7%まで縮小しており、先進各国の中でもかなり「健全」と言える状況になりつつある。

民間部門への増税は経済活動への明らかなブレーキに

インフレの一時的上振れと徴税基盤がしっかりしているので税収が大きく上振れているためだが、これは、特に所得回復が遅れている家計部門の税負担が大きすぎることを意味する。

この点がコロナ禍後の日本の経済成長の足かせになっているのだから、民間部門への増税は経済活動にブレーキをかけるのは明らかである。筆者は、高市氏が経済・財政の状況を、石破氏や小泉氏よりも正確に理解していたと評価している。

また、金融政策の経済成長に及ぼす影響は、財政政策より大きいので極めて重要だが、金融政策について自らの考えを、はっきり示しているのは高市氏のみだった。「基調的なインフレ率が2%以下に低下しつつある中で、日銀は利上げを慎重に行うべき」との考えを述べていた。筆者は同様の見方を持っており、7月末の日銀の利上げ判断は適切ではなかったと考えている。

渡辺努・東大教授が述べているように、「テーラールール」など基本的な政策反応関数を前提にすれば、インフレ想定の上振れに応じた利上げは正当化される。

実際には、経済成長率想定の下方修正が続く中で、インフレ想定がほぼ一定である日銀審議委員の見通しが矛盾しているのだが、通常そうした経済状況で利上げは正当化されない。

そして、筆者は今に至るまで、なぜ「今の政策金利が緩和的すぎる」と言えるのか、日銀から説得力がある説明を最近聞いたことがない。7月までの「円安が行きすぎている」という一種の風説に直面して、政策姿勢が揺らいでいるのが実情なのだろう。

9月20日の記者会見の場で、日銀の植田和男総裁は「政策判断にあたって先ほど来申し上げてきたような点を確認していく時間的な余裕はある」と述べたことをうけて、その後は「日銀の利上げの可能性は高くない」との見方が金融市場では強まっている。

ただ、「経済物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています」と従来から植田総裁の考えは全く変わっていない。経済成長見通しは下方修正が続いているのだが、10月末の展望レポートでは「(半ば強引に)見通しどおりシナリオが実現している」と判断する可能性が高まった。

新政権の経済政策運営に強い懸念

だが、日銀による時期尚早な利上げも、家計部門への懲罰的な課税を放置する緊縮的な財政政策も、民間経済の成長を大きく阻害する要因である。

これらの足かせがなくなれば、市場経済での公正な競争を通じて経済成長は実現するし、労働生産性も自ずと高まる。そして、持続的な経済成長が実現すれば、安全保障分野の強化も可能になるし、国民は経済的な豊かさを実感できるはずだ。

筆者は「何が正しい経済政策であるか」を正しく理解している政治リーダーとしての資質を、最も備えている候補は高市氏だったと考えている。

実際には、石破新政権によって、今後の日本の経済政策運営は大きく転換しかねず、日本株も停滞しかねない。経済安定化政策が、より引き締めの方向に傾斜する懸念は簡単には収まらないだろう、と筆者は強く懸念している。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(村上 尚己 : エコノミスト)

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