「新旧ジャニ"共演"」で露呈したテレビ局の本音

新旧ジャニーズ

発表された「with MUSIC」の9月14日出演アーティストには新旧ジャニーズの面々が(画像:日本テレビ「with MUSIC」公式サイトより)

9月7日夜、音楽番組「with MUSIC」(日本テレビ系)の最後で、次回14日放送の出演者が発表され、ネット上はファンたちを中心に盛り上がりました。

予告されたのは、「3人での音楽番組は初出演」となる新しい地図(草彅剛、稲垣吾郎、香取慎吾)、SUPER EIGHT(旧グループ名:関ジャニ∞)、WEST.(旧:ジャニーズWEST)の3組。さらにホームページではNumber_i(元King & Princeのメンバー・平野紫耀、神宮寺勇太、岸優太)の出演も発表されました。

新しい地図の3人はSMAPが解散した2016年12月31日から8年弱の時が過ぎて、ようやくテレビの音楽番組に出演。デビュー20周年のSUPER EIGHTとデビュー10周年のWEST.はスペシャルコラボ。Number_iは新曲を披露することが明かされています。

この4組はすべて旧ジャニーズ事務所に所属していましたが、現在の所属先はSUPER EIGHT、WEST.が旧ジャニの運営を引き継いだSTARTO ENTERTAINMENT、独立した新しい地図がCULEN、Number_iがTOBE。3つに分かれながらも同じ番組に出演することが驚きを持って報じられました。

以前では考えられなかったキャスティングであり、「あえて同じ放送回に偏らせた」とも思える起用には思惑があるのか。昨年9月に旧ジャニーズ事務所が性加害騒動の謝罪会見を行ってから1年間の変化を確認する意味も含め、今回の同時出演を掘り下げていきます。

「同時出演」であって「共演」ではない?

長年、各局のテレビマンだけでなく、映像制作会社、芸能事務所関係者、広告代理店のテレビ局担当、テレビ誌編集者、芸能記者など、多くの関係者と話をしてきましたが、やはりテレビ局と旧ジャニーズ事務所の間には、商取引における圧力や忖度のようなものがありました。

with MUSIC

STARTO ENTERTAINMENTの先輩グループ・SUPER EIGHTとコラボするWEST.(画像:「with MUSIC」公式Xより)

何より筆者自身がテレビ局や出版社と仕事をする際にも何度かその影響を受けた経験があり、改めてこれを「なかった」とすることには無理があります。

これまでライバルになりうる他事務所のタレントとの共演も避けていたくらいですから、独立したタレントとの共演などもってのほか。それ以前に「彼らを起用するならウチのタレントは引き揚げる」というニュアンスでプレッシャーがあったという話を数えきれないほど聞いてきました。

それだけに今回の“同時出演”は画期的なものに見えますが、実質的な“共演”かと言えば疑問符がつきます。「with MUSIC」はMCの有働由美子さんとアーティストナビゲーターの松下洸平さんがアーティストを1組ずつ招く構成の音楽番組。

「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)のようにアーティストが一堂に会したり、ワイプでリアクションを映したりというシーンはほぼありません。また、「CDTV ライブ!ライブ!」(TBS系)のような生放送も少ないため、サプライズでの共演なども期待しづらいところがあります。

つまり、ファンも業界関係者も、「予告されている同じ事務所のSUPER EIGHTとWEST.以外は実質的な共演はせず、新しい地図とNumber_iがトークを交わすシーンなどもないだろう」というのが現実的なところ。ネット上を見ても、「絡みなんてないだろうし荒れる必要もないかと思う」などの冷静なコメントが目立ちます。

新しい地図

ファンが待ち望んだ3人の音楽番組出演(画像:「with MUSIC」公式Xより)

他局の様子を見つつ慎重に進めたい

ただそれでも、「同じ番組に出ることは初めてで忖度を無くす第一歩」「もう事務所のことなど関係なくこうやって普通に共演できるのが良い」などの前向きな声は多く、“同時出演”に留まっても、その意義が大きいことは間違いないでしょう。

これまで旧ジャニーズ事務所に限らず、大手芸能事務所を退所・独立したタレントは活動の場を制限されるなどの厳しい扱いに悩まされていました。

筆者自身、「テレビには出られないから、ライブ、舞台、営業などで地道にやっていくしかない」という苦労話を何度も聞いたことがあったのです。そんな時代錯誤な悪しき商習慣がこの1年で改善されているのは間違いないでしょう。

ただ、改善のスピード感は遅く、まだまだ不十分。同時出演ではなく、パフォーマンスやトークでの共演を見せてこそ、圧力や忖度というネガティブなイメージを完全に払拭できるだけにもどかしさを感じさせられます。

このところ関係者を取材していて感じるのは、日本テレビに限らず各局ともに「様子を見ながら、少しずつ共演を解禁していく」という慎重なスタンスを採っていること。

STARTO ENTERTAINMENTが「圧力はかけない」「忖度は無用」という姿勢を明かしても、Snow Manなどの視聴率、配信再生数、スポンサー獲得に直結する人気若手グループを抱えているため、「他局の様子も見ながら慎重に事を進めたい」という様子がうかがえます。

そしてテレビ局が慎重なスタンスをとっているもう1つの理由は、「特定グループの一部ファンによる誹謗中傷や、ファン同士のいさかいに巻き込まれたくない」から。

たとえば、解散したグループのメンバーが音楽番組で共演したら、互いのファンが本人たちに厳しい言葉をぶつけたり、「推しの扱いがあっちより悪い」「なぜこんな共演を企画したのか」などと制作サイドを批判したりなどのリスクを避けたいようなのです。

鍵を握るタレントとファンの声

それでもマーケティングの精度に定評のある日本テレビなら、「物足りない」「本当の共演が見たい」という声が多く、コア層(主に13~49歳)の個人視聴率獲得が期待できれば、それを実現させる可能性はあるでしょう。

テレビ局にしてみれば、数字が獲れて、好感度が上がって、リスクが低ければ申し分ないだけに、タレント本人とファンが自らポジティブな声をあげることで、実現に近づいていくかもしれません。

もともと「芸能人はイメージを売る商売」とも言われるだけに、ビジネスを進めるという意味で、タレント自らテレビ局に共演を持ちかけてもいいでしょう。

たとえば、「解散したけど互いをリスペクトしている」「よい意味で競い合っていくために共演したい」というニュアンスが視聴者に伝わって、その結果、好感度や視聴率が上がれば、タレント、ファン、テレビ局の3者がウィン・ウィン・ウィンの関係性になれそうです。

SUPER EIGHT

20周年を迎えたSUPER EIGHT、今夏はアリーナツアーで大忙しだった(画像:SUPER EIGHT公式Instagramより)

これは音楽番組に限らず、バラエティ、ドラマ、情報番組なども同様。独立した中居正広さんがMCを務める「だれかtoなかい」(フジテレビ系)に、STARTO ENTERTAINMENTの後輩・堂本光一さん、佐藤勝利さん、山田涼介さんが出演したように、明らかにこの1年でそのハードルは下がっています。

まだ「MCとして業界トップの中居さんは特別だから」という段階ではあるものの、事務所の垣根を越えた共演を進めるチャンスであることは間違いありません。

特にSTARTO ENTERTAINMENTと新しい地図やTOBEとの共演は、過去との差が大きく、注目度が高い今こそ大きなチャンス。

テレビ局としても話題性があって視聴率や配信再生数が期待できるうえに、「無用な忖度はしない」というメッセージを伝えられるだけに、彼らの共演を進めるほど局全体のイメージはよくなっていくでしょう。

1つ理想をあげるとしたら、ジャンルこそは違うものの、2014年3月31日に放送された「笑っていいとも!グランドフィナーレ感謝の超特大号」(フジテレビ系)。

タモリさん、明石家さんまさん、とんねるず、ダウンタウン、ウッチャンナンチャン、爆笑問題、ナインティナインなどが共演したときのようなサプライズを伴う楽しげなムードの共演は歓迎されるでしょう。

事前予告しての「ついに共演」もいいのですが、予告なしの「まさかの共演」のほうが目先の数字だけでなく、長きにわたって称えられるブランドイメージのアップにつながる可能性大。

それこそ新しい地図の3人とソロアーティスト活動中の木村拓哉さんがサプライズ共演したら、「いいとも!」以来のインパクトを与えられるかもしれません。

WEST.

人気YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」にも登場したWEST.(画像:WEST.公式Xより)

「現在のニーズ」がリアルに問われる

やや話が飛躍した感もあるので、現実的な業界内の動きを2つあげておきましょう。

新しい地図の3人が音楽番組にそろって出演することで、急浮上しているのは他番組への出演。まず音楽番組では、特に3人が親交の深いタモリさんがMCを務める「ミュージックステーション」への出演を望む声が多数見られます。

もちろん音楽番組だけでなく、「かつてのように民放のバラエティや情報番組にも出てほしい」という声も少なくありません。

現在3人はNHKで「ワルイコあつまれ」という教育バラエティにレギュラー出演し、「SMAP×SMAP」(関西テレビ・フジテレビ系)時代を彷彿させるコントを披露していますし、配信番組などで見せるトーク力も含め、3人のスキルはサビついていないように見えます。

しかし、「業界内の圧力や忖度が改善されつつある」ことが意味するのは、「フェアな競争になったことで現在のニーズが問われる」というシビアな現実。アイドルやアーティストの世代交代やグローバル化が進む中、現在彼らがどれくらいの影響力を持っているのか。

それは新しい地図の3人だけでなく、STARTO ENTERTAINMENTやTOBE、引いては他のアイドルやアーティストも同様であり、今年の年末から来年の上半期にかけて真価が問われる形になっていくでしょう。

新しい地図には「今さらもういい」、Number_iには「裏切った」などの否定的な声もある中、それをどんなパフォーマンスで覆していくのか期待したいところです。

日和見なスタンスの日本テレビ

最後にもう1つあげておきたいのは、日本テレビの日和見なスタンスへの賛否。

日本テレビは「with MUSIC」で4組を同時出演させるなど、忖度から一歩抜け出したような印象を与える一方、他番組の起用を見ていると、どちらつかずで煮え切らないようなスタンスがうかがえます。

8月31日・9月1日の「24時間テレビ」では、20年以上にわたって旧ジャニーズのタレントが務め続けてきた「メインパーソナリティー」というポストを廃止。

STARTO ENTERTAINMENTに所属またはエージェント契約をしているタレントは相葉雅紀さん、増田貴久さん、髙橋海人さんの出演に留める一方で、香取慎吾さんと草彅剛さんを「24時間テレビスペシャルドラマ」に起用するなど、これまでからの変化を見せました。

相葉雅紀

「24時間テレビ」では、世界的に人気のあるBTS・JINさんと共演したことでも話題を呼んだ嵐の相葉雅紀さん(画像:「24時間テレビ」公式Xより)

しかし、9月10日放送の「第44回 全国高等学校クイズ選手権」ではSTARTO ENTERTAINMENTのSixTONESをパーソナリティーに起用。かまいたち、指原莉乃さん、石川みなみアナウンサーなど、それ以外のメンバーは「超無敵クラス」の出演者で占められていただけに不自然さを訴える声があがっていました。

このところ同番組は坂道グループが6年、QuizKnockが2年出演していただけに、たびたび「日テレが忖度で『24時間テレビ』の穴埋めをしたのでは」と疑う声すらあったのです。

また、少しさかのぼると、7月6日の大型音楽特番「THE MUSIC DAY 2024」では、STARTO ENTERTAINMENTの櫻井翔さん、SUPER EIGHT、KAT-TUN、timelesz(旧:Sexy Zone)、King & Prince、Snow Man、SixTONES、なにわ男子と、独立した山下智久さん、TOBEのNumber_iが同時出演。

世間の反応を見ながら、今回の『with MUSIC』に向けて段階を踏んでいた感がありました。

Number_i

数々の旧ジャニーズ事務所の先輩たちが出演する音楽番組に登場したNumber_iの3人(画像:「THE MUSIC DAY」公式Xより)

今後もリスクと利益を両にらみ

「THE MUSIC DAY 2024」も、今回の「with MUSIC」も、「リアルタイム視聴が期待できるファン層を持つアーティストをできるだけ多く出したい」という狙いがあったのは間違いないでしょう。

さらにSTARTO ENTERTAINMENT、CULEN、TOBEのアーティストはネット上のコメントや配信再生も活発であり、同時出演によってその効果は倍増するという期待のほどがうかがえます。

性加害問題という大きなきっかけがあったにもかかわず、ドラスティックに変えられないもどかしさはありますが、他局も似たようなものであり、ビジネスである以上、これからもリスクと利益を両にらみしながらキャスティングを進めていくのでしょう。

その際はできるだけ視聴者ファースト、クオリティファーストを貫き、「忖度ではないか」と疑いたくなるような機会を減らしてほしいところです。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)

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