「折りたたみスマホ」モトローラも新機種投入

デザインにこだわった折りたたみスマホ「motorola razr 50」が9月27日より販売される(筆者撮影)

折りたたみスマートフォンの注目度は日本と海外で温度差がある。iPhoneの発売も間近に迫った9月17日、モトローラは最新折りたたみモデル、motorola razr 50(ソフトバンク取扱モデルはrazr 50s)を発表した。razr 50は折りたたんだまま、あらゆるアプリが操作できる3.6インチの外部ディスプレイが特徴だ。競合端末と同様にAI機能を充実させている。日本でも徐々に増えつつある折りたたみ端末だが、その市場をけん引するパワーはあるのだろうか。

外部ディスプレイはマニア向け?

Galaxy Z Flipなど、縦折りタイプの折りたたみスマホは、サブディスプレーの用途が限られていたが、razr 50は前モデルに続き、ここをメインとして使える自由度を設けている。

例えばGoogleマップや決済アプリなど、日常的に使用するアプリを閉じた状態で操作できる。各アプリがこの画面サイズにカスタマイズされているのだが、そうでないアプリもある。どのアプリが快適に使えるかなど、マニアの人は試すのが楽しいかもしれない。

主要なアプリは、この比率で快適に使用できるようにカスタマイズされている(筆者撮影)

本体カラーはスプリッツオレンジ、サンドクリーム、コアラグレイの3色展開(筆者撮影)

razr 50の本体は、マットな金属フレームと合成皮革を取り入れた、なめらかな手触りでプレミアム感を演出している

カラー自体はグローバルで発表済みのモデルと同じだが、日本市場向けにおサイフケータイ対応やIPX8防水性能の追加など、ニーズと市場トレンドを反映させたカスタマイズが施されている。なお、心臓部にはMediaTek製プロセッサーの採用し、価格を抑えている。

ソフトバンクの販売戦略

価格は、オープンマーケット(SIMフリー)版とソフトバンク版で異なる。オープンマーケット向けのMotorola razr 50は、モトローラ公式オンラインストアで13万5800円(税込)で販売。一方、ソフトバンクが独占販売するrazr 50sは、端末価格11万5200円(税込)とやや安めの設定だ。

ソフトバンクは48回割賦購入で新規契約・乗り換え・機種変更のいずれの場合も、最初の1年間(1〜12回目)の月々の支払いを3円に設定している。加えて、1年後に端末を返却すると残債が免除される端末購入補助プログラムを導入している。

導入コストを限りなく抑え、最新の折りたたみスマホに機種変できる(筆者撮影)

もし1年だけこの端末を使うとして場合、実質的な利用コストは端末代金として1年間で36円(月額3円×12ヵ月)に加え、有料補償サービスの1年分の利用料と早期返却手数料が必要となる。ユーザーは比較的低コストで最新の折りたたみスマートフォンを1年間使用し、その後、新しいモデルに乗り換えることもできる。1年後の買い替えを促す仕組みにより、最新モデルへの需要を継続的に創出する狙いもある。

motorola razrは、往年の人気携帯電話モデルの名を冠した製品だが、モトローラは今回、若年層、特にZ世代をターゲットに据えている。モトローラモビリティジャパン合同会社の社長、中田正一社氏は、以下のように説明している。

「現在、コストパフォーマンスを重視する10代を中心に、幅広い年齢層に製品を使っていただいています。しかし、これからの市場をけん引する20代、30代の消費者層に、まだモトローラの認知度が低いのが現状です。そこで、まずはブランドを知っていただくことが重要だと考え、今回ブランドアンバサダーとして目黒蓮さんを起用しました」

モトローラモビリティジャパンの中田社長(筆者撮影)

この戦略の一環として、モトローラは十数年ぶりにテレビCMの展開を決定。新たなブランドアンバサダーとして人気俳優の目黒蓮を起用し、イメージの刷新を図る。

20年の進化が描く折りたたみの未来

開発者にも話を聞いた。モトローラ・モビリティのカスタマーエクスペリエンス&デザイン ヴァイスプレジデント、ルーベン・カスターノ氏によると、razrシリーズのスマートフォンとして5世代目となる今回のモデルについて、開発チームが最も注力したのは「継続的な洗練と成熟」という。

カスタマーエクスペリエンス&デザイン部の副社長、ルーベン氏(筆者撮影)

「われわれは20年前の初代razrから、シンプリシティ、リッチネス、サプライズという3つのデザインフィロソフィーを一貫して追求しています」とカスターノ氏。「razr 50/50sでは、この理念をさらに進化させ、折りたたみスマートフォンならではの魅力を最大限に引き出すことを目指しました」という。

特徴的な外部ディスプレイの機能性については、「ユーザーデータの分析から、前モデルのrazr 40では1日平均45分も外部ディスプレイが使用されていることがわかりました」と説明。「この結果を受け、外部ディスプレイの機能をさらに拡張し、より多くのアプリケーションが使用できるようにしました」という。

アップル不在の折りたたみ市場

市場調査会社カウンターポイントの分析によると、折りたたみスマートフォン市場全体ではGalaxy Z Foldシリーズのような“横折り”端末の人気が高まっているという。カウンターポイントのシニアアナリスト、ジェーン・パーク氏は、「世界の折りたたみスマートフォン市場は、前年同期比で第2四半期に48%の成長を記録しました。特に、ブック型(横折り)の折りたたみスマートフォンが、クラムシェル型(縦折り)を上回る成長率を示しています。この傾向の主な要因として、一大市場である中国でブック型への需要が大きく、これが世界市場の成長をけん引していることが挙げられます」と述べている。

一方で、クラムシェル型には課題もある。「クラムシェル型に対しては、構造的な問題に起因する耐久性への消費者の懸念が見られ、これがその成長に影響を与えているようです」とパーク氏は指摘する。この分析は、motorola razr 50/50sのようなクラムシェル型折りたたみスマートフォンにとって、今後の課題を示唆している。

これに対しモトローラは、具体的な対策を講じている。カスターノ氏によると、razr 50では折りたたみ機構の堅牢性を向上させ、数十万回の開閉テストをクリアしたとしている。

さらに、前モデルから好評だったディスプレイの破損を1回無償で修理するサービスを継続。モトローラ・モビリティ・ジャパン合同会社のキャリアプロダクト部 開発事業部長の伊藤正史氏は「われわれが想定している通りの故障率に収まっておりましたので、今回も継続してディスプレイ交換1回無償というのを提供させていただこうと考えております」と述べている。

折りたたみスマートフォン市場全体の成長は続く見込みで、カウンターポイントは2024年にはスマートフォン市場全体の1.6%、2025年には1.8%まで普及率が上昇すると予測している。

折りたたみは縦折り一筋のモトローラ(筆者撮影)

市場拡大の鍵を握るのは、おもに2つの要因だ。1つは、比較的安価な折りたたみスマートフォン、いわゆるローエンド製品の供給量がどこまで増加するかという点。もう1つは、アップルが折りたたみスマートフォン市場にいつ参入するかだ。

アップルが折りたたみスマートフォン市場に参入すれば、ユーザーインターフェイスの作り込みが注目を集めそうだ。縦折り型であればApple Watchで培った小型画面の操作性を生かした製品となるだろうし、横折り型ならiPhoneとiPadの融合したようなデバイスを提案してくれるだろう。

要するに、新製品を打ち出すメーカーが折りたたみの画面をいかに使いこなすかが鍵となると言えよう。現在のところ、アップル参入の兆候は見えないが、その動向が折りたたみスマホのあり方を変えてしまうような影響力があるだけに、先行メーカーも気を緩められないのではないか。

(石井 徹 : モバイル・ITライター)

ジャンルで探す