アップル、iPhoneの周辺デバイスで強化すること

アップル ウェアラブル製品

アップルのウェアラブル製品(写真:アップル)

日本時間9月10日午前2時より開催されたアップルの新製品発表イベント「It's Glowtime.(時が満ちる。)」では、iPhone 16シリーズおよびiPhone 16 Proシリーズが発表されたが、それとは別にスマートウォッチの新製品「Apple Watch Series 10」や、イヤホン製品の「AirPods 4」も発表された。

Apple Watchが健康を見直すきっかけを作る

「Apple Watch Series 10」は、「Apple Watch Ultra」よりも大きなディスプレイを備えつつ、既存モデルの「Apple Watch Series 9」に比べ10%薄く、20%軽くなっている。ケースを薄く軽く仕上げるために「Apple Watch Series 10」ではステンレススチールの代わりにグレード5のチタンが採用された。

美しい光沢のApple Watch Series 10(写真:アップル)

Apple Watchといえば、心臓の異常(心房細動)の発生を警告する機能や交通事故や転倒による衝撃を検知して自動的に緊急通報する機能などを備えており、これらの機能によって、大けがや命を落とすかもしれない事態を回避できたとの事例報告が、よく報道されている。

今回の発表では、アップルはApple Watchにユーザーの睡眠時無呼吸症候群の様子を記録し、受診を促す睡眠監視機能を提供することを明らかにした。この機能は機械学習と臨床データを使用して開発したアルゴリズムを採用し、大規模な臨床試験での検証も済んでいるという。

睡眠時無呼吸症候群の警告機能は「今後、非常に近いうちに」Apple Watch Series 10、Series 9に加えて、Apple Watch Ultra 2にも提供される。これらのモデルでは、加速度センサーを使用して睡眠中の「呼吸障害」と認識される状態の発生を監視し、中程度から重度の睡眠時無呼吸の兆候が見つかった場合に、ユーザーにそれを通知・警告する。

iOSのヘルスケアアプリで睡眠時の呼吸の乱れを確認できる(写真:アップル)

日々の睡眠状態は「ヘルスケア」アプリのなかで確認できる。もし重い症状があるのなら、Apple Watchから詳細なレポートを書き出して医師に提出し、判断を仰ぐこともできる。

アップルのヘルスケア担当副社長であるスンブル・デサイ博士は「無呼吸検出用のアルゴリズムは、臨床レベルの睡眠時無呼吸検査からの膨大なデータセットを用い、高度な機械学習によって作り出された」とし、「その後、睡眠時無呼吸症の研究のための技術としては前例がない規模の臨床研究で検証された」とコメントしている。睡眠時無呼吸症候群の患者は8割が医師にかかっていないとアップルは説明しており、デサイ博士は「この機能が診断されていない睡眠時無呼吸症を抱えて暮らす何百万人もの人々に大きなインパクトを与えられるようになる」と述べている。

睡眠時無呼吸症候群は高血圧や2型糖尿病に関連し、それらの症状を促進させる原因の1つとされている。にもかかわらず、自覚症状に乏しいため、睡眠時無呼吸を持っている患者の実に8割が医師の診断を受けていないとアップルは説明した。Apple Watchでユーザーが自分の無呼吸について知り、その後の健康維持に役立てられるのなら、5万9800円は決して高くないだろう。Apple Watch Series 10は9月20日に発売される。

「AirPods Pro 2」には補聴器機能が提供へ

iPhone 16やApple Watch Series 10などの発表に比べればあまり目立たないアップデート情報ではあるものの、アップルは既発の完全ワイヤレスイヤホン製品「AirPods Pro 2」に、「臨床グレードの補聴器」機能が追加されることを明らかにした。

この機能はまだFDAの認可が下りていないため、いますぐに補聴器機能が使えるようになるわけではない。とはいえ、この機能が使えるようになれば、装着者は周囲の音がより良い状態で聞こえ、さらに会話の聞き取りも改善しコミュニケーションをとりやすくなるとアップルは述べている。

聴覚テストを行い、AirPods Proを補聴器として使えるようにする(写真:アップル)

補聴器機能を使うためには、AirPods Pro 2とiOS 18をインストールしたiPhoneなどを用いて、ユーザーが自分の現在の聴力状態を短時間でテストする必要がある。このテストでは、様々な音量や周波数の音をイヤホンで流し、ユーザーの「聴こえ」の状態を調べる。この判定プログラムについてアップルは「大規模な現実世界のデータ」を用いて開発したと述べ、十分な精度を備えることをアピールした。

この聴力判定の結果はヘルスケアアプリに保存され、AirPods Pro 2を補聴器として使うためのパーソナライズされた聴力プロファイルとして使われる。また、この情報は睡眠時無呼吸のデータと同様に、必要に応じて医師に提供し、診断に役立てることが可能だ。

iOSのヘルスケアアプリで、長期的な聴力の健康推移を確認(写真:アップル)

今秋、100以上の国や地域でリリース予定

さらに、アップルいわく、聴覚障害のないユーザーの場合でも、このテストで作成したプロファイルを、音楽再生などにおける音の調整などに活用できるとのことだ。AirPods Pro 2は音楽再生だけでなく、動画やゲーム、そのほかのコンテンツでも幅広く使えるため、それらを楽しむ際のサウンドを、より明瞭に、より聞き取りやすく感じられるようになるかもしれない。

AirPods Pro 2の補聴器機能とiOS 18による聴力検査機能は、いずれも今秋、100以上の国や地域でソフトウェアアップデートを通じてリリースされる予定となっている。ちなみにAirPods Pro 2の価格は3万9800円(税込)。もし本当に「臨床グレード」と言えるほどの十分な性能が得られるのなら、なかなか高価なものが多い専用の補聴器を買うよりも、財布への負担が少ない選択肢になるかもしれない。

(タニグチ ムネノリ : ウェブライター)

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