「炭素利益率の高い企業」ランキングTOP100社

1位となった東京エレクトロン(写真:© 2023 Bloomberg Finance LP)

2026年度から本格導入される予定の二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)の排出量取引制度。企業が一定以上排出する場合、新たな負担が増え業績にも影響する時代が来るとみられる。そこで、今回はその耐性度を見るため営業利益をGHG排出量で割って算出した「炭素利益率(Return On Carbon:ROC)」をご紹介する。

計算に使うGHGは自社が直接排出するスコープ1と使用電力などの間接排出のスコープ2を使うことが一般的だ。ROCの数値が高ければ、今後、炭素排出に伴う炭素税などのカーボンプライシングが導入されても、新たに発生するコストを現状の利益水準で対応でき、財務面での余裕度が高いと判断できる。

この考えに基づき、連結優先の3期平均営業利益(2023年3月期まで)と『CSR企業総覧(ESG編)』2024年版掲載のGHG排出量(2022年度のスコープ1+2)を使い排出量1万t-CO2以上の、金融機関を除く一般事業会社を対象に上位100社のランキングを作成した。

1位は東京エレクトロン

ランキング1位は東京エレクトロン(12203.8)。3期平均の連結営業利益5125億円に対してGHG排出量42.0千t-CO2で計算した。もし排出量1トン当たり1万円の炭素税やカーボンクレジット購入が必要となった場合、1000t-CO2で1000万円(=10百万円)となる。

ROCは1000t-CO2当たり12203.8百万円なので、「12203.8百万円の利益に対して、最大でも10百万円の負担なので、影響は軽微」といった使い方が想定される。

同社は2022年度までにすべての国内製造拠点で再生可能エネルギーの導入を完了。全社の再生可能エネルギー使用比率は91%まで上がっている。GHG排出量は前年比で53.3%削減。製品のCO2排出量は代表機種で2030年までに2018年度比30%削減を目指し、バリューチェーン全体での削減を考え取り組みを進めている。

2位は中外製薬で6732.8。GHG排出量62.2千t-CO2に対して3期平均の連結営業利益は4188億円だった。電力使用量の多い工場・研究所で電力会社提供のサステナブル電力への転換を推進。再エネ利用率も81.3%と高い水準となっている。2050年にグループでの排出ゼロを目指し、まず2030年の60~75%削減に向け取り組みを進める。

3位は小野薬品工業で6205.7。2035年にスコープ1+2排出量ゼロ、サプライチェーンを含むスコープ3で2030年に30%削減を目指す。一部の製品で使用している仕切りをプラスチック製から紙製に変更し、プラスチック使用削減につなげるといった幅広い環境取り組みを推進する。医療用医薬品の国内物流における共同輸送も開始している。

4位は半導体検査装置世界大手のアドバンテストで5749.7。アメリカ、ドイツの3事業所でグリーン電力証書を購入し、事業所で使用する電力の100%を再生可能エネルギーで賄っている。事業活動によるGHG排出量を2030年までに60%削減する。

5位はサイバーエージェントで5512.4。環境負荷低減と事業活動の効率性維持の両立に取り組む。2024年7月にオープンした複合施設「AMBRE」では、100%再生可能エネルギーを使用している。

以下、6位野村総合研究所(4880.6)、7位伊藤忠テクノソリューションズ(4604.9)、8位電通グループ(4548.2)、9位大東建託(4395.9)、10位大塚商会(3362.8)と上位は情報・通信業やサービス業が多い。

排出量1000t-CO2当たりで10億円以上の営業利益を上げているのは61位の三菱地所(1004.7)まで。100位の東京建物で5.4億円となっている。

炭素のコストが企業に与えるインパクト

このように上位企業の影響は大きくなさそうだ。ただ今回ご紹介していない下位企業は深刻かもしれない。例えば、ディスプレー、建築などでガラス世界級のAGCはGHG排出量11013千t-CO2に対して営業利益は1090.54億円。ROCは9.9(100万円/千t-CO2)だ。前述の1000 t-CO2当たり10百万円の新たなコストがかかると赤字になってしまう。このように排出量が大きい会社にとって決して無視できる話ではない。

政府は排出削減と経済成長をともに実現するグリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けて動き出している。日本が目指す2013年度比で2030年度に温室効果ガス46%削減、2050年カーボンニュートラルという目標達成は決して簡単ではないが、その方向に進んでいく流れは変わらないだろう。

ただしばらく企業には一定の排出枠は認められ、それ以上削減できれば、逆にその枠を売却できるようになる。GHGはビジネスに大きな影響を与える存在になることは間違いない。企業は炭素をコストのままにしておくか収入にするか、各社に合った戦略をじっくり考えておく必要がありそうだ。

1〜50位

51〜100位

(岸本 吉浩 : 東洋経済 記者)

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