米国大統領選、勝者が予想できる裏技を教えよう

大統領候補としての「初ガチバトル討論会」が終了。どっちが勝つのか、予想できそうな裏技がありそうだ(写真:ブルームバーグ)

アメリカのカマラ・ハリス副大統領とドナルド・トランプ前大統領、両候補の初顔合わせとなった注目のテレビ討論会は、日本時間9月11日午前10時から11時40分にかけて行われた。

トランプ氏はなんと7回目!過去6回を思い出してみよう

筆者は出張先の札幌のホテルで視聴した。テレビでNHKの地上波を流して音は消す。パソコンで現地のPBSネットワークのストリーミング放送につなぎ、こちらは音を出して英語字幕をオンにしておく。

両方の画面を見比べると、だいたい時間差なしに一致していた。いやはや、便利になったものである。昔はねえ、テレビ討論会は衛星放送だったし、生成AIが登場してからは字幕の精度も格段に向上したんですよ。

考えてみたら、トランプさんが大統領候補者討論会に登場するのはこれが連続7回目である。

なにしろ3回連続で共和党の正式な候補者となり、大統領選挙にチャレンジし続けているのだから。そういえば筆者は、過去7回分の討論会を全部ライブで見ている。いや、好きなわけじゃないけど、まあ、これが仕事みたいなものでありますから。

思い起こせば、以下のような感じであった。

「まっとうな」討論会はもう無理、今後も「学級崩壊型」?  

* 2016年=9月26日、10月9日、10月19日の3回:相手はヒラリー・クリントンでトランプ氏は70歳。政策そっちのけで悪口合戦となり、それまでの討論会のイメージを塗り替えた。タウンホール方式で行われた第2回では、会場から「お互いに相手の尊敬する点をひとつずつ挙げてくれ」という質問が出て、ヒラリーは「トランプの子どもたちは優秀だ」と言い、トランプ氏は「彼女はけっして諦めない。ファイターだ」と称えあった。このときだけは、両者握手をして別れたものである。
* 2020年=9月29日、10月22日の2回:このときのトランプ氏は現職大統領で74歳。迎えた挑戦者はジョー・バイデン氏。相手が話している最中にもトランプ氏が遠慮なく割り込むものだから、2回目からは「相手が話している間はマイクをミュートにする」という新ルールが導入された。本当は3回のはずだったが、途中でトランプ氏が新型コロナウイルスに感染したために、1回分が中止になった。
* 2024年=6月27日:相手はバイデン大統領で、78歳になったトランプ氏が挑戦者。いつもの通り遠慮なく攻め込んだら、バイデン氏の声はか細く、反応も鈍くてまことに心もとない。バイデン氏の語尾が聞き取れなかったところ、トランプ氏は「今、彼が何と言ったかわかったか?たぶん本人もわかってないぞ」と「吉本芸人」のようなツッコミを入れてみせた。かくしてバイデン氏は、出馬辞退に追い込まれたのであった。

トランプさんが出ていない「まっとうな」討論会の記憶は、2012年のバラク・オバマ大統領対ミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事の戦いまで遡らねばならない。あの頃までは、討論会の際には開会とともに両候補者は握手をし、互いに礼儀を失わずに議論を戦わせたものである。司会者が制止しても話を止めないとか、相手が話している途中で割り込むといったことは、ほとんど考えられなかったものである。

次回、2028年の大統領選挙には、憲法上の規定もあるし、年齢上の問題もあるからさすがにトランプさんは出られない。そのときに討論会は昔の正統なスタイルに戻るのか、それとも今のような「学級崩壊」型が続くのか。できれば昔に戻ってもらいたいが、それは年寄りの詮ないノスタルジーのような気もするところだ。

さて、各方面の意見を総合すると、今回のテレビ討論会は「ハリス氏の勝ち」という意見が多いようである。確かに、事前に懸念されていたような「アドリブ力不足」なんてことはなかった。ホッと胸をなでおろしたハリス支持者は、少なくなかったかもしれない。

現在、民主党員は久々に候補者と「恋に落ちて」いる。ここで彼女が力不足のところを見せたら一大事。しかし今回、彼女は苦手なはずの外交・安全保障分野でも堂々と攻め込んでいた。この分なら、まだまだ支持者との「ハネムーン」が続きそうである。

「化けつつ」あるハリス氏、ツボを外さないトランプ氏

思うにアメリカの大統領選挙システムには、候補者を成長させるメカニズムがビルトインされている。どんどん大きな舞台に上げることで、候補者を鍛え上げるのだ。近年は高齢の「出来上がった」政治家が続いていたために、そんな効果は久しく忘れられていたけれども、ハリスさんはここへきて「化けつつ」あるのかもしれない。

他方のトランプさんは、過去6回とほぼ同様であった。さすがに年のせいもあってか、我慢が利かなくなってきている感じはあった。せっかく司会者が「移民問題」というネタを振ってくれているのに、ハリスさんが「トランプ氏の集会は飽きられている」と挑発したら、そこで逆切れして「ハイチからの移民はペットを食べている」などと暴走発言が飛び出した。すかさず司会者からファクトチェックされてしまったけれども。

とは言うものの、この10年くらいのトランプさんは「どんなことがあってもコア支持者のツボを外さない」点は、ご立派としか言いようがない。そんなことは、普通はありえない。どんな人気タレントでも、いつかは飽きられ、人気は衰えていくものだ。

しかるになぜか、トランプさんは人気をキープし続けている。かつて『アプレンティス』というお化け番組のホスト兼プロデューサーだった「視聴率男」には、支持者のハートが読めているのだろうか。たぶん今回のテレビ討論会も、支持者は満足して受け入れているのではないかという気がする。

いずれにせよ、今回の討論会はどちらの側にも決定的なミスはなかった。議論の最中につい、腕時計を見てしまったお父さんブッシュとか、相手方のとんちんかんな答えに対して、わざとらしくため息をついたアル・ゴア氏とか、「あれがなければ……」と後々まで言われるような「消したい瞬間」はなかった。そしてこの後、2度目の対決は行われなさそうである。

ということは、このまま11月5日の投票日まで、今のようなミクロの戦いが続くのであろう。2024年選挙は、おそらく2000年の「ブッシュ対ゴア」並みの接戦になるのではないか。強いて言えば、その前に「オクトーバー・サプライズ」の可能性がありそうだが…。

討論会では、「ハリスの楽観、トランプの悲観」という対比が浮かび上がった。両者のスローガンは共和党側が「アメリカを再び偉大な国に」(Make America Great Again.)であり、民主党側は「われわれは後戻りしない」(We are not going back.)である。まさに陰と陽。極端な話、11月5日前後のアメリカ国内の雰囲気みたいなもので最後は決まるのかもしれない。

TMTG社の株価がトランプ氏の運命を示してくれる

それでは、この読めない戦いにおいて、「どっちが勝つか」を示すバロメーターはないのだろうか。ひとつだけあるのですな、これが。

グーグル検索で「TMTG」「株価」と入力してご覧あれ。Trump Media & Technology Group Corpというハイテク企業の株価が出るはずだ。もともとトランプさんがツィッターのアカウントを凍結されたときに、「ソーシャル・トゥルース」という自前のSNSを立ち上げた。その運営会社がTMTGで、今年3月にナスダックに上場した。「インターネットをビッグテックの検閲の手から取り戻す」と同社の心意気は高い。

トランプ支持者が応援のために買ってくれるので、一時は1株80ドル近い高値をつけたこともある。民事訴訟を数多く抱えているトランプ氏にとっては、この会社の時価総額は「いざというときの米櫃」という役割もある。

しかるにTMTG社の株価は現在、20ドルを割り込んでいる。しかも悩ましいことに、最近はイーロン・マスク氏が接近してきて、X上でトランプ氏との対談を持ち掛けたりしている。それが注目を集めるのは結構なことなのだが、それではTMTG社の経営は困るのだ。

もしもトランプ氏が大統領になれないのであれば、この会社の株は紙切れとなろう。下手に世論調査やベッティングオッズを見るよりも、TMTG社の株価がトランプさんの運命を示してくれるだろう。今年の大統領選挙をウォッチする裏技としてご紹介しておく(本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。

ここから先はお馴染みの競馬コーナーだ。9月7日から、待ちに待った秋競馬が始まった。中山競馬場が競馬ファンを呼んでいる。この週末の3連休は9月16日月曜日のメインレース、セントライト記念(G2)が楽しみだ。

中山競馬場の芝2200メートルといえば、他にもオールカマーやAJCC(アメリカジョッキークラブカップ)などの重賞レースがある。いつも「ひと癖ある馬」が活躍し、特にわが偏愛するステイゴールド産駒がこの距離を得意としている。セントライト記念は、3歳馬がこの「中山・芝・2200メートル」に初挑戦するチャンスとなる。ここでは中山競馬場の「非根幹距離」を得意とする馬を発見したい。

セントライト記念のイチオシは「中山大得意」の馬で

筆者のイチ押しはコスモキュランダだ。なにしろ3月の弥生賞ディープインパクト記念(G2)で1着、皐月賞2着と最初から「中山大得意」な馬である。日本ダービーは6着に終わったけれども、それでオッズが下がるのなら勿怪(もっけ)の幸いというものだ。鞍上のミルコ・デムーロ騎手は、今年は今ひとつで、重賞勝利はこのコスモキュランダの弥生賞のみ。久しぶりに会心の笑顔を見たいものである。

対抗にはアーバンシック。こちらは皐月賞4着、ダービー11着だったが、夏場の成長とクリストフ・ルメール騎手への乗り代わりで好機がありそうだ。単穴にはヤマニンアドホック。ラジオNIKKEI賞3着で何かをつかんでくれたかもしれない。後はスティンガーグラスとアスクカムオンモアまでを押さえる。

※ 次回の筆者は小幡績・慶應義塾大学院教授で、掲載は9月21日(土)の予定です(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(かんべえ(吉崎 達彦) : 双日総合研究所チーフエコノミスト)

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