iPhoneだけじゃない、時計やイヤホンの重要進化

服薬リマインダー、騒音環境を検知、心房細動の通知を行うApple Watch(写真:アップル)

アップルが新iPhoneを発表するプレゼンテーションで、今や恒例となったシーンがある。Apple Watchによって命を救われた人々の感動的な体験談だ。基調講演冒頭で、心臓病の早期発見や事故時の緊急通報など、このスマートウォッチが人々の命を守った実例が次々と紹介された。

10年前のApple Watch発表時、注目はまったく別のところにあった。スムーズな操作性やファッション性が話題の中心だった。しかし現在、Appleはこの製品の位置づけを大きく変えている。単なるスマートフォンの付属品やおしゃれなアクセサリーから、人々の健康を守る重要なデバイスへと進化させたのだ。

Apple Watchの健康機能の進化は目覚ましい。2018年に導入された心電図機能と不整脈検出は大きな転換点となった。その後も、血中酸素濃度の測定や睡眠の記録、体温センサーなど、次々と新機能が追加された。

スマートウォッチで睡眠時無呼吸症候群を検出

今回発表された新型Apple Watchの目玉は、睡眠時無呼吸症候群の検出機能だ。この機能は、腕の微細な動きから呼吸の乱れを感知する。30日間のデータを分析し、中程度から重度の症状が一貫して見られる場合、ユーザーに通知する。ユーザーはこの情報を基に医師に相談し、適切な診断や治療につなげることができる。

世界保健機関によると、睡眠時無呼吸症候群は世界で10億人以上が抱える問題だ。しかし、多くの場合、診断されないまま放置されている。この新機能により、早期発見と適切な治療が可能になるかもしれない。

この新機能は、Apple Watch Series 9、Apple Watch Series 10、Apple Watch Ultra 2で利用可能となる。提供開始時期は機能によって異なるが、日本も含まれている。睡眠時無呼吸の検出機能は、各国の規制当局の承認を経て、9月中に日本を含む150以上の国と地域で利用可能になる見込みだ。

睡眠時無呼吸症候群の通知は日本を含めた150カ国で展開する(写真:アップル)

イヤホンが簡易的な補聴器に

一方、完全ワイヤレスイヤホンの上位機種「AirPods Pro」には、画期的な聴覚の健康機能が追加された。その1つが「大きな音の低減」機能だ。これは、ユーザーが聞いている音の特徴を維持しながら、有害な大音量の騒音を軽減する。コンサートなどのライブイベントでも、音の自然さと鮮明さを保ったまま、聴覚を守ることができる。

さらに、AirPods Proは簡易的な聴力検査機能も備えた。ユーザーは約5分で自分の聴力をチェックできる。検査結果は安全に保存され、必要に応じて医療機関と共有することもできる。

聴力に問題が見つかった場合、AirPods Proは補聴器としての役割も果たす。軽度から中程度の難聴に対応し、周囲の音を適切に増幅する。この機能は音楽や映画、通話にも自動的に適用される。

簡易的な補聴器のように使える新機能をAirPods Pro(第2世代)で導入(写真:アップル)

聴覚関連の新機能も、この秋から日本を含む100以上の国と地域で順次導入される予定だ。これらの新機能は、2022年9月に発売されたAirPods Pro(第2世代)に対して、ファームウェアアップデートを通じて提供される。つまり、既存のAirPods Pro(第2世代)ユーザーも、アップデート後にこれらの新機能を利用できるようになる。

このような技術の進歩は、予防医療の新たな形を示唆している。日々の生活の中で継続的に健康状態をモニタリングすることで、従来の定期健康診断では捉えきれなかった微細な変化も検出できるようになるかもしれない。それは、病気の兆候をこれまでよりも早い段階で発見し、対処することを可能にする。

健康管理が製品群の要に

その中でアップルは、ウェアラブルデバイスを中心とした健康管理エコシステムを構築している。例えば、Apple Watchで測定した心拍数や運動データは、iPhoneのヘルスケアアプリで一元管理される。さらに、AirPods Proで行った聴力検査の結果もこのアプリに統合される。ユーザーは、これらのデータを1カ所で簡単に確認でき、必要に応じて医療機関と共有することも可能だ。このように、複数のデバイスとアプリが連携することで、ユーザーは自身の健康状態を総合的に把握し、効果的に管理できるようになる。

Fitbitを買収したグーグルや、Galaxy Watchを展開するサムスン電子など、競合他社も同様のエコシステム戦略を展開している。しかし、医療機器としての認証を受けた機能の数や、健康管理機能の多様性において、現時点ではAppleが一歩リードしているように見える。特に、睡眠時無呼吸症候群の検出や、AirPods Proを活用した聴覚の健康機能など、ユーザーの命と健康を守るという観点から、Appleは最も先進的な取り組みを行っていると言えるだろう。

テクノロジーと健康管理の融合が加速する中、Appleの取り組みは、私たちの生活がどのように変わりうるかを示す1つの指標となっている。ウェアラブルデバイスが単なるガジェットから、ライフラインの一部へと進化していく過程を、私たちは目の当たりにしているのかもしれない。

(石井 徹 : モバイル・ITライター)

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