都電荒川線の沿線風景変わる「トンネル工事」の今

都電荒川線 鬼子母神前電停付近

目白通りの千登世小橋から見た北側。都電荒川線の電車が坂を上り、奥の鬼子母神前停留場へ到着する(記者撮影)

都電荒川線は三ノ輪橋(荒川区)―早稲田(新宿区)間の12.2kmを結ぶ。日中は6~7分間隔で運行しており、沿線住民の生活を支える足となっている。

東京都交通局は2017年から「東京さくらトラム」の愛称を付け、国内外から東京を訪れる観光客にもアピールする。その愛称の通り、渋沢栄一が邸宅を構えた飛鳥山など、沿線には桜の名所が点在する。

1911年8月20日、渋沢らの後援で設立した王子電気軌道が現在の飛鳥山―大塚駅前間にあたる飛鳥山上―大塚間に都電荒川線のルーツとなる路面電車を開業した。

唯一の都電となった荒川線

最盛期の都電の路線は営業キロ約213km、40系統の規模を誇った。が、縦横に張り巡らされていた路線網は戦後、道路の交通渋滞の深刻化とともに姿を消した。そのなかで、荒川線はほとんどが専用軌道を走っていたことなどを理由に廃線を免れた。

【写真】都電荒川線の学習院下―都電雑司ヶ谷間の今。地上の都電と地下の東京メトロ副都心線の間に道路トンネルが通る予定の鬼子母神前周辺の様子など(50枚)

現在の荒川線は1974年10月1日に三ノ輪橋―王子駅前間の「27系統」と荒川車庫前―早稲田間の「32系統」を統合して誕生した。2024年は50周年の節目の年となる。

現存する唯一の都電――と聞くと、昔も今も変わらない街並みの中を走るイメージが強いが、荒川線の沿線風景は日々大きく変化している。

早稲田大学のキャンパスが近い都電荒川線の早稲田から三ノ輪橋方面の電車に乗ると、北西へ進んで最初の停留場が面影橋。東京メトロ副都心線が地下を走る明治通りの手前でほぼ直角に曲がり、神田川を渡って豊島区に入る。次の停留場が学習院下。文字通り学習院大学のキャンパスの南に位置する。

学習院下付近からは上り坂。東側に平行して「のぞき坂」がある。もう1つ東側は「宿坂」で、坂の下に「目白」の地名の由来となった目白不動尊をまつる金乗院がある。

都電荒川線は明治通りに沿って坂をぐんぐんと上っていき、東西方向に通る目白通りをくぐる。明治通りと都電をまたぐのが千登世橋・千登世小橋だ。この坂の途中から北側は大規模な工事が進行中であることがわかる。目白通りと明治通りをつないでいた歩行者用の階段はすでにない。

都電荒川線 学習院下付近

目白通りから見た南側。奥に学習院下の停留場がある。歩道を挟んで右が明治通り(記者撮影)

沿線の道路が大改造中

この工事は東京都が進める「環状第5の1号線」の整備。渋谷区広尾から北区滝野川までの約14kmの道路で、このうち、明治通りの千登世橋付近と、池袋駅東口駅前広場から延びるグリーン大通りを結ぶ約1.4kmの区間が未整備となっていた。東京都第四建設事務所の担当者は「2028年3月の完成を目指している」と説明する。

未整備区間が開通すると池袋駅周辺の交通混雑が緩和されるという。かつて渋滞の原因とされ姿を消した都電も、今では道路整備の工事としっかり共存している。

現在、地上の都電荒川線と地下の東京メトロ副都心線に挟まれた空間を通る、片側1車線ずつ2車線の道路トンネルの躯体は完成済み。今後は工事に伴って移設した都電の軌道復旧工事などを実施するという。

都電荒川線 鬼子母神前電停 工事中区間

鬼子母神前の停留場。地下にトンネルが開通する予定(記者撮影)

工事区間にある都電荒川線の停留場が鬼子母神前(きしぼじんまえ)。東京メトロ副都心線の「雑司が谷」駅の地上に位置する。停留場の西、ケヤキ並木の参道の先には、安産と子育ての神様として参拝者が絶えない国指定重要文化財「雑司ヶ谷鬼子母神堂」(鬼の字は1画目の“ツノ”がない)が建っている。北には東京音楽大学があって楽器を携えた学生の姿も目立つ。

都電荒川線で鬼子母神前の1つ隣が「都電雑司ヶ谷」の停留場。東側に雑司ケ谷霊園が広がる。夏目漱石、永井荷風といった文豪をはじめとする著名人が眠っており、墓参りに訪れる人も多い。この停留場手前で都電は東へ、道路とその地下の副都心線は北へと分かれることになる。

雑司ヶ谷 鬼子母神前間 荒川線 2024年工事中

都電荒川線の都電雑司ヶ谷―鬼子母神前間。東京メトロ副都心線が地下を走っている(記者撮影)

超高層ビルが増えた豊島区

環状第5の1号線は副都心線に沿っていく。グリーン大通りに合流する手前にそびえ建つのが高さ「としまエコミューゼタウン」。低層階は豊島区役所、上層階が分譲マンションの超高層ビルで外観デザインは隈研吾氏が担当した。

としまエコミューゼタウン

豊島区役所が入る「としまエコミューゼタウン」(左)など超高層ビルが林立する池袋駅の東側(記者撮影)

池袋駅の東側では1978年竣工の「サンシャイン60」が長くエリアのシンボルとなっていたが、2000年代に入り、「エアライズタワー」「アウルタワー」といったマンションを中心に超高層建築が目立つようになった。2023年9月にはサンシャインシティに隣接して東京国際大学池袋キャンパスが開校した。

都電荒川線は停留場の数が30で、JR山手線の駅の数と同じ。全区間の所要時間も約1時間と山手線1周とさほど変わらない。休日にふらっと出かけてみるにはぴったりの移動手段だ。久しぶりに都電に乗ってみたら、沿線の街並みの変化に驚くに違いない。

(橋村 季真 : 東洋経済 記者)

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