「中秋の名月」今年は"土星"も見える!?鑑賞のコツ

満月とススキ

日本人が月を愛でる習慣は江戸時代から。今年は一緒に土星が見えるかも?(写真:花火/PIXTA)
「小惑星探査」や「火星移住」などのニュースから、UFO、宇宙人の話題まで、私たちの好奇心を刺激する「宇宙」。だが、興味はあるものの「学ぶハードルが高い」と思う人も少なくない。
知らなくても困らない知識ではあるが、「ブラックホールの正体は何なのか」「宇宙人は存在するのか」など、現代科学でも未解決の「不思議」や「謎」は多く、知れば知るほど知的好奇心が膨らむ世界でもある。また、知見を得ることで視野が広がり、ものの見方が大きく変わることも大きな魅力だろう。
そんな宇宙の知識を誰でもわかるように「基本」を押さえながら、やさしく解説したのが、井筒智彦氏の著書『東大宇宙博士が教える やわらか宇宙講座』だ。「会話形式でわかりやすい」「親子で学べる」と読者から称賛の声が届いている。
その井筒氏が、私たちにとって最も身近な天体「月」について解説する。

身近な存在「月」の基本スペックを知ろう

東大宇宙博士が教えるやわらか宇宙講座: 東大宇宙博士が教える劇的にわかりやすい宇宙入門〈10分で“ほぼ”わかるQ&A付き!〉

ふと、夜空を見上げると目に入る「月」。あまりの美しさに見とれてしまうことはありませんか?

月は、地球に住む私たちにとって非常に身近な存在です。

しかし、ふと考えてみると「月の上はどうなっているんだろう?」といったことや、「そもそも、月はどうしてあるんだろう?」など、知らないことばかり。

月は知識がなくても楽しく眺めることができますが、科学的なことを知ると見方がガラッと変わるはず。

今回は身近な天体のひとつ、「月」について学んでいきましょう。

まずは月の「基本スペック」を紹介します。

月の基本スペック
● 月はおもに「岩石」でできている
● 地球のように中心部には「金属の核」があるが、その量はとても少ない
● 月は地球よりも小さく(4分の1の大きさ)、軽い(80分の1の重さ)

宇宙では重い天体ほど重力が強いため、月は地球の強い重力に引っ張られ、勝手にどこかへ飛んでいくことなく、地球のまわりを回っています。

ご存じのとおり、月が地球を回るのに必要な期間は、約1カ月です。そして、おもしろいことに、月は地球を1周(公転)する間に、自分自身もちょうど1回転(自転)します。その間、月は同じ面のみを地球に向けています。

地球から見ると月は、太陽と同じような大きさに見えますよね。

実際には、地球から月までの距離は約38万キロメートル。地球は太陽から1億5000万キロ離れているので、月のほうがかなり地球に近いです。

月の重力は地球に影響を及ぼしています。わかりやすい例が、「潮の満ち引き」です。海面は、月の重力に影響を受けて高くなったり低くなったりしています。

また、地球内部の岩石に影響を与えることで「地震」と関連しているという話もありますが、因果関係はいまだ研究中です。

太陽・地球・月の位置関係からわかること

月が地球を回る様子に「太陽」を加えて、太陽、地球、月の位置関係を見てみましょう。

この位置関係から次のことがわかります。

「月の満ち欠け」のイラスト

太陽、地球、月の位置関係から「月の満ち欠け」がわかる(イラスト:村上テツヤ)
太陽、地球、月の位置関係からわかること
・月は満ち欠けをする
・「月の出」は毎日遅れる(月待ちを楽しめる)
月は満ち欠けをする

月はみずから輝かず、太陽の光を反射して輝きます。太陽の光が月に当たる部分は、地上から見ると日々変化し、日によって、月は満ちたり、欠けたりします。

太陽の光が月の裏側全体に当たっているときは「新月」となります。逆に、月の表側全体に当たるときが「満月」です。

満月のとき、太陽と月は地球を挟んで反対側にあります。図のAを見るとわかるように、太陽が西の地平線に沈んでいくとき、満月が東の地平線から昇ってきます。

「菜の花や 月は東に 日は西に」この与謝蕪村の俳句をご存じでしょうか。

これは、満月の日に詠まれた句であるということがわかります。茜色の空に、黄色い菜の花と満月――宇宙と大地を感じる壮麗な句ですね。宇宙の知識が増えると、俳句の解釈が深まることもあるのです。

「月の出」は毎日遅れる(月待ちを楽しめる)

日によって変わるのは、月の満ち欠けだけではありません。じつは月が昇る時刻も変わります。「日の出」の月バージョンで、地平線から月が昇ることを「月の出」といいます。

日々変化する月の出を愛でる「月待ち」

前ページの図で、満月の「月の出」を見た次の日のことを考えてみましょう。

満月から24時間経つと、月は公転によってちょっとだけ反時計回りに動きます。見た目は満月から少しだけ欠けて「十六夜(いざよい)」になっています。このとき、十六夜はまだ地平線の下にいて、十六夜が地平線から昇るには、地球は50分ほど自転する必要があります。

満月の日に限らず、毎日同じことが起きます。つまり、「月の出」は毎日少しずつ遅れるということです。

「月待ち」のイラスト

日々変化する月を愛でる「月待ち」 ※日時は満月の出を15日18時としたときの目安(イラスト:村上テツヤ)

江戸時代には、日々変化する月の出を愛でる「月待ち」という風習がありました。

十六夜の「いざよう」とは「躊躇する」という意味です。名付けた人は、満月から少し欠けた月が約50分遅く昇る様子を見て、月が不完全な姿を見せるのをためらっていると思ったのでしょうね。

その翌日の月を「立待月(たちまちづき)」といいます。十六夜から約50分遅れて昇るのを立ちながら待つことから来ています。

その翌日の月は「居待月(いまちづき)」。さらに約50分遅れてくるから、もう立っていられず、居座って待つということです。

となると、その翌日の月は何と呼ばれると思いますか?

立って、座って……その次は……寝ながら待つ「寝待月(ねまちづき)」です!

月の名前から、昔の人々が月を楽しむ姿が想像できますよね。このように、身の回りに起きるちょっとした変化に気づいて、それを楽しむのは素敵なことだと思いませんか。

月の出には日の出とは違った趣があるので、ぜひ一度「月待ち」を試してみることをオススメします。

皆さんは「中秋の名月」という言葉を聞いたことがあると思います。

「中秋の名月」とは、旧暦(太陰太陽暦)の8月15日の夜に見える月のこと。美しい月として、古くから親しまれてきました。

2024年「中秋の名月」は特別、その訳は?

ここで暦(カレンダー)について、簡単に説明しておきましょう。

現在は、太陽の動きをもとにつくられた暦(太陽暦)を使っています。この暦は明治6年に採用されました。それまでは、月(太陰)と太陽の動きをもとにした太陰太陽暦、いわゆる旧暦が使われていました。

旧暦では、月が「新月になる日」を月の始まりとして、その月の「1日」としています。月が立つ日なので、「つきたち」から発音が変化して「ついたち」と呼ばれるようになったと言われています。

旧暦における「秋」は7月から9月まで。旧暦の8月15日は、秋の真ん中にあたることから「中秋」と呼ばれています。

じつは、中秋の名月は「満月」とは限りません。実際、今年の中秋の名月は9月17日ですが、満月はその翌日の9月18日です。

月は、新月から平均約14.8日後に満月になります(実際は13.9~15.6日)。旧暦の1日は新月になる日なので、旧暦の15日は月が14日目を迎える日です。満月になる瞬間は、その日のうちに訪れることもあれば、翌日になることもあるのです。ちょっと、ややこしいですね。

太陽系の天体がぐるぐると回り、人が定めた暦とのめぐり合わせから、中秋の名月を楽しむことができるわけですが、今年は特別です。

前回の記事でもお伝えしましたが、月のすぐ近く(右上)に土星が見えます。先ほどお話ししたように、月の出の時刻は毎日変わる、つまり、夜空に浮かぶ月の位置は日々変化するので、9月16日や18日は、月と土星はやや離れています。17日にちょうどぴったり寄り添うように見えるのです。

月を愛でるよりも、お月見団子を食べるのが好きなかたも、この日ばかりは、しっかりと夜空を見上げてみてくださいね。

月を望遠鏡で観察する人物のイラスト

今年の「中秋の名月」には土星が見えるかも!? (イラスト:村上テツヤ)

今年のお月見は、天体望遠鏡で覗いてみたり、江戸時代の人々のように月待ちをしてみたりしながら、いつもと違った楽しみ方をしてみてはいかがでしょうか?

(井筒 智彦 : 宇宙博士、東京大学 博士号(理学))

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