「ネコの宇宙葬」も!今どき"葬祭ビジネス"の中身

エンディング産業展に展示された祭壇

「エンディング産業展」は2015年から始まり、今年で10回目。8月28~29日の2日間で、葬祭業界関係者を中心に1万3000人が足を運んだ(記者撮影)

秋のお彼岸の時期。葬儀にふと関心を持つ人もいるのではないか。8月下旬に開かれた、葬儀などに関連する国内最大級の展示会「エンディング産業展」。会場に出展した企業の製品・サービスからは、今どきの葬儀やお寺の事情が見えた。

ある企業の出展ブースに飾られていたのは、打ち上げられたロケットの写真パネル。説明に立つ男性が着用しているのは、宇宙飛行士が着る「オレンジスーツ」のレプリカだ。

SPACE NTKのブース

一見すると、葬儀関連企業の展示にはみえないSPACE NTKのブース(記者撮影)

ブースを構えていたSPACE NTK(茨城県つくば市)は、「宇宙散骨」を手がけるベンチャー企業。粉末状の遺骨を納めたボックスをロケットで打ち上げる。ボックスは地球の軌道を数年周回した後、大気圏に突入し、流れ星となる。

散骨はスペースXのロケットで

打ち上げにはイーロン・マスク氏が率いるアメリカの宇宙開発会社、スペースXのロケットを使う。利用者が払う宇宙散骨の料金は110万円からとなる。

SPACE NTKの遺骨を入れるボックス

遺骨を入れるボックス。1回目の2022年に打ち上げたボックスは、あと3年ほど衛星軌道を周回した後に大気圏に突入して流れ星になる予定(記者撮影)

SPACE NTKにとって2年ぶり2回目となる打ち上げは、10月に行われる予定だ。説明員の男性によると、ボックスに納められるのは16人とネコ1匹の遺骨。ネコの遺骨は一部ではなく、一体分となる。宇宙で一体分散骨するのは世界初になるそうだ。

ペットも家族との意識が一般的になる中、葬儀をしてきちんと見送りたいという人も増えているだろう。「虹の橋を渡る」。愛するペットの死を意味するこの表現が将来、「虹の橋を渡って星になった」に進化するかもしれない。

ペット用の遺体安置冷蔵庫をブースで披露していたのは、たつみ工業(神奈川県川崎市)だ。2021年から人用の遺体安置冷蔵庫の製造販売を本格化。その流れでペット用にも乗り出した。

「人の場合は火葬の前にお葬式があるなどお別れするまでに段階を踏めるが、ペットの場合は違う。ペットでも、冷蔵庫で安置して最適な環境にしてお別れするニーズがあるのではないかと思った」

たつみ工業の岩根弘幸社長は開発の動機をそう話す。ブースを訪れた中国からの来場者とは商談に発展するかもしれないと期待を寄せる。かつての一人っ子政策の影響により、ペットを子どものように可愛がっている家庭が多いとのことで、ペット用遺体安置冷蔵庫に関心を示しているそうだ。

ニーズの背景に「火葬待ち」

1962年創業のたつみ工業は、コンビニ内に設置される飲料用などの冷蔵庫を得意とする。首都圏では「セブン‐イレブン」を中心に約8割のシェアを握り、売上高のほとんどをコンビニ向けが占めていた。それがペット用の遺体安置冷蔵庫まで発売するに至ったのは、大きく2つの環境変化があった。

たつみ工業の岩根弘幸社長

コンビニ用冷蔵庫で培ったプレハブ式で造る技術が生かされていると、たつみ工業の岩根弘幸社長は話す(記者撮影)

1つは2010年代半ば以降、大手コンビニの出店が徐々に一巡したことだ。それに伴ってコンビニ向け冷蔵庫の成長も鈍化し始めた。

もう1つはいわゆる「火葬待ち」の発生だ。死亡者数の増加で都心部を中心に火葬場の混雑が指摘される状況になっている。これを受けて、ドライアイスで冷やすより手間のかからない遺体安置冷蔵庫のニーズが高まってきた。

最後の一押しとなったのはコロナ禍だった。コロナ感染者の遺体が病院から火葬場に直接搬送されるなどし、火葬待ちが深刻化。葬儀社などから問い合わせが相次ぎ、それまで要望に応じて作っていた遺体安置冷蔵庫の本格販売に乗り出した。

岩根社長は、コンビニ向け以外の新領域の柱の1つとして、遺体安置冷蔵庫の拡大に期待する。耐熱パネルを1枚1枚現場に持ち込み、葬儀場の空きスペースに合わせて冷蔵庫をつくるオーダーメードのメーカーは同社のほかにいないという。

会場には葬祭用品などとは毛色の異なる企業も出展していた。なかでも目を引いたのが、独立系金融アドバイザー(IFA)のMK3(東京都渋谷区)だ。

IFAは、特定の金融機関に属さず中立的な立場から資産管理を助言する金融商品仲介業者。MK3は、お寺などの宗教法人や学校法人をはじめとした公益法人を主な対象に事業を行っている。

MK3を創業した林雅巳社長は1989年に日興証券(現SMBC日興証券)に入社。2002年に独立、2014年にMK3を設立した。公益法人の顧客をずっと担当してきたことや、長期にわたって顧客に対応するIFAのビジネスモデルが、長く存続することを前提とする公益法人の資産運用に適していると考えて、今の事業スタイルにしたという。

お寺も「将来の備え」で資産運用

「ペット供養や宿坊などの各事業の強化と、土地や金融資産の有効活用。将来への備えのために、お寺の住職は真剣に悩んでいる」。出展ブースにいたMK3所属の松岡弘頼氏はそう話す。

地方で深刻な過疎化、さらには葬儀の簡素化や檀家離れなど、寺院を取り巻く環境は厳しさを増す。一方、お堂などの修繕は一定のサイクルで行う必要がある。しかも昨今の資材高や人件費上昇が費用を押し上げている。資産運用をやらない選択肢はもはやないというわけだ。

2010年代半ばには、ハイリスク商品である仕組み債の運用で巨額損失を抱え、財政の立て直しを迫られた宗派もあった。だが、それから数年を経て、資産運用に前向きに取り組み始めている。

社会貢献に配慮した事業に資金使途を絞るSDGs債に投資しつつ、インフレ対応として運用益確保を目指す宗派や、公的年金を管理・運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用手法をモデルに長期分散投資を行うと表明する宗派も出てきた。IFAの活用は時代の流れだろう。

(緒方 欽一 : 東洋経済 記者)

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