日経平均は9月下旬以降再び下落する懸念がある
残念ながら、今年の日経平均株価の高値は7月11日の4万2224円で決まった可能性が高いとみている。日米金利差縮小によるさらなる円高や、増益率など業績鈍化が予想される米国株の下落リスクがあり、需給面やテクニカル面でみても高値を更新するのは難しいとみているからだ。
10~11月に下落、再度の3万5000円割れも
日経平均は、8月5日に3万1458円まで暴落したことによって、完全に上昇トレンドが崩れてしまった。戻り高値の限界(上限メド)は、上記の7月の最高値から急落する途中でつけた7月31日の戻り高値3万9101円になるとみていたが、実際、9月2日に3万8700円(同日のザラバ高値は3万9080円)をつけたことで、想定どおりの展開となった。
当面の想定レンジは、上限は3万9000円前後、下限は3万1000円前後とみている。またここからの日本株に関しては、引き続き「押し目買い」ではなく、「戻り売り」のスタンスでいたいところだ。日経平均株価は9月11日の3万5619円が8月5日に対する二番底になったという見方もあるが、私は10~11月のどこかで、再び3万5000円前後から3万1000円前後のレンジ下限に近づき、そこが二番底になると想定している。
年初から7月11日までの日経平均株価は、1ドル=161円台までの円安ドル高に支えられて上昇してきた。だが同日には日本の通貨当局が、アメリカの労働省が発表する6月の消費者物価指数(CPI)に合わせ介入したとの観測などから一気に円高が進んだ。
さらに8月2日公表の7月雇用統計などの景気指標から、同国景気の先行きに対する警戒も高まった。8月23日にはワイオミング州ジャクソンホール会議でのジェローム・パウエルFRB議長の発言で、今回(9月17~18日)開催のFOMC(連邦公開市場委員会)での利下げ開始も決定的になっていた。
このときのパウエル議長の発言からは、今後の主要な政策テーマからインフレは外れたこと、9月の利下げ開始が濃厚で、かつ大幅利下げの可能性にも含みがあることなどが読み取れた。深読みすると、相当労働市場が気になっており、経済の減速を何が何でも、利下げで止め、予防すると示唆しているようにも思えた。
日銀の利上げ姿勢は不変で円高が一段と進む可能性も
実際、18日のFOMCでは0.5%の大幅利下げとなった。もっとも、合わせて明らかにされたメンバーの政策金利見通し(ドットチャート)やパウエル議長の「利下げを急がない」との発言などから、さらなるドル安は回避されたが、今後、日米金利差が一段と縮小すれば為替は再び円高方向へと進み、日本株に逆風となりそうだ。
一方、日銀は9月19~20日の金融政策決定会合で金融政策の据え置きを決めた。
前回(7月30~31日)の会合では、賃金の上昇などで物価と景気の見通しがなお上向きにあると判断したため、従来0~0.1%としている政策金利を0.25%に引き上げ、あわせて国債買い入れ減額を月額6兆円程度から2026年1~3月に月3兆円程度までに半減させる計画も発表、日本経済は「金利ある世界」に一段と踏み込んだ。
今回、日銀は市場の予想どおり、金融政策の据え置きを決めた。日銀正副総裁の8月末以降の発言①当面は市場を注視していく、②基本的に利上げ姿勢の維持、に準じるものだった。なお、今回の記者会見後に円安に若干振れたのは、「(円安懸念が後退し)時間的余裕ができた」という発言を利上げ後退と市場は受け止めたようだ。
また直近の日本株には政治の不透明要因もある。事実上の次期首相を決める自民党総裁選挙(9月27日投開票)だ。第1回投票で決まらず、上位2候補の決選投票になるとの見方もあり、予断を許さない。
大手情報会社が最近発表した9月の外国為替市場の月次調査での「誰が総裁に選ばれたら最も円高が進むか」との問いでは「誰が選ばれても影響は限定的」が41%だったが、石破茂候補が26%、河野太郎候補も21%を占めた。一方、「誰が選ばれると最も円安が進むか」という問いには、高市早苗候補が50%を占めた。このように総裁選でどの候補が勝利するかによって、為替も影響を受けそうだ。
新総裁は、早期に解散総選挙に打って出ると予想されており、10月27日や11月10日が投開票日になる可能性が高そうだ。こうした流れからみると、次回10月30~31日の日銀金融政策結滞会合は、利上げ見送りがコンセンサスだが、その後はいつ追加の利上げがあってもおかしくない。12月18~19日か年明けの会合(1月23~24日)で追加利上げの決定がなされる可能性が高いとみる市場関係者は少なくない。
企業業績の鈍化懸念やアメリカ大統領選のリスクも
こうした中、日本株の先行きを考えるうえでは円高による輸出関連企業の業績下方修正リスクを考慮しなければならない。
10月下旬以降に本格化する企業の第2四半期(7~9月期)実績での悪影響は軽微とみるが、第3四半期(10~12月期)の会社予想やアナリスト予想は為替の前提が、1ドル=140円以下の円高になると、輸出関連企業の業績下方修正リスクの可能性が高まる。輸出関連企業の構成比が高い日経平均株価の上値は重くなるだろう。逆に日経平均株価よりも、TOPIX(東証株価指数)の中では比重が高い内需・輸入関連企業は相対的に優位になるだろう。
さらに11月5日のアメリカの大統領選挙の結果にも影響を受けそうだ。候補者2人の初の直接対決となったテレビ討論会(9月10日、ABC)では
民主党のカマラ・ハリス副大統領(59)が共和党のドナルド・トランプ候補(78)よりも優勢だったとの評価が多く、足元は次世代エネルギー関連株などの「ハリス・トレード」が続いている。
ただ、激戦州では接戦が続いており、まだ決め打ちはできない。10月1日の副大統領候補によるテレビ討論会も注視したい。投資家としては、どちらの候補が勝ってもいいような投資戦略を立て、柔軟に対応したい。なぜなら、物色対象(業種や個別銘柄)が大きく変わる可能性があるからだ。
もしトランプ氏が勝てば、法人税減税や規制緩和に積極的で、アメリカ景気・インフレの押し上げによるドル高円安が期待でき、対中強硬策によって、アジアの投資資金が日本にシフトされる可能性もあるかもしれない。さらに、ウクライナとロシアをめぐる情勢や、イスラエルとハマス(イラン)間の深刻な対立は、関係各国などによる停戦交渉への努力で落ち着きを取り戻すことができるのかも注意深く見守りたい。
中長期でみた日本株の魅力は不変
以上、今年の日経平均株価については最高値を再度上回ることはできず、目先は二番底のリスクがあることもお伝えしたが、重要なのは、中長期での日本株の魅力は不変だということだ。
為替が従来よりも円高に振れたことによって、このところ多くの市場関係者が、今後の相場に関しては「米国株式が優位で、日本株式が劣位だ」との見方が目立つようになってきた。だが、私は中長期で相対的に日本株が優位とみている。
その理由は主に以下の2つだ。まず、円高は中長期で日本株にとってプラスに働くとみている。なぜなら、普通は、弱い通貨の国の株式を中長期で保有したくないはずだからだ。
次に、米国株と比較してバリュエーション(指標面からみた企業価値)は相対的に割安だ。米国株が下落する局面ではツレ安する可能性も高いが、その後は徐々に下げ渋り、上昇時の反発も大きくなる可能性がある。
確かに東京証券取引所の「PBR改革」の第1弾(PBR1倍割れ銘柄への事実上の改善通告)は終わったかもしれない。だが「資本効率の向上への改善要請への取り組み」は始まったばかりだ。
例えば、現在、セブン&アイ・ホールディングスが、カナダのアリマンタシォン・クシュタール(ACT)から買収提案を受けている。提案側は経済産業省が2023年に示した「望ましい買収かどうかは企業価値を高められるかどうかで判断する」という行動指針に沿ってセブンが行動すると考えて提案しているようだが、こうした難題をどう解決するのか。多くの経営者にとって、目が離せないはずだ。
少し時間はかかるかもしれないが、日本企業がアクティビスト等からの「資本コストや株価を意識した経営の改善提案」を受けずに、経営陣自らが変革して企業価値を上げていけるか。伸びしろが大きいだけに、引き続き期待したい。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
(糸島 孝俊 : 株式ストラテジスト)
09/21 09:30
東洋経済オンライン