ヤマハ「MT-09 Y-AMT」セミオートマバイクの潮流

今回、筆者が試乗したセミオートマ機構を備えたヤマハのスポーツバイク「MT-09 Y-AMT」

今回、筆者が試乗したセミオートマ機構を備えたヤマハのスポーツバイク「MT-09 Y-AMT」(筆者撮影)

ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)が開発した注目のセミオートマ機構「Y-AMT(ワイ・エーエムティ)」を搭載したスポーツバイク「MT-09 Y-AMT」に試乗した。

【写真】セミオートマ化が進むスポーツバイク。ヤマハ「MT-09 Y-AMT」のディテール。ライバルのホンダ「CBR650R/CB650R」もチェック(81枚)

ヤマハのMT-09 Y-AMTの概要

2024年9月30日に発売を予定する当モデルは、888cc・3気筒エンジンを搭載するロードスポーツ「MT-09」がベース。もともとは一般的な6速MT(マニュアル・トランスミッション)車だが、新機構のY-AMTを採用することで、クラッチレバーやシフトペダルを廃していることが大きな特徴だ。

変速操作はハンドルに装備したシフトレバーで行うほか、フルオートで変速するAT(オートマチック・トランスミッション)機能も採用。これらにより、ライダーは、クラッチやシフトペダルの操作をする必要がなくなり、ライディングにより集中できるスポーツ性と快適性を味わえるという。

ここでは、そんな新機構を備えたMT-09 Y-AMTの走りを、ヤマハ主催のサーキット試乗会で体験してきたので、その乗り味を紹介する。また、Y-AMTと同様の機構には、本田技研工業(以下、ホンダ)が開発したホンダE-クラッチもあり、それを搭載したCBR650R/CB650Rの2024年モデルがすでに発売中だ。まさに、ライバル関係といえるホンダとヤマハそれぞれの新機構についても比較し、乗り味や魅力の違いなどに迫ってみたい。

ハンドル左側には、クラッチレバーがなく、シーソー式シフトレバーを備える

ハンドル左側には、クラッチレバーがなく、シーソー式シフトレバーを備える(筆者撮影)

Y-AMTは、4輪車でいえばセミオートマ(セミオートマチック)的な機構だ。4輪車の場合は、ステアリングに装備したパドルシフトで変速操作を行うが、Y-AMTでは、左ハンドルに備えたシーソー式のシフトレバーを使う。一般的なバイクのMT車が、クラッチレバーやシフトペダルで変速操作を行うのに対し、Y-AMTは、それらを廃止した新開発の自動変速トランスミッションだといえる。

また、フルオートで変速するAT(オートマチック・トランスミッション)機能も備え、ライダーが任意に選択することが可能。これらにより、ライダーは、クラッチやシフトペダルの操作が不要となり、体重移動やスロットル開閉、ブレーキングなど、ほかの操作に集中できることで、よりバイクを操る楽しさを堪能できるという。

スポーツモデルのMT-09に搭載

ベースになったMT-09。MT-09 Y-AMTと比べると、クラッチレバーやシフトペダル、エンジン形状などが異なる

ベースになったMT-09。MT-09 Y-AMTと比べると、クラッチレバーやシフトペダル、エンジン形状などが異なる(筆者撮影)

そのY-AMTを新採用するのが、900ccのスポーツモデルMT-09 Y-AMTだ。ベースモデルは、アグレッシブなスタイルで、街中からワインディングまで軽快に走れることが特徴のMT-09。主な特徴は、最高出力120PSものハイパワーを発揮する888cc・3気筒エンジンを搭載すること。また、剛性バランスを最適化したCF(コントロールド・フィリング)アルミダイキャスト製フレームや、超軽量に仕上げた「スピンフォージド・ホイール」など数々の最新技術により、車両重量193kg~194kgという軽い車体も実現する。ラインナップには、スタンダード仕様のMT-09に加え、専用サスペンションなどを装備したMT-09SPがある。

新型のMT-09 Y-AMTは、このMT-09のスタンダード仕様をベースとし、トランスミッションにY-AMTを追加した仕様だ。ヤマハによれば、Y-AMTは、ベースとなるMT車の変速機構に大きな変更を加える必要がなく、しかもユニット重量は約2.8kg。軽量かつスリム・コンパクトな設計を実現することで、ベース車両本来のスタイリングやハンドリングへの影響を最小限に抑えることが可能だという。

MT-09 Y-AMTの外観

MT-09 Y-AMTの外観(筆者撮影)

実際にMT-09 Y-AMTのスタイルは、ベースとなるMT-09のスタンダードモデルとさほど変わらない。ぱっと見た印象は、クラッチレバーやシフトペダルがない程度だ。また、エンジン左側には、シフト操作を自動化するシフトアクチュエーター、右側にはクラッチ操作を行うクラッチアクチュエーターを備え、それぞれカバーで覆われているが、いずれもコンパクトなため、違和感は少ない。なお、車両重量は、ベース車の193kgに対し、MT-09 Y-AMTは196kgだから約3kgの増加。ほぼY-AMTのユニットぶんが増えているだけであることがわかる。

MT-09 Y-AMTのリアビュー

MT-09 Y-AMTのリアビュー(筆者撮影)

今回の試乗会は、千葉県にある袖ヶ浦フォレストレースウェイというサーキットで実施。まずは、停止状態からの発進を試してみる。MT-09 Y-AMTには、ATモードとMTモードがあり、右ハンドルのスイッチで切り替えが可能。また、ATモードには、穏やかな走りとなる「D」と、スポーティで俊敏な走行が可能な「D+」といった2つのモードも用意している。

MT-09 Y-AMTでは、とくにATとMTのどちらのモードでも、発進時の加速がかなりスムーズなのが印象的だ。今回は、クローズドコースでの試乗だったが、おそらく一般道でも、アクセルを軽くひねるだけで十分に交通の流れに乗れるほど、余裕ある走りを感じられるだろう。

メーターに表示されたモード

メーターに表示されたモード(筆者撮影)

しかも、サーキットなどでロケットスタートを決めたいときにも、MT-09 Y-AMTはかなり鋭い加速を発揮してくれる。ヤマハによれば、テスト時のデータでは0-400m加速で10.9秒という俊足タイムも記録したという。一般道では、なかなかこうした猛ダッシュをできるシーンこそないが、大型バイクらしい、鋭い加速力を堪能できるポテンシャルを十分に持つことがうかがえる。

コーナリング時の操作感

発進し、直線である程度の車速になったらシフトアップ、コーナーが近づくと減速と同時にシフトダウン。こうした一連の動作をMT-09 Y-AMTは、ATモードにするとバイクが勝手に行ってくれる。とくにツーリング先のワインディングを、まわりの景色を楽しみながら流して走るときには、とても便利で快適だ。

左ハンドルのシフトレバー。人さし指でシフトアップを行う

左ハンドルのシフトレバー。人さし指でシフトアップを行う(筆者撮影)

親指で「-」レバーを押し込めばシフトダウンが可能

親指で「-」レバーを押し込めばシフトダウンが可能(筆者撮影)

また、MTモードにすると、左ハンドルのシフトレバーで変速操作を行える。「+」レバーを人さし指で引けばシフトアップ、「-」レバーを親指で押せばシフトダウン。さらに「+」レバーと人さし指のみの操作も可能で、引けばシフトアップ、外側に弾けばシフトダウンとなる。なお、シフトアップ時はアクセルを戻すなどの操作も不要。近年は、シフトペダルを備える一般的なMT車でも、クラッチやアクセルの操作なしでシフト操作が可能なクイックシフターという機能もあるが、Y-AMTは、それと同等以上の素早い変速操作を味わえる。

なお、筆者の場合は、「+」レバーと人さし指のみを使うほうが操作しやすかった。理由は、減速時に上体が前のめりになりすぎないようにするには、親指でもハンドルをしっかりとホールドしたいからだ。そのため、減速と一緒にシフトダウンする際は、親指をレバー操作に使わない方法を選んだ。

シフトペダルのない右足のステップまわり

シフトペダルのない左足のステップまわり(筆者撮影)

ただし、MT-09 Y-AMTは、シフトレバーだけでなく、シフトペダルもないため、筆者の場合、最初はやや違和感があった。シフトダウン時などに、いつものクセで、無意識に左足でシフトペダルの位置を探ってしまい、ライディングにやや集中できない感じだったのだ。だが、こうした違和感は、あくまで慣れの問題。5分程度バイクに乗り続けることで、すぐに慣れてしまった。

しかも、思わぬ効果も実感。例えば、コーナリング中のステップワークだ。通常のMT車の場合、筆者は、バイクの旋回中につま先をイン側のステップへ載せる。フルバンク時に、つま先が路面に当たらないようにするためだ。とくに左コーナーでは、減速区間でシフトダウンのペダル操作を完了したあと、左足を一瞬上げてつま先立ちにするといった動きをする。

一方、MT-09 Y-AMTは、シフトペダル操作が不要なため、早い段階でつま先立ちの姿勢を取れる。そのため、ステップ荷重などがよりスムーズにできるといったメリットも感じられた。もちろん、このあたりは、好みや乗り方の問題もあるので、シフトペダルの有無について、一概に善し悪しはいえない。だが、少なくとも筆者は、MT-09 Y-AMTに乗ってすぐのときよりも、ある程度慣れたときのほうが、乗りやすさなどのイメージがアップしたことは間違いない。

極低速のターンでの便利さ

ハンドル右側にあるAT/MTの切り替えボタン

ハンドル右側にあるAT/MTの切り替えボタン(筆者撮影)

MT-09 Y-AMTは、細い路地などで、5km/h以下の極低速でUターンするときなども、かなりスムーズだった。とくに一般的なMT車では、極低速の走行は、繊細な半クラッチやアクセルの操作を行わないと、エンストして立ちゴケする可能性もある。バイク初心者などには苦手な人も多いだろう。

一方、クラッチレバーの操作自体がないMT-09 Y-AMTは、かなりゆっくりとした低速走行時でも、車体がギクシャクしづらいし、エンストの心配もない。とくにATモードにすれば、シフトチェンジもバイクが行ってくれるため、ライダーはアクセルとブレーキの操作のみに集中できる。ほぼ止まる寸前のような低い速度でも車体がギクシャクしなかったのは、エントリーユーザーなどにはありがたいといえるだろう。

MT-09 Y-AMTのエンジンまわり

MT-09 Y-AMTのエンジンまわり(筆者撮影)

以上がMT-09 Y-AMTに乗ってみた主な印象だ。前述のとおり、Y-AMTに近い最新システムには、ホンダE-クラッチもあり、それを搭載したCBR650R/CB650Rの2024年モデルが6月より発売中だ。筆者は、これらモデルにも試乗した経験があるので、ヤマハのMT-09 Y-AMTと比較した乗り味も紹介する。

まず、仕組みや操作方法の違い。ホンダE-クラッチは、クラッチレバーやシフトペダルを備えつつ、操作を自動化した新機構だ。発進、変速、停止などでクラッチレバーの操作は一切不要。ただし、変速操作にシフトペダルを使うことは、従来のバイクと同様となる。

また、ライダーがクラッチレバーを使った操作を行いたい場合は、レバーを握るだけで手動操作へ変更可能。さまざまなスキルや嗜好のライダーに対応している点は、ヤマハのY-AMTと同じだが、オーソドックスな変速方法も選べるのが大きく違う点だといえる。

ホンダとヤマハでの相違点

同様のセミオートマ機構を備える、ホンダのCB650R

同様のセミオートマ機構を備える、ホンダのCBR650R(写真:本田技研工業)

乗り味の違いは、まず、発進時の加速。CB650RなどのホンダE-クラッチ搭載車も、発進時の加速はかなりスムーズ。クラッチレバーを駆使し、手動の半クラッチ操作を行うよりも、さらに余裕ある加速を味わえる。とくに登り坂で停車し、再発進する際は、違いが顕著だ。通常は、リアブレーキを徐々にリリースしながら、半クラッチもうまく使わないと車体が後退する場合もある。そうしたシーンでも、ホンダE-クラッチ搭載車なら、不安なくスムーズに発進できるといえる。

ただし、スタートからの加速がより鋭いのはMT-09 Y-AMTのほうだ。これは、ホンダE-クラッチを搭載するCB650RやCBR650Rが648cc・4気筒エンジンなのに対し、MT-09 Y-AMTのエンジンは、より排気量の大きい888cc・3気筒を搭載する点も大きい。低い回転数から発生するトルクが太いなどで、発進時の加速にも余裕があるためもあるだろう。

ホンダE-クラッチの構造

ホンダE-クラッチの構造(写真:本田技研工業)

また、CB650RなどのホンダE-クラッチ搭載車では、3000rpm付近でクラッチが自動でつながったあと、エンジン回転が一瞬伸びにくくなる傾向がある。その点、MT-09 Y-AMTでは、アクセルを開けたぶん、エンジン回転がシャープに伸びる感じだ。前述のとおり、ヤマハのテストデータでは、0-400m加速で10.9秒というタイムを記録したというから、大型バイクらしいロケットスタートをより味わえるという点では、MT-09 Y-AMTに軍配が上がるだろう。

コーナーや直線の加速などでスポーティな走りをする際、シフト操作のしやすさは両者互角だろう。とくにホンダE-クラッチ搭載車の変速操作は、従来と同じシフトペダルでアップやダウンを行う形式。一般的なMT車に慣れているライダーが乗っても、違和感が少ない。

ちなみに、ホンダE-クラッチ搭載車は、シフトレバーこそあれど、シフトアップとダウンの両方で操作不要だ。また、シフトアップ時にアクセルを戻す必要もないし、シフトダウン時も、アクセルこそ戻すが、前後ブレーキをかけつつシフトペダルを踏み込めばよく、クラッチ操作は要らない。このあたりの操作は、シフトアップとシフトダウンの両方に対応するクイックシフターと同じで、素早いシフト操作を可能としている。

極低速域でのUターンで感じた差

MT-09 Y-AMTのエンジン

MT-09 Y-AMTのエンジン(筆者撮影)

ほかにも、MT-09 Y-AMTとホンダE-クラッチ搭載車では、5km/h以下の極低速でUターンするときに違いを感じた。ホンダE-クラッチ搭載車では、車体がややギクシャクし、バランスを崩しそうな場合もあり、手動の半クラッチを使ったほうがスムーズに走ることができるシーンもあったのだ。対して、MT-09 Y-AMTは、変速がフルオートになるATモードにしておけば極低速域でもかなり安心。変な挙動は一切出ず、アクセルとブレーキの操作などで、車体のバランスを取ることに集中できる。この点を考慮すると、より初心者ライダーにとってハードルが低いのは、MT-09 Y-AMTのほうだといえるかもしれない。

MT-09 Y-AMTの走行イメージ

MT-09 Y-AMTの走行イメージ(写真:ヤマハ発動機)

MT-09 Y-AMTの価格(税込み)は、136万4000円。ベースとなるスタンダードのMT-09の価格(税込み)が125万4000円なので、11万円のアップとなる。

ちなみに、ホンダE-クラッチ搭載車の価格(税込み)は、CBR650Rで115万5000円~118万8000円、CB650Rで108万9000円。スタンダード車の5万5000円~8万8000円高で、値上げ幅はこちらのほうが小さい。ただし、MT-09 Y-AMTは、例えば、コーナー進入時に、減速しながらシフトダウンする際、過度なエンジンブレーキなどを発生させないように、電子制御でエンジン回転数を最適化している。

一方、ホンダE-クラッチ搭載車は、減速時の過度なエンジンブレーキなどで後輪ホッピングを防ぐ手段として、アシスト&スリッパークラッチを採用。この機構は、スタンダード車にも備えているため、とくに追加されたものではない。つまり、より電子制御などの高度な機構を採用しているのは、MT-09 Y-AMTのほうだといえ、それが価格アップの差となっていることがうかがえる。

スポーツ走行がより身近な存在に

いずれにしろ、両システムは、クラッチなどの操作をイージーにすることで、より幅広いライダーがスポーツライディングを楽しめることが魅力。果たして、どちらのシステムをより多くのユーザーが選ぶのか、今後の市場動向が気になることころだ。

ちなみに、両システムは、どちらも既存のMT機構に追加で装着可能。つまり後付けできることも注目点だ。ホンダとヤマハでは、それぞれ独自の各システムを、今後、自社の他車種へ拡大することを公表している。Y-AMTやホンダE-クラッチが、これからどういったジャンルやモデルへ拡大されるのかも興味深い。

(平塚 直樹 : ライター&エディター)

ジャンルで探す