震災復興より「集団移住すべき」論に感じる違和感

ハラユキ

「震災後も能登で暮らす家族」として、珠洲市で炭やき業を営む大野長一郎さんご夫婦を取材しました(漫画:ハラユキ)
数回に分けて、能登半島の地震後について紹介しています。第1回は、「現在の能登と復旧が遅れたワケ」、第2回は「能登から遠方避難して暮らす家族」、そして今回は「震災後も能登で暮らす家族」として、珠洲市で炭やき業を営む大野長一郎さんご夫婦を取材しました。

震災後も能登で暮らす家族に取材した

集落で炭やきを営む大野さん

19年前、長女が誕生したとき思ったこと

この集落を、持続可能で未来のある場所に!

1月1日、あの地震が起きた

春休みには家族で家に戻れたが…

炭やき窯は壊れたまま

あらゆる業態で人手不足

不便でも自然豊か。能登での暮らしが当たり前

これからも変わらない価値のそばで生きていきたい

今後も「能登でいのちをつなげる未来づくり」を

工場の神棚には力強い「復興」の文字が。その下には火鉢があり、いつか炭やきを再開するときまで火種をしっかり守っている。大野さんの会社「Notohahaso」公式サイトでは窯の修繕などのため寄付を募っている(写真:筆者撮影)

能登には課題もあるけれど、希望もある

実は、能登は「世界農業遺産」に日本で最初に選ばれた場所(現在、日本で15地域)。2008年には、国連が主催しドイツで開催された「生物多様性条約第9回締約国会議」で、当時の知事が里山保全の取り組みについて講演も行っています。能登の自然とそれにまつわる産業は世界に認められているもので、さらに輪島塗など日本が誇る文化もあります。

その一方で、人口減少により近い将来、消滅するかもしれない「消滅可能性自治体」に能登の自治体はほとんど入っています。そしてその自治体の中でも珠洲市は人口がかなり少ない市に該当します。

とはいえ、人口減少が進む日本では「消滅可能性自治体」に該当する自治体は全国の4割もあるのです。ただ、過去には、自治体の支援努力などで「消滅可能性自治体」から脱した地域もあります。

「消滅可能性自治体」から本当に消滅するのか、それともそこから脱するのか。「限界」なのか、「可能性」を活かせてないだけなのか。そのカギとなるのは、その自治体に、その土地で生きる価値を知り、未来を作ろうと本気で取り組む人がどれだけいるかなのでしょう。今回取材した大野長一郎さんは「炭やきビレッジ構想」の実現も目指しています。炭やき業は全国的に減りすぎて逆に需要に追いついてない部分もあるとして、採算計画が立つ7世帯まで、近隣で炭やき農家を広げて連携するプロジェクトです。大野さんは、炭やき復活のさらにその先を見つめているのです。

現在、能登の復旧・復興には多くの壁があり、人手不足・業者不足も深刻です。ただ、今回の取材では、移住で能登に来たのに震災後も能登にとどまる人にも、能登の未来への構想を語る人にも、何人も会いました。私の友人のひとりは、震災後に決意し、能登へ移住(Uターン)する予定を立てています。能登には課題もあるけど、希望もある。そんなことを実感した今回の能登取材でした。

(ハラユキ : イラストレーター、コミックエッセイスト)

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