自民総裁選とアメリカ大統領選の「株価ジンクス」

(写真:Bloomberg)

9月27日の自民党総裁選挙(総裁選)が間近に迫りました。その後も11月5日にはアメリカで大統領選が行われます。政治のリーダーや国家元首を決めるビッグイベントなだけに、その後の経済や株価にも大きな影響を与えます。今回は自民党総裁選後とアメリカ大統領選の前後では、株価がどのように動く傾向があるかを紹介します。

年末に向けて株式相場を予想するうえで注目の株価のジンクスです。

総裁選後の株式相場は上昇しやすいジンクス

総裁選に投票できるのは、自民党に所属する国会議員と自民党員・党友だけなので、一般の私たちには投票権はありません。しかしテレビ討論会などの公開討論を通じて誰が次の総理・総裁になってほしいか考える方も少なくないでしょう。マスコミなどが行う自民党員などを対象とする獲得投票数の予想などからは、石破茂氏、高市早苗氏と小泉進次郎氏の3人が次期総裁の有力候補と見られています。

討論会などを通じて候補者は経済政策に関して主張していますが、大まかに言えば高市氏の政策は積極的に国が公共投資などでお金を使ったり(財政出動)、低金利政策への働きかけをすることによって“需要を増やす”政策を行うというものです。

これに対して石破氏は、公共投資は必要であるものの、デフレ脱却に向けて必要な部門への重点投資を行い財政の赤字を抑える“財政健全化”の考えを示しています。小泉氏の政策は規制の見直しなど構造改革による成長を期待するものです。誰の政策が経済や株価に最もプラスに働くかは、実現性やそのスピードなどにもよりますので、現状での予想は難しいものです。

しかし、少なくても誰が勝利しても総裁選を終えることは、政治面で大きな不透明要因がなくなるため株価にとって好材料です。実際に総裁選後の株式相場は上昇しやすいという株価のジンクスがあります。1956年以降、候補者が1人しかいなかったなど実際に投票が行われなかったケースを除いた総裁選は28回ありました。

それらの総裁選から1カ月後までの日経平均株価を調べると、ほぼ6割の確率で株価が上昇しています。ちなみに候補者が1人だった総裁選は、総裁選前に次期総裁が絞られているため、政治的な不透明要因が小さいことから、分析対象から除きました。

総裁選のジンクスから見れば、総選挙が終わった後の10月の株式相場は堅調となります。

アメリカ大統領選挙のジンクス

しかし、もう1つのアメリカ大統領選挙のジンクスから見ると、10月相場はあまりいいとは言えません。

下表で過去のアメリカ大統領選挙の年の日経平均株価の騰落率を平均すると0.6%の下落となりました。大統領選挙は4年に1度“11月の第1月曜日の翌日の火曜日”に行われますので、下表では、4つに分類して集計しました。大統領選挙の年の10月相場は選挙直前の月にあたりますが、株価は弱含む傾向が見られます。

アメリカの大統領の政策によっては、為替が大きく動いたり、アメリカへの輸出の制限の可能性なども懸念されます。このように大統領が決まるまでは不透明感から日本株も弱含むジンクスとなります。

一方、大統領選後は株価が好調な傾向が見られます。大統領選の年は11月から年末までの2カ月間の日経平均株価は平均して6%と高い上昇でした。大統領選のビッグイベントを越え、大きな不透明要因が解消されたことで市場に安心感が生まれることが理由です。また新たな大統領への政策期待なども株高傾向の背景となります。

ここまでの結果をまとめると、10月相場については、総裁選のジンクスからは堅調、一方、アメリカ大統領選のジンクスからは弱含みとなりました。これらを合わせた判断は難しいですが、10月相場は“中立”の予想が妥当と見られるかもしれません。

そして、11月から年末の株価は好調な推移が期待されます。実は、ハリス氏が属する民主党が勝利した場合と、トランプ氏の共和党のいずれが勝利した方が11月から年末までの株価がより好調になるのかも深掘りして調べましたが、民主党勝利の場合には日経平均株価の平均騰落率は6.4%、共和党勝利は5.7%と民主党がやや上回ったものの、いずれも高い上昇率でした。このような過去のジンクスからもいずれの党が勝利しても11月以降は株高は期待されます。

効果的な銘柄選びにつながるのは?

ただ、注意すべきポイントもあります。どのような銘柄に投資したらよいのかという“物色”についてです。

下図はトランプ氏の支持率とハリス氏の支持率と物色の関係を表すものです。赤線はトランプ氏の支持率からハリス氏(7月31日より前はバイデン氏)の支持率を引いた推移です。つまりグラフが上がるとトランプ氏の支持率が高くなるということです。この赤線と青線が連動して動く傾向があります。

青線はバリュー株(割安株)とグロース株(成長株)の動きを比較したもので、青線が上がると比較して割安株が買われ、下がる場面は成長株が買われる傾向があるというものです。

トランプ氏の政策は、これまでバイデン政権で進められてきた環境対策を巻き戻すものです。石油と天然ガスの生産増強の規制や、自動車産業に対する規制の緩和などを目指しています。鉱業や石油石炭などの資源関連や、自動車などオールドエコノミーと呼ばれる産業の恩恵が大きいことから、赤線が上昇してトランプ氏の支持率が上がる場面は、IT関連などの成長株に比べてオールドエコノミーのバリュー株が注目されて上昇します。

図の青線は日本でのバリュー株とグロース株の比較をグラフ化したものですが、アメリカで注目される物色の流れが日本株にも同様に伝播してきたと見られます。

アメリカ大統領選後の株高を期待した銘柄選びの際には、大統領選の結果で、ハリス氏の勝利ならIT関連などのグロース株、トランプ氏だった自動車などのバリュー株、などの選別が効果的な銘柄選びにつながるでしょう。

(吉野 貴晶 : ニッセイアセットマネジメント 投資工学開発センター長)

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